ノアのトップレスラー・杉浦貴は2000年にデビューし、2020年にレスラー生活20周年を迎えた。若き日は自衛隊体育学校でレスリング選手として活躍、オリンピックを目指す。プロレス入りは29歳と遅かったが、ノア新人第一号として実力を発揮した。ジュニアヘビー級、ヘビー級ともに結果を出したのもそのキャリアの特長。シングル、タッグ合わせノアのタイトル「GHC」2階級のタイトルをすべて獲得している。
今年50歳を迎えたが、その闘いぶりは衰え知らずだ。ヒジ、ヒザを正面から打ち込むハードなファイトスタイルを変えないまま、8月には桜庭和志と組んでGHCタッグ王座を獲得した。ノアの歴史は浮き沈みもあり波瀾万丈。その中で団体を守り続けた姿勢もファンの支持を集める。
12月6日には代々木第二体育館大会で潮崎豪のGHCヘビー級タイトルに挑戦、敗れたものの大激闘を展開している。またユニット・杉浦軍の勢力拡大も。参謀役にNOSAWA論外、桜庭、藤田和之に鈴木秀樹、カズ・ハヤシ、ケンドー・カシンと実力者、曲者揃い。12月29日、後楽園ホールでのノア年間最終戦は杉浦軍興行として開催された。
メインは拳王率いる「金剛」相手の7vs7イリミネーションマッチ。杉浦軍は杉浦、桜庭、論外、カズ、カシンに新メンバーとして村上和成、総合格闘技で活躍する“U系”レスラー中村大介と豪華で異色な顔ぶれが揃った。村上はノアマットでもケンカファイトを展開、中村は得意の腕ひしぎ十字固めを鮮やかに極める。かと思えば謎の動きを繰り返したカシンが故意としか思えない誤爆攻撃を杉浦に叩き込む。
新鮮な顔合わせも含め見どころが詰まった試合は、金剛が残り2人の状態で杉浦1人に。ここで杉浦は征矢学からフランケンシュタイナーで3カウント奪取。“華麗”な要素も見せると、マサ北宮との攻防はゴツゴツとした打撃戦に。
頭突きを繰り出した北宮が流血する中、最後は杉浦がヒザ連打からオリンピック予選スラム。自身のキャリアを象徴する必殺技で数的不利をひっくり返しての勝利を収めた。タイムは45分10秒。7vs7とはいえ驚異的な闘いぶりだった。
が、全力ファイトは杉浦にとっていつも通りのことではある。20周年記念試合の感想を聞かれると「まあ、あんなもんじゃないですか」。大会エンディングのマイクでは「突然ですが、僕は今日でプロレスを...引退することはないですが」とフェイント。そして「スベったから写真撮って帰ろう」と杉浦軍で記念撮影。その力の抜けっぷりもまた平常運転なのだった。ちなみにこの時、カシンは既に会場を後にしていたという。
「20周年といっても、そんな感傷に浸ることもないし。通過点なんでね。いつも通りやるだけです」(杉浦)
しかし、その「いつも通り」のレベルが並の選手とは違うからこその20周年だ。21年目の目標として「GHCシングル、そして杉浦軍でベルト総取り」を掲げた。
今回、特別だったのは大会がPPV中継されたこと。大会後の「杉浦軍大忘年会」まで中継される特番だった。「社運かかってますんで」と忘年会の視聴もアピールした杉浦。その忘年会に向けては「どうなるんですかね、心配ですよ。忘年会あるのに1人帰っちゃったし。予測不可能ですね」
忘年会では桜庭と杉浦の漫才というレア中のレアな光景も。試合から忘年会中継、いつも通りであり特別でもある、20周年の“連戦”だった。
写真/プロレスリング・ノア