「色覚異常」を抱える人たちの悩み…「見え方の幅と思っていただければ」旧来のままの簡易検査の復活に疑問も
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 「白と薄いピンク色の色鉛筆を並べられて“どっちで塗りますか”と言われたら、間違う可能性がある」。セイジさん(仮名・25)は、色の見え方が通常の人と違って見える先天的な「色覚異常」を抱えている。セイジさんが幼稚園の時に描いた親の似顔絵を見てみる、唇が緑色に塗られているのが分かる。

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 他人との見え方の違いに気づいたのは、かつて小学校で一斉に実施されていた簡易な「色覚検査」だった。「みんなが青や紺色で塗っているところを、僕は紫っぽい色で塗っていたことなどがあって、“なんか色使いが独特だよね”とは言われていた。でも、色覚異常だとは思っていなかった」。

 日本においては、男性で20人に1人、女性で500人に1人の割合で現れるとされる色覚異常だが、今のとこと治療方法はない。それゆえ、夢や目標を諦めざるを得ない場合もある。

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 「遠くにある黄色と赤の違いが分かりにくくなってしまう時がある。あるいは肉を焼く時、少し焼き過ぎてしまう。ミディアムにと言われると、少し厳しいかもしれない」というセイジさんも、特技の英語を活かせる航空管制官に憧れたが、受験資格に灯火類の判別ができるという規定があったため、受験を断念せざるを得なかったという。「人の命を預かる責任の重い仕事なので、必ずしも職業差別だとは思わない。簡易検査でのスクリーニングには疑問もあるが、入社してからの正式な検査で“あなたはパイロットになれない”などと宣告されるのは酷だと思う」。

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 一方、「僕は結構ポジティブな方なので、深刻に考えたことはない。他人と違うものが見えているからといってそれを負い目に感じる必要はなく、みんなが見えていないものが見えているのだったら、むしろ“ちょっとお得”くらいに考えている。ただ、“異常”というワーディングはよくないと思う。友達に教えると、“じゃあ赤と緑が分からないんだね”みたいに言われてしまうが、そうではない。バンド演奏を聴いた時に、ギターとベースの音だけがちょっと低く聞こえるようなものだ」とも話した。

■「見え方の幅と思っていただければ」

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 色覚異常である自身の体験も交えた本『「色のふしぎ」と不思議な社会』を出版したノンフィクション作家の川端裕人さんは、「異常・正常というより、私たちの中に見え方の幅があると思っていただければ。遺伝レベルでは全員の4割くらいは“プチ色覚異常”だという最新の研究もある。日本遺伝学会も2017年、“色覚異常という言葉はもう使わない。色覚多様だ”と宣言している」と話す。

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 その上で「これは何色に見える?」とSNSで話題になったドレスの写真を例に挙げ、「色というのは、私たちのセンサーの仕様、あるいは脳の処理の違いによって、色を塗り分けているようなもの。その際の補正の仕方が人によって違うので、どういう光のもとで撮られたかが曖昧な写真の場合、人によって変わってくるということだ。これは生物の間でも違いがあって、人間がピンクだと思うものが、他の動物では全く違った色に見えることもある。あるいはチンパンジーやニホンザルの場合、いわゆる正常色覚だけだが、人間の場合はバリエーションがあるようだ。そういうことが最近の研究で分かってきている」。

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 また、「軽い色覚異常の場合、気づけないままでいることもあり、その危険性を主張する眼科医の先生もいる。一方、自然の色の場合、逆に色覚異常のある人の方が有利な局面も多い。例えば、色のカモフラージュに引っかかりにくい。パイロットでも、コントラストで見なくてはならないときにはむしろ2色覚の方が有利になるというようなことがわかってきている」とした。

■旧来のままの簡易検査の復活に疑問も

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 セイジさんが受けたような簡易検査については、就職などで差別を生むとして2002年に一旦廃止されている。ところが色覚異常に気付かないまま進学や就職を迎える人が増えたとして、2016年に再開されている。

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 これについて川端さんは「伝票が見分けられないからといって銀行員にもなれなかったこともあった。しかし実際には平気だったということもあるし、様々な職業で変わりつつある。また、当事者たちの頑張りでユニバーサルカラー、カラーユニバーサルデザインが普及しつつある。また、2017年にはJIS規格の安全色が変わり、注意を引かなければならない赤を黄色に寄せたことで、画期的に見える人も増えた」とした上で、次のように訴えた。

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 「安全に関わる仕事に就きたいという人に対して、より精度の高い検査を受けてもらうことは大事だが、全員に対して簡易検査を行うことには疑問もある。なぜなら、主に“石原表”と言われる、20世紀を通じて使われてきた検査表が再び使われようとしているからだ。この石原表では、4表間違えるまでは正常だが、8表以上間違えると異常と判断されることもある。その間の人をどうするのか、ということがない。また、異常とされた人についても、どういうタイプかを診断するための機械を多くの病院が持っていない。かつて、こうした簡易検査で引っかかった人たちは安全に関わる職業には就いてはいけないと排斥する形で固定観念が量産されていった。その結果、日本は色覚異常についての偏見が強い国になってしまった。そうした議論がされないまま再開されたことを懸念している。正常の中でも分布があるし、異常の中でも分布があり、そこに切れ目はない。それを踏まえて診断でき検査方法が海外では導入されてきている」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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