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 あなたの考えや行動は、本当にあなた自身が決めたものだと言えるだろうか。何気ない普段の生活が、無意識のうちに誰かにコントロールされていたら…。

 「自分で考えているようで、誰かが言った通りになっていく本当に怖い感覚」

 こう話すA子さん。実は彼女、とある組織から思考を操作されていたという。

【映像】“マインドコントロール”被害者語る体験談

 「全部今までの概念が粉々に打ち砕かれて、新しい概念を植え付けられようとしているのがなんとなく分かっていたけど、『そっちに行かないと生きていけないのではないか』みたいな気持ちになってしまった。マインドコントロールは本当に怖い。本当に自然に書き換わっていく」

 「マインドコントロール」とは、人の心にいつの間にか忍び込み、その潜在意識や感情などを操る心理操作のテクニック。様々な分野で用いられ、占い師やスピリチュアルカウンセラーなど芸能ニュースで度々話題になるものから、オウム真理教など一部のカルト的な宗教やネズミ講などにも悪用される。個人の思考を飛び越え、時に社会をも大きく変えてしまう力があると言われている。

「勧誘されるのは変わりたいという願望が強い時」 身近に潜む“マインドコントロール” SNS上で作られる“合意”の危険性も
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 A子さんが心を操られていたのは悪質なマルチ商法の組織だ。事の発端はイベントで偶然知り合った1人の女性。いつもと変わらない日常の中にこそ、その罠は潜んでいた。

 「連絡は2週間に1回くらい来る。2人でお茶に行ったり、飲み会に誘われたりして、完全に信頼していた」

 ある時、A子さんは会社でパワハラを受ける。思い悩むA子さんの話を親身に聞いてくれたその女性は、「悩みを解決してくれる人がいる」とある人の紹介を持ちかけてきた。A子さんは藁をも掴む思でそれを承諾する。

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 連れて行かれたタワーマンションで紹介された人物は、あるビジネスで年収数億円を稼ぎ、周りから“師匠”と呼ばれる男だった。「A子さん本当はどうなりたいの?会社員のままで本当にいいの?絶対A子さんならできるよ」と、男と仲間たちは悩みを抱えるA子さんを鼓舞。自らの成功体験を熱く語り、「組織に加わればあなたも成功できる」と甘い言葉を囁いてきた。

 そうして具体的なビジネス内容すら知らないまま組織に入会してしまったA子さん。専門家はこのような心理操作こそ、マインドコントロールの常套手段だと指摘する。

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 「一番大事なことに“タイミング”がある。何かつまずいた時が一番危ない。自分の生き方に不安を感じていたり、何らかの否定的な感情を抱いてしまうタイミング。そういう時に近寄って来られると、人はなかなか逃げられない。操られている認識がないのに操られているので、大抵の場合『あなたはマインドコントロールされている』と忠告しても否定する」(立正大学心理学部教授の西田公昭氏)

 A子さんもまた、自分がマインドコントロールされているという自覚が一切なかった。そんな彼女の状態をいいことに、組織は次々と牙をむいていく。

 「将来お金持ちになった時、大金を動かしても怖気づかない心を手に入れられるように、月15万円自己投資しようと言われた。それがオーガニックのシャンプーとか美容液とかサプリメントを15万円のセットにしたもので、結構強制的な支出を促された」

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 それこそが、組織の真の目的だ。この高額商品を毎月強制的に売りつけてきた。さらに、組織拡大を目指した勧誘活動もさせられたという。

 その後、ようやく周囲の助言や後押しもあり組織を退会した。しかし、しばらくの間は後遺症に悩まされた。

 「その後、マインドコントロールを解くのが本当に大変だった。“そこにいないと成功できないのではないか”という思いが強い。この先どうしようと思ったり、本当に抜けて良かったのかなとか。コントロールが強くて強くて」

 A子さんのエピソードは一昔前の話のように思えるが、これはごく最近の出来事だ。さらに今、コロナ禍の不安や孤独感に目をつけた悪質な手口も急増しているという。

■「勧誘されるのは大体、自分が変わりたいという願望が強い時」

 A子さんが勧誘された組織への入会の条件として、「一人暮らしをしなさい」「毎週土曜日曜は空けなさい」というものがあったという。西田氏は、これらは一般的な手法だと指摘する。

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 「まず人間関係を断ち切って孤立した状態にして、情報をコントロールすること。もう1つは、土日まで返上していて体力的にキツかったと思う。疲労感が強まると当然思考力が落ちて、どうでもよくなってくる。オフの時間すべてがコントロールされていて、『あれしなさい』『これしなさい』と指示に従うことに慣れさせていく。そうすることによって、自分で判断して考えて行動するということがなかなかできなくなっていく。人間は習慣がものすごく影響する」

 A子さんが勧誘する側に回ったことについて、友人からは「ボロクソに言われた」というが、その組織からは「過去は生ゴミ。だから捨てろ」と言われていた。西田氏は、その人が問題を抱えるタイミングを見計らうことも常套手段だと指摘する。

 「勧誘されるのは大体、自分が変わりたいという願望が強い時だ。今までの人生を振り返って何か気になるところがあるわけで、とりあえず変えなければいけないと思っている。そういう時にアドバイスを受けているから、“従ってみよう”“嫌ならやめればいい”という気楽な気持ちで、とにかく今までの行動パターンと違うことをしようとする。人間関係すべてをガラっと変えるなんてできず、古い関係の人たちの信用度を落としたりする。とにかく新しいものにチャレンジしようという気持ちを煽り立ててくるから、今までの友達からの忠告はとりあえず聞かないでおこうという態度をとってしまう」

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 では、マインドコントロールから身を守るために予防的なアプローチはあるのか。

 「まずは、世の中にそういう世界があると知ることが大事。『こうしよう』と言うのではなくて、考える材料を作ってあげる。現実を知らなければ対処方法がなく、途中で止められるのは知識があるからだ。例えばDVというのも、この人が実はDVをする人なんだという知識。ブラック企業も、表面的にはまともな会社に見せながら、実は搾取するような会社だというようなこと。知らずに入ってしまうのは一番よくあるパターンだ」

 しかし、周囲の声が届かないほど本人がのめり込んでしまった場合、下手に対処すると逆効果になってしまうという。

 「介入する側にはいろんなことを学んでもらわないと、適当にやってしまうと逆効果だったりする。いろいろなコミュニケーション技法がある中で、相手側の手口などを全部知った上で、そこに隠されている人を支配する手法みたいなものを読み解いて説明してあげるということをやらなければいけない。頭ごなしにいくのは絶対ダメだ。時間もかかればものすごい労力がかかるので、下手な人がやったら失敗する」

■SNS上で“合意”は簡単に作り上げられる?

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 近年のSNSの浸透はマインドコントロールに影響を及ぼしているのか。西田氏は「なかなか(関係を)調べにくくなったということが大きい。中間を抜いて直接勧誘されてしまうので、周りが気づかない。家族や友達といったサポートできる人が知らない間に繋がってしまっているということがあるので、手遅れが多い」と話す。

 ネットやSNSに潜む危険性として、「個人情報が拾われやすい」「なりすましが可能に」「誰でも情報発信ができるため真偽の見極めが困難」「“いいね”の数で正しいと錯覚」「黎明期ゆえに免疫がない」ことなどがあげられる。また、上司やその側近から“いいね(承認)”を得ることで、部下のやる気と忠誠心があがる「Facebook“いいね”式マインドコントロール」があるという。

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 西田氏は、SNS上でみんなの“合意”を作り上げることは簡単だとし、「本人がフォローしている人たちがたくさん“いいね”を押せば、みんなが賛同してくれていると思うし、それを作り上げるというのは簡単に仕組める。上司や立派だと思っている方々が押してくれると、自分は受け入れられたと思うし、もっと頑張ろうと思う気持ちができる。そうやって信頼していき、依存していく。私たちはそれ(手法)を乗り越えていかなくてはいけない。彼らは一日中・一年中考えているわけで、相手の手口が出てこないと防御策は作れない。後追いだ」と警鐘を鳴らした。

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