コンクリートの層が何重にも重ねられている、まるでお菓子作りのような風景。ドイツで建設中のこの住宅、実はこれまで医療やさまざまな分野で活用されてきた3Dプリンターによって作られている。
住宅は広さ380平方メートル、3階建てのアパートとなる予定で、3Dプリンターを使った建築物としてはヨーロッパ最大。建築会社の担当者は「ドイツには非常に高い建築基準がありますが、この技術は基準より劣ることはありません。私たちが建てる家は、非常にエネルギー効率が高く、遮音性にも優れています。もちろんデザイン面でも3Dプリンターを使えばイメージするすべての形を作ることができます」と語る。
厳格な建築基準をクリアした上、エネルギー効率も高く、イメージ通りに仕上がるという、欠点がまるで見当たらない3Dプリント住宅。実際に現場で作業している建築請負業者の声を聞いてみた。
「1階部分のプリントには2人で25時間かかりました。通常は5人がかりで5日かかるものです」
「今、建設業界は若者を取り込み、次世代への継承が課題になっています。私たちは3Dプリンターを使った建設プロジェクトで建設業界を変えたい。そして、こう言いたいんだ。我々が担っている建築作業はスタイリッシュで魅力的なものだとね!」
この3Dプリンターを使った建設プロジェクトで建設業界を変えたいと話す建築請負業者。今後、3Dプリント住宅がスタンダードになる日がくるのだろうか。ニュース番組「ABEMAヒルズ」に出演した建築家でモデルのサリー楓氏は「デジタルファブリケーションなどこれまでになかった新しい建物の作り方が現れている」と語る。
「3Dプリント住宅によって、これまで住宅を購入できなかった方々にも提供できるような、低価格の住宅が現れてくるのではないか。ただ、日本では地震や台風などの自然災害の被害が多く、建物本体には積極的に使用されていない。安全基準や法制度も追いついていないのが現状。一方で、被災地の仮設建築や、建築物の内装などでは活用が模索されていると思います」(以下、サリー楓氏)
「こういったデジタルパブリケーションの技術が発展してくると、作る技術も高まってくる。作る技術だけでなく、3Dスキャンのような読み取る技術も発達してきている。お寺などの建築物を見て『いいな』と思ったものを3Dスキャンして、データ上に保存したり3Dプリンターで再現したりすることが可能になってくるのではないか」
技術の発展により大型な建築物までコピーが可能になったことで「建物の著作権が守られないのでは?」という意見もある。日本では、物品の形状、模様、色彩や建築物の形状(内外装)などを創作者の財産として保護できる「意匠法」(2020年4月1日に改正)と呼ばれる法律があり、意匠法の第1号には「代官山 蔦屋書店」が登録されている。
「今まで著作権は文章やアート、印刷物など身近なスケールのものに適用されてきた。建築物のように大きくて複雑なものを真似することは難しく、建築の著作権は曖昧な領域だった。ところが、技術の発展によって建築物の“コピー&ペースト”が簡単になり、一定の権利を守る必要が出てきた。そういう経緯もあって、今年4月1日に意匠法の改正が起きたのだと思う」
すでに建築物の権利に絡んだ裁判事例もあるが、サリー氏は「法律の適用範囲は慎重に考えないといけない」と指摘する。
「あるコーヒー店の建物と似た別のコーヒー店が建設されたことで裁判になったり、あるアパレルのブティックで建物の外装が他の建築家の提案と酷似していたことが原因で裁判になったりといった事例があります。作り手、デザイナーの権利を法律で守ることによって、コピー建築の出現を防止することができるが、法律の適用範囲は慎重に考えないといけない。意匠法でいうと既に『代官山 蔦屋書店』では、大きい本棚や机の組み合わせまで登録されているが、どれほど厳しく適用するのか、その範囲を考えないと、新しいデザインへを生み出すための挑戦を阻害してしまったり、気づかないうちに著作権侵害してしまっていたりする」
権利を守りつつ、作り手のイノベーションを潰さないために、今後法律が技術の発展とどのように向き合っていくべきか、注目が集まっている。
(ABEMA/「ABEMAヒルズ」より)
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