あと一歩どころかあと半歩、そのわずかの差が勝敗を分けることがある。10月大会で1回戦、12.19後楽園ホールで準決勝・決勝が行なわれたKrushバンタム級王座決定トーナメントが、まさにそうだった。
優勝候補の1人、21歳の橋本実生も厳しい闘いを強いられた。1回戦、準決勝ともに判定勝利。吉岡ビギンとの決勝戦は延長にもつれ込み、そこでも判定2-1と採点が割れた。結果は黒星。本当にギリギリのところでの敗戦だった。
準決勝では、所属ジム・KRESTでのガチスパーで磨いたボディ→顔面のフック連打が突破口になった。橋本はジムの先輩である武尊に見出され『格闘代理戦争』に出場。プロ入り後も注目される場所で試合をしている。キャリアは決勝が7戦目。武尊や山崎秀晃といった先輩たちがいる中で、もしベルトを巻けばジム最短記録だった。トーナメント開始時点での戦績は2勝2敗。本人は「まぐれでトーナメントに選ばれた」と言うが、試合内容からは大器ぶりが感じられた。主催者もそこを評価していたはずだ。
決勝戦、パンチ勝負の吉岡に対し、橋本は効果的に右ミドルをヒットさせた。ローキックもダメージにつながっていたはずだ。だが途中から吉岡が構えをサウスポーからオーソドックスに変えると、ほんの少しだけやりにくそうに見えた。
「スタミナなら負けない自信がありました。蹴りのほうが印象がいいと思って(判定を)取ったと思ったんですけど……」
実際、橋本の勝ちとしたジャッジもいた。吉岡に比べて、はっきりどこが劣っていたというわけではない。ただ、結果は黒星となった。
実は橋本は、松本日向とのデビュー戦でも延長判定2-1で敗れている。本戦では橋本に1票入ったのだが、やはりギリギリのところで勝てなかった。
吉岡、松本だけでなくハイレベルな新鋭が揃っているKrushバンタム級。しかし飛びぬけた存在がいるわけではない。だからこそきわどい勝負を“勝ち切る”強さが必要になってくる。橋本の先輩たちはそれがあるからトップに立った。あるいは、誰が相手でも圧倒的に倒す力を身につけようとすることが接戦での勝利につながるのかもしれない。
「悔いはないです。ここまでやれるだけのことはやってきた」
敗戦後、橋本はそう語っている。「みんな死ぬ気でやってくるだろうから、それ以上にやったろうと思ってました」。またトーナメントを闘いながら「1試合1試合、進化しているというのは実感できました」とも。
Krushバンタム級は、まだまだ群雄割拠の状態が続くはず。橋本だけでなく吉岡も、準決勝までで敗れた選手たちも、このトーナメントの経験をどう活かすかが今後のキャリアを大きく変えるのではないか。
文/橋本宗洋