現在のノア・GHCタッグ王者コンビはベテランながらフレッシュなコンビだ。杉浦貴50歳、パートナーは桜庭和志51歳。どちらもキャリアは長いが、この2人が組んでタッグベルトを巻く日が来ることなど、誰も予想していなかったはずだ。
桜庭だけでなく、杉浦率いるユニット「杉浦軍」には、参謀役であるNOSAWA論外の交渉手腕もあってか実力者が次々と集まってくる。桜庭に加え藤田和之、ケンドー・カシン、鈴木秀樹…。レスリングをベースとする総合格闘技参戦経験者が多く、実績を数え上げればキリがない。
ちなみに加入の条件は愛犬家であること。杉浦家の愛犬をモチーフにしたTシャツもヒットした。なぜ「犬」なのか。始まりは杉浦のマイクだった。“反体制派”の拳王が会社に従う「犬」と他の選手たちを批判すると、彼はこう答えたのだ。
「ノアのプロレスが広まるためなら、俺は会社の犬でいい」
ノア生え抜き、団体の浮き沈みをすべて経験し、その最前線で闘ってきたからこその言葉だ。単にビッグネームを集めたというだけでなく、そこに“芯”がある。それでいて悪ノリも得意とするところ。夏あたりから、杉浦は急に「I am チョーノ! ガッデム!」と蝶野正洋ばりの決めポーズを取り出した。GHCヘビー級チャンピオンが「I am NOAH」を標榜し、対抗して丸藤正道が「I am REAL NOAH」と言ったことを受けて「I amっていったら俺の中ではチョーノだから」という理由なのだった。
が、噂が噂を呼んだといえばいいのか、11月22日の横浜武道館大会に本物の蝶野正洋が登場した。杉浦軍の「最高顧問」に就任したという。試合は杉浦&桜庭が丸藤正道&船木誠勝を下しタッグ王座防衛。桜庭は苦悶の表情を浮かべながら丸藤とチョップの打ち合いを展開するなど“ノアのプロレス”に対応。その上で丸藤に変型のアキレス腱固めを極めた。
蝶野のバックアップでさらに勢力を増した杉浦軍は、大会メイン後にも動いた。杉浦が潮崎豪のGHCヘビー級王座、桜庭が拳王のGHCナショナル王座に挑戦することになったのだ。
「I am NOAHは俺に勝ってから言え。俺も今年20周年なんだよ」
今年、ノアは旗揚げ20周年。同じ年に団体最初の新人としてデビューしたのが杉浦だった。団体と自身の20周年。杉浦は何かを成し遂げなければという思いを常に口にしていた。そんな杉浦は、チャンピオン・潮崎にとっても「ずっと待っていた相手」だと言う。
タイトルマッチが行われるのは12月6日、今年最後のビッグマッチとなる代々木第二体育館大会だ。拳王vs桜庭もこの大会で実施。もしどちらも挑戦者が勝てば、杉浦軍がシングル、タッグとヘビー級タイトル総取りとなる。そうなってもおかしくないだけの実力、勢いが2人にあることは誰も否定できないだろう。
12月29日には、杉浦軍興行の第2回も開催される(後楽園ホール)。タイトルは『犬ども全員集合!2』。そのリングで、50歳のGHCヘビー級チャンピオンが見られるかもしれない。
文/橋本宗洋
写真/プロレスリング・ノア