“お正月ムード”を鮮やかに切り裂く一撃だった。勝ったのは潮崎豪、敗れたのは武藤敬司。フィニッシュはムーンサルト・プレスだ。
プロレスリング・ノアの1.4後楽園ホール大会。今年1回目の興行は、全試合カード未発表で行われた。入場曲が鳴って初めて選手が分かるという仕掛けだ。お正月らしいお祭り的イベントと言ってもいい。
メインイベントは6人タッグマッチ。青コーナーは武藤敬司&丸藤正道&田中将斗というベテラントリオだ。対するは潮崎豪&清宮海斗&馳浩。とりわけ馳の登場はビッグサプライズ、観客も大いに沸いた。
丸藤vs馳、清宮vs田中とリング上では新鮮なマッチアップが実現。一種のオールスター戦ともいうべき試合になった。しかしこのメインには重要なテーマもあった。
2月12日、ノアは久々に日本武道館大会を開催。そこで行われるのが、潮崎豪vs武藤敬司のGHCヘビー級選手権試合だ。つまりこの6人タッグマッチは前哨戦となる。
それぞれのチームの“大将”でもある潮崎と武藤だが、やはり意識し合っているのか先発を買って出る。序盤は武藤がグラウンドで攻め込んでいった。関節技だけでなく抑え込んで相手の動きを封じる“重さ”のある寝技だ。これは武道館での一騎討ちでもキーポイントになるのではないか。
武藤は低空ドロップキック、ドラゴンスクリュー、足4の字固めと得意技を連発。丸藤の虎王、田中のスライディングDからシャイニングウィザードという連続攻撃も見せた。
一方、潮崎も清宮、馳のアシストを得て武藤をゴーフラッシャーで投げ切る。そこから豪腕ラリアット、そしてムーンサルトを決めた。ムーンサルトは付き人を務めた小橋建太から受け継いだ技であり、同時に武藤のフィニッシャーでもある。この技での勝利は武藤に対し精神的優位に立つという意味でも大きかった。
「馳の登場でちょっとリズムが狂っちまって」
そう語ったのは試合後の武藤。ムーンサルトプレスで敗れたのは、これが初めてだったという。
「あれは本来、俺の技だから。本当に悔しい。ただ俺の心に余計に火がついた」
馳は潮崎に「武藤敬司を打ち破るのは潮崎豪しかいない」とエール。だが同時に「武藤はあんなもんじゃない。油断するなよ」とも。組んだことも闘ったことも何度となくある、同時代を生きてきたからこその言葉だ。
潮崎も「あれが本調子じゃないと思う」とコメント。武道館までに「さらに違う武藤敬司になっているはず」と読む。
「俺の想像を超える武藤敬司を武道館で倒す。そのことでGHCの、ノアの価値を上げる」
武藤敬司はすでにマット界におけるレジェンドと言える存在だ。潮崎はその武藤を“食う”ことで躍進中のノアにさらに勢いをつけようとしている。
もちろん武藤の反撃は必至。大ベテランが味わった「悔しさ」は、戦局にどんな影響を与えるのか。
文/橋本宗洋
写真/プロレスリング・ノア