「コードギアス 反逆のルルーシュ」シリーズなどで知られる谷口悟朗監督と、劇団☆新感線の座付き作家であり、「天元突破グレンラガン」など人気アニメの脚本を手がけた中島かずきがタッグを組んだ「バック・アロウ」。完全オリジナル作品だけに、基本設定以外は謎に包まれた本作。主役のバック・アロウを演じる梶裕貴と、アタリー・アリエル役の洲崎綾が「唯一無二」と口を揃える作品の魅力とは?
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――「バック・アロウ」は完全オリジナルアニメです。はじめて脚本を読まれたときの感想を教えてください。
梶:まず、とにかく「中島かずきさんらしい…!」と感じました。
洲崎:「らしい」ですよね!
梶:本作に関しては、アフレコ直前に1話ずつ脚本をいただき、僕らもそのタイミングで少しずつ物語を知っていく形だったんです。なので、先の展開をあらかじめ把握することもなく、毎回、毎回、かなりの衝撃を受けつつ、どんどん“かずきワールド”に染まっていきました。そこに、なんといっても谷口悟朗監督の演出が加わって来るわけで…間違いなく、唯一無二のものができあがるんだろうなという感覚は当初からありました。
洲崎:ものすごく熱い展開ですしね。オリジナルなので、本当に次がわからなくてドキドキするんです。私は最初に「今回は何と戦うんだろうな」と思いました。絶対に何か強大なものと戦うだろうなと思って。あと、絶対、わけがわかんない人が出てくるだろうなとか(笑)
梶:(笑)
洲崎:なかでも、バック・アロウがいちばんわけがわからない存在ですよね。
梶:アロウは文字通り、シンプルに、存在理由がわからない男。でも…今、洲崎さんが言ったのは、きっと「本当にわけがわからない人たちがわんさか出てくる」っていう意味だよね?(笑)
――「バック・アロウ」と同じく、中島かずきさんが脚本を手がけた「キルラキル」では、洲崎さんはド天然で予測不可能な動きをする満艦飾マコを演じていらっしゃいました。
洲崎:わけがわかんないキャラでしたね。かずきさんの脚本は、「そういう人達がいないとダメなんだよ」っていう感じなんです。
――キャラクターについてお聞かせください。梶さんが演じるバック・アロウに関しては、放送前の現在、「壁に囲まれた世界で、壁の外からやってきた男」としか公開されていません。
洲崎:梶さんは、アロウが何者かということは聞かされていなかったんですか?
梶:うん、特に何も教えてもらってなかった。だから、最初は「何を軸にして演じたらいいのか?」とは思いましたね。たとえ本人が記憶喪失で、自分が何者かわかってないとはいえ、本人がもともと持っている本質や性格は自然と出ているはずのもの。それは自分で汲み取らなきゃいけないし、想像しなきゃいけないなって。
洲崎:それ、すごく難しくなかったですか?
梶:うーん、どうだろう…。でも、色々と考えてたどり着いたのは「アロウは、自分をしっかり持っている人だ」ということ。自分が何者かわからなかろうがなんだろうが、思ったことはやり通す。「自分はこうだ!」と思ったことを貫く。だから、快活さ、というか「理由はわからないけれど、なんかこの男憎めないな」という雰囲気を出せれば、と思いましたね。「コイツに着いていけば大丈夫かも」「何か変わるかも」と思わせるようなカリスマ性みたいなものがある男。それが、まわりのキャラクターにも、視聴者の方にも伝わるような言い回しができればなと。ただ、かずきさんの書かれる台詞回しってとても個性的なんですが…、なぜか不思議と最初から自分には口なじみがあったんですよね。そう考えると、キャラクターとの相性がよかったんだろうなとは思います。
――洲崎さん演じるアタリーは、エッジャ村の若き保安官ですね。
洲崎:アタリーは、村の人々や子どもたち、弱い者を守るすごく正義感の強い女の子。ですが、元々強いわけではなくて、普通の女の子なんです。エッジャ村は、辺境の地で…。
梶:村民は、元々住んでいたところから追い出された流浪の民なんだよね。
洲崎:流れ着いて、今日食べるものを必死に探して、今を生きている人たち。戦うようになっても、やっぱり怖いものは怖いし、「負けたら殺される」というのも常に頭にある。
――「普通の女の子」だったアタリーもロボット的存在「ブライハイト」になって戦いますね。
洲崎:アタリーは、戦うのも怖いし、死ぬのも怖い。だから、ノリノリで戦ったらダメなんだと考えながら演じていました。
梶裕貴と洲崎綾が語る、キャラクターと自身との共通点
――おふたりそれぞれが演じるキャラに、ご自身と共通するところはありますか?
梶:アロウは何も考えていなさそうに見えて、実はけっこう論理的な男だなって思うんです。強いて言えば、そこですかね…。僕がどう思われているかは謎ですが…。
洲崎:すごく考えてそうに見えています!大丈夫です!
梶:(笑)。ん?あれ?じゃあ、逆なのかな?(笑)なんにせよ、僕はいろいろ考えた上で、最終的な局面で「もう、どうとでもなれ!」と開き直るタイプ。彼にもそういう思い切りのよさはあると思うので…あ、じゃあ、共通点は「思い切りのよさ」で!(笑)
洲崎:アタリーの信念には、私自身とわりと近しいものがあるのかなと思いました。それと、けっこうミーハーなところがあるんです。ブライハイトで戦っているいるとき、突然、必殺技のようなことを言い出すシーンがあって。かずきさんに「意外とノリノリじゃん!」と言われました。「いや、書いたのはかずきさんでしょっ!」って(笑)。
梶:必殺技は、みんなド派手だったね。
洲崎:アロウはもっとスゴイですね…。
梶:技名、って言っていいのかな?いつか「スパロボ」(スーパーロボット大戦シリーズ)にアロウのブライハイトが出てくるなら、印象的にしたほうがおもしろいと思って、あえてクセ強めにやっておきました(笑)。
洲崎:あれはおもしろかった!
――どんなことになっているか、楽しみです!その「ブライハイト」のデザインは、「ガンダム」シリーズや「マクロス」シリーズのプラモデルのボックスアートで知られる天神英貴さんが手がけています。新しさのなかに、少し懐かしさもあるデザインが印象的でした。
梶:僕もどこか懐かしさを感じましたね。それぞれのキャラクターのイメージに近いデザインになっていますよね。女の子のキャラクターのブライハイトなんて、色合いや曲線からしてキュートですし。アタリーのブライハイトは、とくに“女の子”が表現されていると思います。
洲崎:そうなんです。輪っかみたいなイヤリングをしていたり、うさぎみたいな耳があったり、すごくかわいくて。「かわいいロボット」の想像がつかなかったんですけど、さすが天神さんだなって思いました。
梶:ひとくちに「ロボット」と言っても、動きや機能を物理学的に表現するものもあれば、それこそ“魂”で表現するものもある。この作品に出てくるブライハイトは、完全に後者なんです。搭乗する人間のキャラクター性が存分に汲まれています。今後もたくさんのブライハイトが登場しますが、どれも決して被ることがない個性的なデザインになっています。
洲崎:敵のブライハイトは、「ザ・敵」という感じのデザイン。足の動きとか、結構特徴的なんですよ。それがいいなと思いました。
「みんなで作っている感覚」アフレコ現場での思い出
――アフレコはいかがでしたか?
梶:アフレコのスタートは早かったのですが、だいたい折り返し地点あたりから新型コロナウイルスの影響があり、みんなで収録というのが難しくなってしまいました。この作品は非常に熱量があって、誰しもにスポットが当たる群像劇。なので、途中までではありましたが、全員揃って録れていたというのは本当に大きく、ありがたかったですね。そのときの熱量や空気感といったものを、人数制限後のアフレコになってもキープできたので。
洲崎:本当に…。中盤以降はどんどん熱い展開になるので、一緒に録れないのはさみしいなと思ったんですけど、録ってみると他のキャストさんの声が浮かんでくるんですよね。熱量がすごい方ばかりなので。監督は、「ここはもっと、他のキャストさんもこれぐらいの熱量でやってくれているから、もっとやって!」とおっしゃって、全幅の信頼を寄せてくださって。皆さんのお芝居を見ていないけれど、すごくいいものになっているだろうなと思えるんです。
――梶さんと洲崎さんは、谷口監督の作品は初ですか?
梶:僕は初めてです。
洲崎:私も初めてなんです。
梶:アフレコがスタートする前に、世界観の説明会を兼ねた顔合わせの機会がありました。そのときに、監督はもちろん、中島かずきさん、音響監督さんという三つの柱が、それぞれ、表現したいことをしっかりもっている座組みなんだなと感じました。冗談で、「みなさんはこの三人の誰を信じますか?誰について行きますか?」みたいなことをおっしゃっていて(笑)。
洲崎:そうそう(笑)
梶:とにかく「スタッフ・キャスト、みんなで良い作品を作っていくぞ!」という気迫がすごかったですね。
洲崎:何回目かのアフレコには、音楽ご担当の田中公平さんもいらっしゃいました。
梶:うれしかったなー。皆さん、本当に個性豊かで、いい意味で“クセの強い”クリエイターの皆さんが集結しているイメージ(笑)。アニメ自体も、ものすごくクセが強いですしね。
洲崎:谷口監督は、最初に「絵の表情に合わせなくていいです」とおっしゃってくれて。絵に引っ張られすぎると、シーンとシーンでキャラの気持ちがつながりづらいところがあるから、と。けっこうテンポがよくて、シリアスなシーンで、もっとたっぷり時間を取って演じたいけれど、台詞がタイトなことが多かったんです。
梶:うんうん。
洲崎:台詞が入り切らないときは、谷口監督は、「絵がない状態で演技をやってみて」とおっしゃって、かけあいをさせていただけました。それがすごくありがたかった。お芝居をすごく重視していただきました。
――洲崎さんは中島さんとは「キルラキル」以来、2回目のお仕事だと思います。やりとりで印象的だったことはありますか?
洲崎:かずきさんは本当に、いろいろな思いつきを言うんですよ。その場で「これ入れよっかな」とか。台詞もその日に直すこともありますし。アフレコ現場では、すごく楽しんでましたね、かずきさん。
梶:ほぼ毎週必ずアフレコ現場に来てくださって、台詞に関して質問があれば、ご本人自らが答えてくださる。本当に楽しそうに、「この作品、おもしろいよね!」と言いながら同席してくださっていました。いや、それにしても…かずきさんの“洲崎愛”はすごかった!
洲崎:愛というか、イジりですね(笑)。イジり、イジられみたいな…。私はイジれないですけど。
梶:いやいや!洲崎さんもけっこうやり返してたよ!何か言われると、「ハイハイハイ」みたいな(笑) 。素敵な関係だなって思いながら見ていました。
――谷口監督と中島さんのタッグで話題を呼んだ本作。魅力を教えてください。
梶:スタッフの方々の印象、という観点でいくと…。谷口監督は、自分が作りたい作品イメージを完璧に、はっきりと持たれていて、それを的確に演出として、言葉で伝えてくださる方でしたね。何か質問をしても、すぐに明確な答えが返ってくる。「常に第一線を走り続けられるクリエイターの方って、こういう人を言うんだな」と思いました。先頭に立って引っ張っていく人は、絶対にブレちゃいけないんだな、と。自分がやったお芝居と、監督がイメージされていたものがズレていたときも、常に監督のビジョンが明確にあるので「どうやってそこにチューニングを合わせていくのか」が、すごく楽しかったのを覚えています。
洲崎:この作品は、梶さん演じるバック・アロウが「自分は何者なのだろう」と探っていくお話。謎は次から次へと出てきますし、すごく困難な状況にも陥ります。それにどう立ち向かっていくのか…。コロナ禍で、皆さん、自分を見つめ直す機会も皆さん多いと思うんです。そんな情勢の中で、「エンタメの力ってすごいな」と再確認させてくれるような、とにかく熱い作品です。
――最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。
梶:どんな物語が展開していくのか、視聴者の方々には、現段階ではまったく想像がつかないんじゃないのかなと思います。きっとオンエアが始まっても、「次はどうなるんだろう?」と、先が読めないはず。この作品は、先ほど洲崎さんもおっしゃったように、バック・アロウが「自分は何者なのか」を知っていく物語。そして、そんなバック・アロウと出会うことで、まわりのキャラクターも改めて、「自分はどんな存在なんだろう?」と、自らと向き合っていく物語でもあると思います。作品のひとつのキーワードは「信念」。自分の信じるものって何だろう?あのキャラクターに近いのかな?なんて考えながらご覧いただけるかもしれません。今はまだ言えないことが多いのですが…人間の“強さと弱さ”がすごく魅力的に描かれている作品です。僕らも完成したものを見るのが本当に楽しみ!ぜひ、毎週ご覧になってください。よろしくお願いします。
洲崎:何しろ、熱量がすさまじい作品です。音楽を担当された田中公平先生の劇伴も本当に素敵でした。ゲームの音楽もたくさん作られている方なので、この世界の登場人物になったかのような、景色が浮かんでくるような劇伴なんです。本当に何から何まで熱くて、ワクワクしちゃう、次が気になって仕方がない作品になっているはず。私もリアルタイムで、皆さんと一緒にオンエアをチェックして行けたらなと思っています。どうかよろしくお願いします!
公式サイト:https://back-arrow.com/
(取材・文:仲川僚子)
(C)谷口悟朗・中島かずき・ANIPLEX/バック・アロウ製作委員