将棋界の2020年は、8つのタイトルを4人で分ける状況でまもなく終わる。今年も様々な話題が生まれたが、全棋士の頂点に立っているは渡辺明名人(棋王、王将、36)だ。藤井聡太王位・棋聖(18)に棋聖のタイトルを奪われたものの、豊島将之竜王(叡王、30)からは名人を奪取。永瀬拓矢王座(28)を加えた4人の中でも“現役最強”として君臨している。史上4人目の中学生棋士としてデビューしてからちょうど20年目で初の名人。「一区切りみたいなところはあった」という渡辺名人にとって、将棋界の勢力図と2021年の展望はどう見えているのか。
8タイトルのうち3つを保持し、棋士の序列は1位。棋聖戦では藤井王位・棋聖の「最年少タイトル獲得」を引き立てる側になってしまったが棋王、王将を防衛、名人を獲得という成績を見れば、最上位にいることに異論を唱えるものは誰もいない。公式戦以外の場でも、将棋界を盛り上げた。非公式戦ながら話題となったプロ将棋界初の早指し団体戦「第3回AbemaTVトーナメント」では、弟弟子の近藤誠也七段(24)、石井健太郎六段(28)とともにチーム渡辺「所司一門」を結成し準優勝。期間中は、ファン爆笑のパフォーマンスも見せ話題を振りまいた。
名人奪取から4カ月。「タイトルを取って楽しい時期は過ぎましたね」と笑う。4、5月に新型コロナウイルスの影響から対局が延期になり、逆に6月以降に多くの対局をこなす中で戦った名人戦。これを終えた9月ごろにはかなり対局ペースが落ち、久々に時間の余裕がある日々を送っていたが、秋も深まり冬になった時は、また戦いの日常が戻ってきた。「1月からは王将戦も始まりますからね。それが始まれば、6月まではノンストップという感じ」と、タイトルを複数持つ立場だからこその多忙な日々が待っている。
名人奪取から気付いた変化があった。順位戦がないことだ。順位戦A級を勝ち抜いて名人への挑戦権が得られる。逆に言えば名人は順位戦を戦わない。当たり前のことだし「楽になるんだろうなと思っていた」が、実際は違った。「調整は順位戦がある方が楽ですね。月1回、絶対にあったんで。順位戦は絶対に同格の相手と当たるわけじゃないですか。月1回、同格の相手と(持ち時間)6時間指せるというのは、調整の上ではすごく大きかった。実戦の中でしかコンディションが上がらないというのが、棋士にはあるんですよ」。やっていることは同じ将棋でも、練習将棋や自分一人での研究と実戦は違う。朝から深夜まで勝敗をかけて盤に向き合うことで、棋士が組成されている。そういうものだ。
想像とは違った環境の変化とともに、自分より若いタイトルホルダー、さらにはベテランの逆襲など、安寧とする日々はない。「四強ですか?今はタイトルを4人で持っている状況ですけど、そういうものは1年1年変わっていくし、崩れる時はすぐなんです。そういう危機感はどこまでいってもありますね」と、自信はあっても気を抜くような状況にはない。「1年後、どういう状況で迎えているかわからない」と、淡々と語る言葉は自分に厳しい。
来年は、名人という立場で初めて迎える年になる。「2020年に名人になって一区切りみたいなところがあるので、2020年までとは気持ちの持ち方も違ってくる。自分の中で名人取っていないというのは、ずっと引っかかっていたので、2020年までと2021年以降は棋士人生が違った位置づけになります。37歳にもなるんで、40代を意識した取り組みを始める1年にしたいかなと思います」と、進化・変革に向けた試みが始まる。「崩れる時はすぐ」と語った四強時代。他の3人を蹴落として“一強時代”にするつもりも、当然あるだろう。
(ABEMA/将棋チャンネルより)