10万人に1人といわれる難病を乗り越え、323日ぶりにピッチに電撃復帰を果たした選手が、試合終了直後に流した涙に多くの感動と祝福の声が寄せられている。
ペスカドーラ町田のピレス・イゴールは今年1月、10万人に1人の難病「ギラン・バレー症候群」と診断された。なんとか練習に復帰する状態にまで回復したが、9月の開幕戦の直前で骨折。11月15日に行われたリーグ戦で323日ぶりの復帰を果たした。
試合後、イゴールは涙を流し支えてくれた方々に感謝を示した。これに対しファンやサポーターからも「イゴールお帰りなさい!」など、温かい声が寄せられた。
■難病から323日ぶりに復帰 ファンやサポーターもエール
「絶対回復して、また大好きなフットサルができるように頑張ります。そしてフットサルだけではなく、息子をまた抱っこして、いつか一緒に元気に走れるように頑張ります。またピッチで会えるまで、どうぞ見守っていてください」
今年1月8日、イゴールは自身のインスタグラムにそう綴った。手足や頭に今まで感じたことのない痺れがあり、それが何日か続いていたことで病院へ行くと、およそ10万人に1人の割合で発症するといわれている難病「ギラン・バレー症候群」と診断され、即入院を余儀なくされた。
「なんで自分が……。しかも、このタイミングで」
ちょうどこのときは、9月に開催予定だったリトアニアW杯のアジア予選(AFCアジア選手権)を2月に控えていた大事な時期。本大会すら間に合わないかもしれない現実をイゴールは当初、受け入れられずにいた。
しかし、そんなイゴールを勇気づけようとSNSには多くのコメントが寄せられた。さらにはFリーグ主導のもと、大きな弾幕に寄せ書きができる場が試合会場に設けられ、入院中の本人へと届けられた。
もう一つ、イゴールを支えたのは同じ病気を発症していた町田の育成組織の選手の存在だった。その選手から復帰までの道のりを聞くことで、元気づけられた。
入院中は9キロも痩せ、フットサルどころか、『もう息子と走り回ったり遊んだりすることができなくなる』と思っていたが、多くの後押しに救われながら日常生活を取り戻すべく努めていった。リハビリは手すりに掴まって歩くところから始まった。早期発見だったことも幸いし、3月10日に約2カ月の入院生活を終えた。
6月にはチームのトレーニングにも復帰。発症から7カ月後の8月18日、日本代表候補トレーニングキャンプにも招集された。アジア選手権もW杯も新型コロナウイルスの影響によって1年の延期になってしまっていたが、イゴールにとってはそれが幸いした。
ただ一方、本人は「世界中でたくさんの人が亡くなっていて、すごく悔しい。自分にチャンスがあることは間違いないですが、うれしいという気持ちではありません」とも語った。それでも「120%の力を出す」と、代表活動と9月5日の開幕戦へ向けて、より一層気合が入ったことは確かだった。
しかし、イゴールは8月31日の練習中に負傷。右足第二中足骨を骨折し、目の前まで近づいていたFリーグのピッチが遠のいた。それでも心折れずに再びリハビリに打ち込んだイゴールは、11月15日のバルドラール浦安戦でついにベンチ入り。昨年12月28日以来、約11カ月、日数にして323日ぶりのことだった。
その試合に先発で出場したのは、イゴールが不在の間にチャンスを掴み勢いに乗っていた若手の藤原幸紀。しかし第2ピリオド28分にエリア外でハンドをしたと判定され、藤原は一発退場。急きょイゴールに出番が回ってきた。
藤原が退場したことで、町田は1人少ない不利な状況。さらには長い間公式戦に出場していなかったことで試合感もないはずだったが、ビッグセーブを連発。その度に会場からは大きな拍手が起きた。
そのパフォーマンスは、難病を患い普通の生活に戻るのも困難かもしれなかった選手とは思えないものだった。そして人数が補充される2分間を耐えしのぎ、試合終了まで無失点を貫いた。
試合の終了を告げる長いブザーが鳴ると、イゴールは込み上げてくる涙をこらえきれずにいた。この試合の解説を務めていた元チームメートの横江怜氏も「ちょっと危ないです……」ともらい泣きしそうに。試合を放送したABEMAのコメント欄やSNSにも「イゴールお帰りなさい!」「イゴールおめでとう!」と、多くの祝福の言葉が送られた。
イゴールは、Fリーグの公式SNSを通じて「入院したときにサポーターからいっぱいメッセージをもらってとても力が入りました。本当に、本当に、心からありがとうございます」と復帰を支えた多くの方へ、深々とお辞儀をして感謝を伝えた。
難病とケガを乗り越え、復帰後の第一歩を踏み出すことができたイゴール。頼もしい町田の守護神が、ようやくピッチに戻ってきた。
文・舞野隼大(SAL編集部)
写真/ASV PESCADOLA MACHIDA