ホームレス支援を3年続ける夫妻が執筆し、「cakes」が「独創的な切り口が興味深い」として優秀賞を授賞した記事「ホームレスを3年取材し続けたら、意外な一面にびっくりした」。
この記事に対して、「ホームレスを見下している。見世物みたい」「なんでこの記事が優秀賞に…?」「人間以外の生物の観察記録のようだ」など、批判的な意見が相次いでいる。
・【映像】ホームレス取材記事が炎上...社会問題をどう伝える?
17日の『ABEMA Prime』では、今回の記事をどう受け止めたのか、話を聞いた。
■Twitterやnoteで自身の考えを投稿、批判も浴びたタレントでソフトウェアエンジニアの池澤あやか
「細かく見れば、確かに引っかかるポイントはあった。ただ、炎上するほどかと思うし、“上から目線だ”という意見についても、どこがそれに当たるのかは分からなかった。そもそもnoteは原石を発掘するような側面のあるメディアだし、cakesも本業がライターではないという人たちも参画して記事を書いている。言ってしまえば素人に近い人が書いているので、ときどき穴がある。また、SNSで意見が積み重なればいいが、ただ炎上しただけになると、メディアの人が謝罪し、記事取り下げなどの流れになり、結局はその話題をタブー化してしまうことに繋がるし、メディアの人はこの話題には触れないでおこうという意識の方が働いてしまうことになる。それよりは色々な記事がリリースされることの方が大事だと感じている」。
「世の中には真面目にホームレス問題に向き合っている記事が結構出ていると思う。しかしそういうものは多くの人に手に取ってもらって問題を知ってもらうのはハードルが高い。こういう側面はダメ、とタブー化するよりは、建築としてどうなのか、どういう知恵で生きているのかといった、もう少し多様な視点で光が当たるようになると、社会問題として多くの人が関心を持つようになると思う」。
■cakesで連載を持つロンドン在住の評論家・“めいろま”こと谷本真由美氏
「セミプロのライターの夫婦が素直な形で書いた記事だと思った。あまり悪い印象はない。私は本業で政策レポートなど、何百ページのもの、非常に堅いものを 書いてきた。一方でcakesやnoteなどでは非常に軽い記事も書いている。実はうちの子どももスマホやタブレットを使ってcakesの記事を見たりしている。オーディエンスによって書き分けるのは悪いことではないと思うし、今回の記事が優秀賞に選ばれたというのも、今までの社会問題を扱った記事に比べてライトで、素直な目線が反映されているので、そこが面白いと評価されたのではないだろうか。
イギリスで放送された生活保護の人を追ったドキュメンタリーでは、途中で窃盗に行ってしまったり、ドラッグを始めてしまったりする様子も流された。しかし、それが現実だ、あるがままの姿だということで批判は受けなかった。今回の記事に対して様々な人からカウンターアンサーや別の視点を提供されるのは非常にインターネット的だ。そこをとっかかりにして若い人たちに興味を持ってもらう。炎上するのはあまり良いことではないかもしれないが、議論が起こるのは非常にいいことだと思し、読んだ人の中から後に官僚になったり、政治家になったりする人が出てきて、社会政策や福祉政策を考えるときに活かされることもあると思う」。
■ホームレス支援の現場にも詳しいリディラバ代表の安部敏樹氏
「僕が手掛けている、社会問題の現場に行き、光を当てようという旅行も、言ってみれば“見世物にする”という要素が入ってしまうと思うし、その批判は甘んじて受ける。それでも、なぜそこに踏み込んでいくのか、世に出していくのかと言えば、社会問題は当事者だけでは解決ができないからだ。多くの人が関心を持って議論することで初めて構図が変わってくる。その意味では、当事者以外が関わりやすい仕組みを作らなければいけない。一方で、例えば戦争が起きている街にも日常の部分はある。怖い思いをしながらも、爆弾が降らないうちにということで、いわば“時短レシピ”で料理を作っているかもしれない。だからといって、料理のセンスが上がっているから戦場も悪くないよね、という取り上げ方はしないはずだ。それはポジティブに取り上げることで、背景にある社会構造を是認する方に加担してしまう可能性があるからだ。
今回、取材をした人たち、優秀賞を与えた編集の人たちには、そういう目線、リテラシーが必要だったと思う。ただ、取材した人たちが何度も現場に足を運び、当事者たちとしても嫌ではない書き方をしていたことは確かだ。その意味では、他のメディアの扱い方よりも、むしろ当事者側の沿ったものを作っていたともいえると思う。大切なのは、個人や個別の事象と、背景にある構造を捉えることは全く別物ということ。みんなが幸せに暮らせるような社会にするためにも、今回のことが炎上で終わってしまい、何か声を上げるのはすごく面倒くさいことで、損をしてしまうと皆が思ってしまうのは嫌だ。ここから多くの人が学べるような形になったらいい。社会には弱者を作ってしまう仕組みが存在するし、それをそのまま認めてよいというものではないと思う。それを留保した上で、面白いコンテンツをたくさん作ってほしい」。
■ジャーナリストの佐々木俊尚氏
「新聞であれば、この記事は通らなかったと思う。新聞の世界では、ホームレスというのは徹底的にかわいそうな弱者として描かなければならないからだ。しかし、そのように描き切ってしまうことに対して、僕は逆にステレオタイプの上から目線を感じる。
もちろん社会から排除してはならないし、包摂されなければいけない存在だ。ただ、保護だけが包摂ではないし、全員を施設に入れてしまえばいいというわけではない。それぞれに事情があり、中には“俺はここで暮らしたいんだ”という人も確かにいるはずだ。中には楽しんでいる人がいても構わない。そういう存在も含めて認めることは、社会的弱者としてかわいそうだと思うこととはイコールではない。そして、我々の社会から逸脱しているからこそ面白い、惹かれるということもあるはずだ。例えばこのライターが、“北京の端の方に住んでいるホームレスを訪問したらこんなにおいしい中華料理を作っていた”という記事であれば炎上していただろうか。どこにその境目はあるのか。結局、自分の中の枠組みに弱者を押し留めようとする方が、ずっとステレオタイプで上から目線だと思うずっとステレオタイプで上から目線だと思う。
インターネットのいいところは、いろんな視点がたくさんあるところだ。そして、インターネットのコンテンツは単体では存在しない。新聞やテレビのようなパッケージではなく、反響などの二次的な作用も含まれている。例えば安部さんが書いた補足記事など、様々な見方が積み重なっていくことが大切で、そこまでネガティブなマイナス合戦になってしまえば不健全以外のなにものでもない。ちゃんと包摂してあげつつ、個人がブログなどで様々なことを書くのはOK。それまで認めないとなると、つまらない、しょうもない記事が量産されるだけで、メディアは面白くなくなる」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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