“平時”に最適化しすぎたシステムと医師会が背景に? 他国より少ない患者数で医療崩壊が起きるワケ
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 全国の新規感染者数、重症者が再び過去最多を記録した6日。緊急事態宣言の発出を前に、日本医師会の中川俊男会長は「必要なときに医療が提供できない、医療を受けることができないという状態でないから医療崩壊ではない、というのは誤解だ。現実はすでに医療崩壊だ」と訴えた。

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 同日のABEMAABEMA Prime』に出演した自治医科大学附属さいたま医療センター(埼玉県さいたま市)の讃井將満・副センター長も「まさに医療崩壊が起きていると言っていいと思う。病床使用率をそのまま信用していいかというと、そういうわけではない。県の調整本部と日々連絡を取り合いながら患者さんの受け入れを決めているが、非常に遠方の病院にしかベッドが見つからない、という状況になってきている」と話す。

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 「軽症・中等症でも2週間が入院の目安になっているし、重症の場合には入院が3カ月に及ぶ方もいる。また、脳卒中や心臓病など、コロナ以外の患者さんにもベッドは提供しなければならない。加えて院内感染が起きれば、受け入れ自体をストップせざるを得ない。本来であれば隔離し、重症化した際にはすぐに対応できるよう、高リスクの患者さんについては入院していただいた方がいい。しかし人工呼吸器が必要な患者さんが軽症・中等症向けの病院にも増えてきたことで、そういう方々が自宅待機やホテル待機になってしまっているケースもあると思う。いわばバケツに溜まっていっていた水が少しずつ溢れているような状況だ」(讃井氏)。

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 厚生労働省からの要請を受けてダイヤモンド・プリンセス号に救急車を派遣して以来、コロナ患者の搬送を担ってきた民間救急サービスのフィール(東京都日野市)の齊藤学代表も、「第1波、第2波の頃は軽症・無症状の方の搬送も実施していたが、最近では医療体制がひっ迫してきているせいか、病状が悪化された患者様が多く、多摩地域から23区の医療機関へ移送する、というケースも増えている」と明かす。

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 また、このタイミングでの緊急事態宣言の再発出について、「最終的には強制力がなければ人の動きを完全に止めることはできない。今回は一都三県だけに発出されることになるが、人の動きがあれば感染は広がるし、首都圏に比べて地方は医療体制が脆弱だ。日本人には公共心があるし真面目だといっても、やはり自粛はもう嫌だという思いもあると思う。ここは早めに手を打っていただいた方がいいと思う。もっと言えば、昨年11月の段階で発出していれば、ステージがより低い段階で抑えることができ、皆さんも疲れずに済んだのではないか」と話す讃井氏。

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 その上で、「他国に比べ日本の病床数そのものは多いが、その内訳は私立・中小の病院が非常に多く、いわばパワーが分散されてしまっている。この医療モデルのおかげで、例えば風邪でもすぐに病院にかかれるという、諸外国ではあり得ないアクセスの良さも生まれていた。しかし、有事になった場合はこれをガラっと変えられるような仕組み作りや準備が必要だったと思う。結果として、コロナ患者を診る病院は一部だけとなり、対応できる医療従事者も、そこで働いている人に限られてしまっている。国も各都道府県も頑張っているとは思うが、インフルエンザ等の経験から、この構造的な問題は分かっていたはずだし、医療が逼迫した自治体に都道府県をまたいで医療従事者を移動させるような政策をもっとしっかりやってもらいたかった。また、私立病院に対してはお願いをすることしかできないが、これも補助金や空床補償をした上でしっかり病床を確保する、そして感染対策のトレーニングも普段からやっておく、そういうことも必要だったと思う」と指摘した。

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 また、齊藤氏が「民間救急の事業者に関しては“福祉の限定”という位置づけがあり、第一線で患者様と接していたとしても医療従事者の方々に対する手当や補助のようなものはない」と明かすと、讃井氏は「医療は医師や看護師が中心的な役割を担っているが、看護助手さんや医療廃棄物の処理を行う方など、様々な職種の方が感染リスクもある中で活動することで成り立っている。そういう方々に対しても、十分な対策を取っていただきたい。また、医療従事者が子どもを幼稚園に連れて行けなくなるような風評被害の問題もある。ここも法制度で対応できることはやっていただきたいし、海外のように感染された方や医療従事者の方に“よく帰ってきたね”という雰囲気が社会に出てくればいい」と訴えた。

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  政府のコロナ対策の特命タスクフォースに参加した経験もある慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「日本の医療は“平時”に最適化されてきた。結果、医師の比率は開業医が3割以上で、実際にはもっと多いと考えられる。一方、今回のような“非常時”には個人開業医ができることはほとんどなく、病院の勤務医たちが対応することになる。確かに日本の病床数は世界ナンバーワンだ。しかし他国に比べて一桁、二桁少ない感染者数で医療崩壊が起きてしまうということが、そのことを証明していると思う。医学部の新設も、既存の医師たちの反対で認められにくい。医師会は勤務医よりも平均年収の高い開業医が主体なので、なかなか改革を受け入れにくいと思うし、短期的にはコロナ対策の議論が重要だが、落ち着いた後は長期的な視点に立った医療制度の問題も考えた方がいい」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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