またしても“死闘”だった。ノアのビッグマッチ、11.22横浜武道館大会のメインイベント、GHCヘビー級選手権試合である。
チャンピオン・潮崎豪に挑んだのは中嶋勝彦。両者は名タッグ・AXIZとして活躍していたが、8月に中嶋が突然の裏切り。チーム解散とともに因縁が生まれていた。その後、中嶋はリーグ戦N-1 VICTORYで優勝。王座挑戦権を獲得している。
今回の対決はいわば遺恨マッチ。元タッグパートナー対決であり同期対決でもある。しかし試合が進むうちに、そうした“背景”は薄れていった。試合の内容、その激しさが突き抜けていたのだ。
潮崎は誰が相手でも、その右腕で勝ち進んできた。多くの選手が業界トップの威力だというチョップ、そしてラリアット。中嶋はその右腕を集中攻撃していく。チョップを放った潮崎が苦痛に顔を歪める場面が何度もあった。
一方、潮崎はエプロンからリング下に投げ捨てる超荒技・断崖式キャプチュードを序盤から披露。そして痛みを振り切るように、強引にチョップを放っていく。右のラリアットがかわされると左を叩き込んだ。
クライマックスの一つは20分すぎ。潮崎のチョップと中嶋のミドルキック、互いのファイトスタイルの根底をなす技の打ち合いだ。どちらも苦悶の表情を浮かべ、ダウン寸前になりながら引き下がらない。「こい!」と挑発しあうシーンもあった。それは挑発というより、互いを鼓舞して限界値を高め合っているようでもあった。
果てしない打ち合いは、2005年のノア・東京ドーム大会における小橋建太vs佐々木健介を思い起こさせた。潮崎は若手時代に小橋の付き人を務め、中嶋は健介オフィスに所属していた。この激しい攻防はお互いの“血筋”のなせる業だったのかもしれない。
30分経過、そして40分経過のアナウンスがあっという間に感じられる。中嶋のハイキックで反失神状態に追い込まれた潮崎だが、ヴァーティカルスパイクもカウント2で返すと反撃へ。ムーンサルト・プレスから豪腕ラリアットをこれでもかと打ち込んでいく。一発でもフィニッシュになりうる技を2発、3発。そして4発目はサポーターを外してショートレンジで放っていった。42分35秒、究極レベルのタフマッチだった。
「声援に感謝します。本当にありがとう」
5度目の防衛に成功したチャンピオンは、リング上からファンに語りかけた。このご時勢、会場での声を出しての応援はNGなのだが、潮崎はインタビュースペースでこう語っている。
「声援、あったでしょ。俺には聞こえましたよ。みんなの声が」
これぞチャンピオン、という言葉だ。
1月のタイトル奪取以降、30分の睨み合いを展開した藤田和之戦、拳王との60分フルタイムドローとすべてのタイトルマッチで特大のインパクトを残してきた潮崎。まさに年間MVP級の活躍と言っていい。その総仕上げとなる次の防衛戦では、挑戦者にノアの“顔”の一人、生え抜きのベテランである杉浦貴を迎えることになった。
「ずっと待ってたよ」
杉浦からの挑戦表明に、潮崎はそう答えた。
「ノア20周年の2020年、その最後にGHCヘビー級をかけて闘うにふさわしい相手。俺にとってもノアにとっても最高の2020年で締め括りたい」
期待値は限りなく高まっている。しかし今の潮崎なら、それを超えてくれるだろうという予感も同時にある。かつてはノアファンにもどかしさを感じさせた潮崎だが、ノア20周年とともにとてつもない存在になった。
文/橋本宗洋
写真/プロレスリング・ノア