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 将棋のプログラム開発者と、かつてライバルだった若手棋士との対決を描いた映画「AWAKE」が12月25日に全国公開される。プロの道を諦めた主人公・英一を吉沢亮、天才棋士・陸を若葉竜也が演じたことでも注目されているが、この2人の演技を通して将棋愛を作品に込めたのが山田篤宏監督だ。作品のモチーフにもなった「将棋電王戦FINAL」第5局を5年前にリアルタイムで観戦した同監督は、自らマニアだと語るレベルの将棋ファン。その愛はどれほどのものか。作品の見どころとともに聞いた。

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 実際に行われた将棋ソフトの開発者と現役の棋士による対決をモチーフにした同作。この対局から将棋の虜になったという山田監督だが、アプリ「将棋ウォーズ」では初段の腕前。今をときめく藤井聡太二冠、レジェンド羽生善治九段の対局は、毎局チェックする。

――将棋界では藤井聡太二冠が大活躍ですね。

 本当にすごいのひとことですね。僕は昔の将棋を知らないので、羽生先生の七冠時代をちゃんと知らないんですけど、当時の雰囲気はこれに近いものがあるんだろうなと思いながら、藤井先生の活躍は拝見していますね。今後どうなるかという意味では、藤井先生のライバルが出てくると楽しいだろうなと、無責任にファンとしては思っています(笑)

――実際にAWAKEと戦った阿久津主税八段と面識があるそうですね。

 偶然、阿久津先生と顔見知りになる機会がありまして。仲良くさせていただきましたが、その時はこの映画を撮るという話もないころでした。僕がすごく将棋ファンなので、スポーツをしている少年が、プロスポーツ選手を見るような目でいました。棋士の方たちのちょっとした雰囲気といいますか、そういうものは勉強になったところはあるかと思いますし、影響を受けているかもしれません。

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――将棋界には奨励会というプロ養成機関があります。ただし26歳までという年齢制限もあるシビアな場所です。

 奨励会がいろいろな作品の題材になるだけのことはありますね。年齢制限とか、否が応でもドラマを呼びますね。将棋を小学校からやっていて、辞めなきゃいけないというのが残酷といえば残酷ですね。

――お気に入りの棋士はいますか。

 羽生先生、藤井先生の将棋は絶対に見ますし、木村(一基九段)先生の将棋は、始めたての初心者でも棋風がすごくわかりやすいんです。ご本人のキャラクターもあって、(初タイトルを取った)王位戦の時はすごく応援していました。あとは佐藤和俊先生も好きです。

――木村九段の最年長、47歳での初タイトル(王位戦)にはドラマがありました。

 その前(2016年)にも羽生先生に挑んで、3勝2敗から逆転負け(3勝4敗)してからのドラマだったんで、あれは熱かったですね。ちょうど映画を編集しているころに王位戦だったので、めちゃめちゃ見ていました。

――今回の映画で、その将棋愛が活かされたところはありますか。

 棋士役の方の所作とかですかね。将棋マニアではあるので、自分がわからないこと、気づかないことは、すごく将棋に詳しいファンの人にはバレちゃうかもしれませんが、一般の人にはわからないだろうと思っていたので、リアリティーという点では自信はあります。

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 将棋に対する熱意が溢れる山田監督の思いは、うまく俳優たちの演技と融合した。全て細かく指示したわけではなく、託した部分もあった。クライマックスシーンは、実力者・吉沢亮の力を信じて、あえての一発撮りで緊張感も演出した。

――本作の印象的なシーンをお願いします。

 吉沢さんに、本当に丸投げしたシーンがあるんです。対局の最後のシーンなんですが、実際の電王戦で開発者の巨瀬さんの表情は、終局した時にわからなかったんです。あの時、どんな表情だったのか、ずっと気になっていて。そこを英一役の吉沢さんに最初から託すつもりでいました。「おまかせします、どうしろとは言いません」と。実際にも、そのシーンを撮る時には、限りなく実際の対局と同じ状況にして、対局相手とカメラマンしかいない、ぎりぎりの状況にしました。それによかろうが悪かろうが1回しか撮らないと決めて、与えられるだけのプレッシャーを与えて撮ったんですが、見事にそれをはねのける、この映画で一番の表情をしてもらえました。

――若葉さんの演技は、非常に繊細だったと伺いました。

 若葉さんは、対局の非常に細かい動きで伝えてくれるところがさすがだなと思いましたね。陸が奨励会時代の対局で、終盤にちょっと追い込まれてから挽回の一手を見つけるというシーンがあるんですが、その時のわずかな動きでちゃんと伝わるようになっているのは見事でした。

 実際の将棋界でも藤井聡太二冠が大活躍し「藤井フィーバー」の再来とも言われた2020年。その締めくくりにふさわしい将棋を題材にした映画は、もうすぐ公開される。

――楽しみにされている方々にメッセージをお願いします。

 将棋を知らない人にも絶対楽しんでもらえると思いますが、将棋マニアの僕からしても楽しめる作品になっていると思います。将棋ファンとして一番楽しいのは、次の一手で何を指すか。次の一手が示されていたとしても、それを指すの、指さないのというのがあって、それを映画で表現するのは難しいんですが、AWAKE戦であればそれができるなと思って挑んだところはあります。将棋や、対局の観戦の楽しさを伝えることができたんじゃないかなと思います。

(C)2019『AWAKE』フィルムパートナーズ

藤井聡太二冠と振り返る初タイトルの瞬間
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