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 恒例の大晦日格闘技イベント『RIZIN.26』、その会場であるさいたまスーパーアリーナが騒然となったのはセミファイナル前のことだった。リングサイドにK-1王者・武尊が現れたのだ。しかもセミで行なわれるのは、那須川天心の試合だ。

 那須川と武尊といえば、格闘技ファンの誰もが期待する夢の対決。那須川が対戦を希望する発言をして以来、常に実現の可能性が話題になってきた。だが同時に話は平行線のままであり、K-1とRIZINは絶縁状態に。

 実現に向けての那須川のテンションが落ちたようにも見えたが、入れ替わるように武尊が「みんなが望んでいる試合を必ず実現させます」とリング上で発言。そのことを何度も繰り返していた。

 そしてこの日、武尊が見守る前で那須川が試合をするという場面が現実に。那須川は強豪ムエタイ戦士クマンドーイ・ペットジャルーンウィットと対戦し、判定勝利を収めた。ダウンはなかったもののパンチでグラつかせ、ロープに詰めてラッシュする姿はさすがと言うべきもの。試合を終えると、那須川は武尊に「格闘技界を一緒に盛り上げましょう」と呼びかけた。

 もちろん武尊もそのつもりだ。武尊は場内のインタビュースペースにも登場し、公式にコメントを出している。

 武尊は来場の理由をこう語った。

「僕は去年の時点でリミットを作っていて、来年1年で実現できなかったら格闘家を引退しますって宣言して今年を迎えたんですけど、その中で今年はコロナだったり状況が変わって実現できなくて。信じてついてきてくださるみなさん、同じK-1で闘ってるファイターたち、僕に憧れてK-1を始めてくれた子たちにちょっとでも希望を見せたかった。今年最後ですけど、僕の意思表示と、来年実現させるっていう決意を込めて、RIZINの会場に来場させていただきました」

 試合をする舞台については、こんな理想を述べた。

「片方(の団体)を脱退して片方に行くというやり方はしたくなかった。そのことで片方の団体が落ちてしまうので。格闘技界が一つになるような試合ができることを思ってずっと動いてきたつもりだったので。それがちょっとずつちょっとずつ形になってきて。

 どこかを落としてやる試合にはしたくない。K-1で闘ってる後輩たちを裏切ることはできない。この試合をやるには中立なリングで。僕はK-1のチャンピオンとして、天心選手はRISE、RIZINのチャンピオンとして、格闘技界を一つにするための試合にしないといけないと思ってるので。理想の形は中立なリングを作って、そこでやりたいと思います」

 そして、その目途がついたから来場したと武尊。試合が実現しないことで心ない批判も浴びてきたが、本心を言えば最初に那須川に名前を出された時から試合がしたかった。

「格闘家ならみんな分かると思うんですけど、自分より強いって言われてるヤツがいるのが許せないんですよ」

 さらに武尊は「この試合は言い出したらキリがないくらい、本当にいろんなことが実現を拒んでるっていうか。だけど逆を言えば、これだけ試合ができなかったことも格闘技界を一つにするための大事な期間だったと思うし。僕自身も天心選手がいてくれたからこそ今でも現役やってると思ってるんで。そういう意味では凄い感謝してます」

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 リングを降りた那須川と言葉を交わした武尊。その内容は明かさなかったが、こんな言葉を残している。

「天心選手もいろんな事情、できなかった理由は分かってると思います。率直に間近で試合見れてよかったなと。今までも闘いたかったけど、今日試合を見て目を見てしゃべって、もっと闘いたいと思いました」

 これはあくまで第一歩。RIZINの榊原信行CEOは「今回の武尊選手が、いいアクションへのキックオフになれば」とコメント。具体的な対戦決定、“中立のリング”をどう作るかなどはこれからの話し合いしだいだ。

 武尊自身は、目の前に大事な試合があることを忘れていない。

「第一に、1月24日にK-1(K'FESTA。国立代々木競技場第一体育館)でタイトルマッチが決まってるので。それに勝たないと次はない。そこで死ぬかもしれないので、試合後の予定はいつも入れないんですよ。今回も(対戦の時期などは)その後に」

 さらに「天心選手にも僕の試合を見てほしい。1月24日、K'FESTAで待ってます」というメッセージも。

 その後、試合を終えた那須川もコメント。やはり、まず集中するのは次の試合だ。那須川は2月28日のRISE・横浜アリーナ大会で志朗と対戦することが決まっている。

「本当に(武尊戦については)何も決まってないので。お互い次の試合に勝たないと」。ただ「(ここまで)長い期間でしたけど、長い長い一歩前進と格闘技界が感じていると思います」とも。また武尊の来場について「今まで見に来たことがないし、嬉しかったです。試合中、意識はしなかったですけど、でもありがたいですよね」。

 まだ試合があるかどうかも分からない状態だけに、そればかり意識するわけにはいかない。しかし「決まったらやります」とキッパリ。2021年、いよいよ「武尊vs那須川天心」が実現する可能性が出てきた。そしてそういう状況だからこそ、1.24武尊vsレオナ・ペタス、2.28那須川vs志朗が持つ意味も大きくなった。

文/橋本宗洋

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