スーパーの床に落ちていた天ぷらを踏んで転倒しケガをした客が損害賠償を求めた裁判で、東京地裁はスーパー大手の「サミット」におよそ58万円の支払いを命じた。
【映像】若新雄純氏「判決よりも訴訟に疑問」(トークフルver.)
判決によると原告の男性は2018年、東京・練馬区のスーパー「サミット」で、床に落ちていたかぼちゃの天ぷらを踏んで転倒し、靭帯損傷などのケガをした。店は男性に6万円余りを支払ったが、男性はおよそ140万円の損害賠償を求めて提訴。
8日の判決で東京地裁は「天ぷらを落としたのは他の利用客だった」とした一方で「混み合う時間帯で事故が発生する恐れは大きかったにもかかわらず従業員が安全確認を行っていた形跡はなかった」などと指摘。サミットにおよそ58万円の支払いを命じた。
このニュースに慶応大学特任准教授などを務めるプロデューサーの若新雄純氏は「ネットには『この判決はひどいんじゃないか』というコメントがけっこうあって、僕も最初は判決に疑問があった。ただ、わざわざ訴訟されて、司法の場で問題になった上ですごく厳密に裁こうとすると、裁判所の判決がおかしいとは言い切れない」と見解を示す。
「レジからも死角だったそうだし、お店に悪意はなかったと思うが、本当に全く過失はなかったかどうか問われると、人がたくさん通るところに滑りやすい物が落ちていて放置されていたら、厳密には、注意義務があった。この状況ははっきり言ってお店はただの不運。でも、裁判になったら法に照らし合わせて、注意義務違反があったのかどうかが焦点になるのだろう」(以下、若新雄純氏)
裁判員は天ぷらを落としたのは従業員ではなく、利用客だったと認定したが、事故当時、店内は混み合っており、従業員による安全確認など「物が落下した状況が生じないようにすべき義務を負っていた」と指摘。サミットにおよそ58万円の支払いを命じる結果になった。その上で若新氏は「本来なら、当事者同士で話し合えば済む問題だったのではないか」と疑問を投げかける。
「裁判になった以上、何かしら白黒つける結論が出てしまうが、そもそも、訴訟する必要があったのかどうか。学校でも、子どもたち同士で喧嘩して、子どもたち同士で話し合ったり謝ったりすればすむことがほとんど。でも、誰かが先生を呼ぶと『あなたたちの問題だから先生は知りません』と言いづらい。問題化した以上は、一定の客観的なジャッジを出さないといけなくなる」
「今回の件もまずスーパーから男性に6万円を払っている。つまり、お店側はちゃんと話し合って謝罪もするという姿勢を見せたはず。悪意もなかっただろう。にも関わらず、訴訟までするというのは、訴える側がやりすぎだったのではないかと感じる。もちろん訴訟する自由や権利はあって、それを否定するつもりはない。話し合いに応じてもらえないとか、当事者同士ではどうしても折り合いがつかないときに司法の力が必要になる。しかし、人間社会では過失やすれ違いは当たり前のことであり、何もかも訴訟になっていたら居心地の悪い社会になりそうだ。僕個人の意見だが、判決よりも、訴訟にするべき問題だったかどうかに疑問がある」
店舗が負う安全管理の義務。訴訟の前に、どれだけ当事者同士が歩み寄れるかは社会の「居心地」にもつながりそうだ。
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