18年前に消えた「通称使用法案」を再提出…“慎重派”高市早苗氏に聞く「選択的夫婦別姓」
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 政府の男女共同参画基本計画案の改定案について自民党が開いた「選択的夫婦別姓」に関する会合。

 党女性活躍推進特別委員会の森まさこ委員長は「後退しないよう、皆さんの意見を十分に入れて作らせていただいた」と述べたものの、取りまとめられた修正案からは「選択的夫婦別姓」というワードが消え、「夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方に関し、さらなる検討を進める」と、5年前よりも後退する形になっている。

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 婚姻によって名字が変わることで女性のキャリアが途絶えることなどから、名字を選択できるようにするための制度。ただ、生まれてきた子どもの名字はどうするのか、といった課題から、前向きな政府案に対して自民党内から反発の声が次々上がっていた。

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■「意見が分かれた点が柔軟な書き方になったということだろう」

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 今回の修正案について、15日の『ABEMA Prime』に出演した高市早苗・元政調会長は次のように説明する。

 「政府が作る基本計画は、だいたい向こう5年間にわたって内閣を拘束するもので、内閣が閣議決定をして法律案を出す場合、先に与党内で審査が行われることになっている。18年前にも同じ議論があったが、当時は旧姓を通称で使うことですら反対だというおじさん議員がいっぱいいたし、私が提出した旧姓を通称で使いやすくする法律案も潰されてしまった。しかし今回は旧姓を通称として使うことを広めるという点については誰も反対しなかったし、基本計画に書きこんでも政府は困らない。一方で、戸籍まで夫婦・親子の氏が違ってしまうことについては意見が分かれてしまったので、柔軟な書き方になったということだろう。しかし、例えば最高裁がそうした点を定めた戸籍法や民法について違憲の判断を示せば、有無を言わさず変えなくてはいけない」と説明する。

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 「政府案では夫婦別姓が不都合になる具体例が列挙されていたが、マイナンバーカード、パスポート、免許証、住民票、印鑑証明は併記可能になっているし、健康保険証は来年3月からマイナンバーカードでも使えるということになるので、これも併記も使えるようになる。さらに税理士・弁護士などの士業、医師・看護師といった“師”の付く専門職も、ほとんどが旧姓使用可能になっているので、社会生活上、何か不便を感じるということはほぼないと思う」。

■「現在の法体系の中では、“子の氏の安定性”が心配」

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 では、総務大臣の経験があり、選択的夫婦別姓の導入に慎重な立場を取る高市氏の考えはどのようなものなのだろうか。

 高市氏は「氏が違う人同士が同居するケースも増えているだろうし、その意味では“住民票を同じところに置いている”という意味での家族の概念はずいぶん変わってきていると思う。ただ現在の法体系では、戸籍上の家族は婚姻をした夫婦と未婚の子どもであり、その子どもが結婚した場合、また新たな戸籍を作って新たにスタートされる、その戸籍上で統一した名前が氏だ。これらの法体系の整理も非常に大事になってくると思う」と指摘する。

 「私も結婚していた時期があり、当時の戸籍名は“山本早苗”、そして通称名が“高市早苗”だった。年賀状を頂く際に“山本早苗様”と書かれることもあったが、戸籍上は山本早苗だから全く嫌な気はしかった。反対に“高市早苗様”で来ても同様だ。また、私が離婚し、戸籍上も通称も高市早苗になったことを他人に言わなかった場合、“山本早苗”で送られてきた年賀状を見て嫌な気持ちがするかもしれない。民主党政権で選択的夫婦別姓の法律案を提出された千葉景子先生も、“名前を呼び間違えられると非常に嫌な気持ちがする”とおっしゃっていた。

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 また、平成29年の内閣府の世論調査を見ても、父母の氏が違う場合、子どもに対して良くない影響があるとお答えになった方が62.8%に上っている。私の考えでは、“子の氏の安定性”の心配がある。戸籍法では生まれてから14日以内に出生届を出さなくてはならず、同氏の夫婦の子どもであれば、出生と同時に氏が決まることになるが、別氏夫婦の場合、どちらの氏にするかの協議が整わない可能性がある。あるいは妊娠中に別居状態になって協議ができる状態でなくなってしまった場合はどうするのか、ということだ。離婚された後、子どもさんがどちらの氏を名乗っているか分からない場合もある。そういう時、企業なども含め、第三者は神経質になってしまうと思う」。

■「“高市早苗案”が認められれば、一挙に進む」

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 その上で高市氏は今月、自ら「18年前に書いて党内でポシャった法律案」と呼ぶ「通称使用法案」を再度提出している。

 「条文も全てできあがっていて、法制局の審査も済んでいたものだ。この案では、夫婦の氏が同一であることを維持しつつも、婚姻前の氏を通称として使える機会を確保することが目的だ。国、地方公共団体、事業者、その他公私の団体は、そのための必要な措置を講ずる責務を有するということにしている。ただ、18年前とは状況がずいぶん変わってもいる。例えば放射線技師や看護師、助産師など、医療関係の資格は戸籍の氏しかダメだ、旧姓を通称として使っちゃダメだということになっていたが、今ではOKだ。私は総務大臣に就任してすぐに省が関係する法令やガイドラインを調べてもらい、旧姓が使えないというものがあれば全て改めて欲しいと言ったし、先月にも国家資格を調べ直したところ、ほとんどが旧姓でいけるようになっていた。さらにこの1年の間に、1142件で旧姓を希望すれば使えるということになった。当選証書も次からは併記で出せるようになっている。その上でこの“高市早苗案”を国会でお認め頂き、法律になれば、各省の大臣が一斉に号令を掛けることになる。これは一挙に進むと思う」。

■「国民生活と全くかけ離れていて驚いた」

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 一方、「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の井田奈穂事務局長は自身の経験をベースに、「国民生活と全くかけ離れていて驚いた」と、高市氏の認識を厳しく批判、「400件のパブリックコメント、20代の若者たちが4日間で3万人分も集めた署名が無視される形になったのは非常に残念だ」と訴える。

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 「私のパスポートの場合、今の夫の姓、かっこで前の夫姓が書かれているが、これを持って海外に行くと、偽造パスポートではないかと疑われる。現地の免許証が取れなかった人、オーストラリアで“二重の氏は犯罪だ”と言われてしまった人もいる。私たちのメンバーの中には、病院で“医師は旧姓が使用できても臨床検査技師はできない”と言われた。仕事上の氏を奪われ、上司から夫の氏で呼ばれるという苦痛で心を病んで、退職に追い込まれた。北海道内の病院に問い合わせてみたが、できないというところが非常に多かった。そういう話は全国にあるし、それを知らなくて国会議員をやられているのか。

 また、私の場合、子どもたちは元々の名字を名乗り続けたいということで、私の離婚と再婚にあたって、家族の戸籍がバラバラになった。私は子どもたちと一緒の戸籍から出て、夫と2人の戸籍を作った。そして子どもたちは、筆頭者除籍の戸籍に残った。再び家族で一つの戸籍にする場合、本人が望まない、改姓の苦痛を強いることになる。夫婦の3分の1が離婚をし、新婚の夫婦の4分の1はどちらかが再婚の時代だ。連れ子再婚もよくある。あるいは互いに名字は変えないでおこうと決めて事実婚を選んだ夫婦は、同じ戸籍には入れない。そうした実態とはかけ離れた戸籍制度を残したいのか、子どもたちにも改姓を強制させるような戸籍に入れさせたいのか。ぜひ、旧姓を名乗りたくないという人に自分の名字でいられる選択肢をお願いします。」

■「国民はゆっくり進めることを望むのか、ラディカルに変えることを望むのか」

 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「なぜ別姓じゃいけないのか。逆に言えば、なぜ同姓じゃないといけないのか。これだけ多くの人が選択的夫婦別姓を求めているし、憲法を変えなければならないわけでもない。戸籍法を変えるということも可能なのではないか。戸籍上の違いが子どもに対して与える影響はそれほど大きいものだろうか」、両親が離婚しているという紗倉まな氏は「私の本名は父方の姓だが、母は旧姓を名乗っているので、親子が別姓で生きてきた。家族が様々な名字でいることが認められているというか、存在していることと、選択的夫婦別姓が認められないことは何が違うのだろうか」と疑問を呈した。

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 また、リディラバ代表の安部敏樹氏は「少子化の問題を考えれば、結婚をしないままでお子さんを産むという選択だってあっていいし、家族が大事だというのであれば、成人する時にどちらの親の名字を使おうかと考えてもらった方が、むしろ家族についてよく考えるきっかけになることもあるかもしれない。そう考えると、慎重派や反対派の言う“氏の安定性”というのは詭弁なのではないかと思う」と指摘。

 「法体系を変えるのが大変な中で前に進めるためには、ある種の妥協が必要だということもよくわかる。高市さんも、今の家族主義のようなものを維持したまま、ゆっくり進めていこうということだと思うし、それはそれで合理性もあると思う。ただその過程では、まさに井田さんや、井田さんがおっしゃるような人たちが犠牲になってしまうことも確かだ。だから国民としては、ゆっくり進めることを望むのか、ある程度はラディカルに変えることを望むのか。そういう選択肢が欲しいと思ったし、野党なども自民党に対する対案をもっと出していけばいいと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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