12月19日のKrush後楽園ホール大会では、メインイベントとしてバンタム級王座決定トーナメント決勝が組まれた。新世代のスター候補たちの闘いだ。
この日の大会では、本戦前のプレリミナリーファイトでも注目の新鋭が出場していた。森川侑凜とNOZOMIの女子アトム級マッチだ。
9月のKHAOS女子トーナメントで優勝した森川はキャリア4戦。対するNOZOMIはこれが2戦目の16歳だ。まだ新人ではあるが、この階級では菅原美優が6戦目でベルトを巻いており、この試合の勝者もトップ戦線入りを期待されていた。
ゴングか鳴り、期待に応えてみせたのはNOZOMIだった。フットワークを使いながら前蹴りを突き刺し、パンチも伸びる。特に「強化してきた」という左フックがよく当たった。終盤にはパンチの連打も見せて判定3-0。ジャッジ3者とも30-27という採点で、つまり全ラウンドNOZOMIが支配したということだ。
それでも試合後の高校1年生は「負けた気分です」とうなだれた。戦績で自分より上の選手に勝ったのだが、内容が気に入らないらしい。
「もっときれいに勝ちたかったです。相手のペースに呑まれてしまったというか、相手は気持ちが強くて前に出てきたので、下がったら負けだと思って泥試合になってしまって」
前半の動きを見る限り、NOZOMIはしっかり距離をコントロールして闘うタイプだ。だが森川は劣勢の中でも前に出た。そこでNOZOMIも闘い方を変えざるを得なかったわけだ。
「カウンターを合わせようとか、タイミングを見て、とかやってたら負けるなと。映像を見たら自分のほうが上だな、余裕で勝てるなと思ったんですけど...気持ちって大事ですね(苦笑)。今日は技術で勝てましたけど、気持ちは相手が上でした」
自分自身が強気だからこそ、相手の気持ちに合わせてしまったのが悔しい。試合前半には効果的にヒットしていた前蹴りが、後半には見られなくなった。打ち合いにのめり込んでしまったということか。NOZOMIの説明はこうだ。
「パンチをメインに練習してきたので、前蹴りばかりで逃げるのは悔しくて。打ち合って勝ちたかったです」
小学校低学年でたまたま見た吉田沙保里のレスリングの試合に衝撃を受け、自分も強くなりたいと始めたのがテコンドーだった。
「でもテコンドーはポイント制なのが合わないなって思ったんですよ。殴り合って倒すのがいいなって。それでキックボクシングを始めました」
以来、放課後はひたすら練習。同級生が遊びに出かけても自分は道場に向かった。
「部活をやりたいと思ったこともないし、学校より格闘技のほうが楽しいので」
今の憧れはK-1女子王者のKANA。目標は「高校生のうちにKrushのベルトを巻くこと」だ。だから「負けたら終わりだと思ってやってます」。
“格闘技の聖地”後楽園での試合に緊張して前日は眠れなかったと言うあたりは初々しい新人。しかし目標が高いから、勝ったという結果だけでは喜べない。
強気で勝気で志が高い。出世する選手の大事な条件だ。高校生王者が誕生する可能性は十分にある。次戦はさらに手強い相手との対戦になるはずだが、その時にはNOZOMIの実力もさらに上がっているだろう。
文/橋本宗洋