今月4日、東京都渋谷区の甲州街道でタクシーが横断歩道に突っ込み、歩行者を次々とはねる事故が起こった。小学生を含む5人が重軽傷を負ったほか、女性1人が死亡した。
目撃者によると、タクシーははねた歩行者1人をボンネットに乗せたまま数百メートルも走っていたという。タクシーに乗っていた女性は「運転手がアクセルを踏んだり、急に車のスピードが落ちたりなどしていた。意識が朦朧としている状況が何メートルか続いた」と話している。
タクシーを運転していたのは73歳の男性。65歳を超える、いわゆる高齢ドライバーだ。捜査関係者によると、事故直前にくも膜下出血を起こしていた可能性が高いことがわかっている。
若者の車離れが進むほか、団塊世代が高齢者になったこともあり、タクシーやバスのドライバーの高齢化も進んできている現代。8日の『ABEMA Prime』では高齢ドライバーの免許返納問題を考えた。
■意識消失などによる事故が1割? すぐできる防止策はある?
警察庁によると、全国の事故全体に占める高齢ドライバーの割合は23.3%(2019年)で、年々少しずつ増加してきている。
自動運転の実証実験にも参加し、安全工学の立場で高齢ドライバー問題を研究している山梨大学大学院教授の伊藤安海氏は、「高齢ドライバーの数は増えていて、若年ドライバーの数は減っている。10万人当たりで見ると、高齢ドライバーの事故率は10~20年前よりもむしろ今の方が下がっているが、圧倒的に母数が変化しているために高齢ドライバーの割合が増えてしまう」と話す。
滋賀医科大学の一杉正仁教授によると、自動車事故の約1割が意識消失・心疾患などによる可能性があるという。ある救命緊急センターが1年間調査したところ、運転者が意識消失していた割合は7.5%。また海外でも、フィンランドでは運転者の体調異変が原因によるものは10.3%(2003~2004年)、カナダでは事故死した運転者に心疾患があった割合は9.0%(2002~2006年)だったという。
こうした中ですぐに取れる策はないのか。伊藤氏は「例えば、トラックなどは一足先に衝突軽減ブレーキが制度化され、新しい車にはついている。それによりだいぶ事故は減ったということは言われている。ただ、歩行者が被害者になる事故は防ぎきれない部分がある。やはり歩車分離がきちんとできていないところが、どうしても防げない要因の一つかなと思う」との見方を示した。
タクシーに緊急用ブレーキの設置を義務化するなどして防ぐことは難しいのだろうか。「義務化することはできると思うし、乗用車にもだんだん衝突軽減ブレーキがつくようになっている。ただ、人と車が狭いところですり抜けるような場所だと、20~30kmでぶつかっても人の命は失われてしまう。それを全部止めるとなると、今度は全く走れなくなる。例えば、実証試験されているようなバスなどであっても、そういう部分は遠隔操縦のドライバーが別にいて、映像を見ながら人を回避したりということをやっているのが現状。高速道路のような自動車専用道であればイメージしているような自動運転は実現されてきているが、一般の市街地で歩行者や人が混在するようなところで安全に止まるというのはなかなか難しい」。
■早期返納は“新たな免許制度”への切り替え必要? タクシー運転手の“なり手”不足も
早めの免許証返納を求める呼びかけもされているが、なかなか難しい背景もある。地方では「そもそも車がないと日常生活が成り立たない」という声があがる。また、タクシーなどの商用運転を続ける高齢ドライバーについては、「高齢でも運転手として働かなきゃいけない状況を変えなきゃ」「高齢者が免許証を返納しても公共交通のドライバーが高齢者じゃ意味がない」「命を預かる仕事はある程度年齢制限を厳しくすべきと思う」といった意見も。
免許返納について伊藤氏は、「長年ドライバーの運転能力を見てきているが、60代、70代、80代となってくると、本当にうまい人からかなり危険になっている人までの幅が広くなってくる。危険になっている人はある段階で辞めてもらう仕組みは必要だと思う。2種(免許)は当然普通免許よりも厳しいが、普通免許に関しても高齢者への実技試験が2022年くらいから入る。免許更新時に能力を問う、調べていく仕組みは充実してくるとは思う」と話す。
一方、制度アナリストの宇佐美典也氏は「問題のある免許を持っている人がたくさんいて、返納させないといけないということが行政上よくある。その時にまずするのが、『自主的に返納してください』というお願い。でもなかなか返納してくれないので、ヒアリングに行ったり報告義務をつけていったりしてだんだん囲んでいく。それでもうまくいかないので、最終的には新しい制度に切り替えて、古い免許を全て一旦廃止するということをする。これも同じ議論で、免許返納では絶対に解決しないと思う。だんだん更新の講習を厳しくしていき、最終的にどこかの段階で新しい免許制度にして、一旦古い免許を全部停止するというふうにならざるを得ない。運転免許証は車に乗る以上に本人確認の意味があったが、マイナンバーカードができた。これが普及した時に、古い免許制度を廃止して切り替えようというような話になると思う。それまで解決しない問題だと思う」との見方を示した。
タクシー業界の年齢構成を見ると、60歳以上が53.3%と半数以上を占める。この構図に伊藤氏は、「今タクシードライバーや商用ドライバーはどんどん不足している。むしろ高齢者にどんどん復帰してもらおうという流れがあるくらいだ。これから高齢者の人に辞めてもらったとして、若い人が増えていくかというととても厳しいと思う」と分析する。
また、タクシードライバーが若年層から人気がないことに危機感を示し、「本当に人気がなく、おそらく待遇も良くない。都市部であれば海外のようにタクシーではない形で空いた時間にドライバーをやろうという人も出てくるが、本当に足りていない地方・山間部ではなり手がいないのが現状。都市部と地方で高齢化の割合がだいぶ違うため、どうしても高齢者が点在している地域をどうするかという問題が発生する。そこを上手にビジネス展開していく人が出てくると変わる可能性はあるのではないか。都会のゴミゴミしているところが嫌だという若者が地方に行って、“ここらは免許返納している人が増えてきているので少人数で稼ごう”とするのもひとつの手かもしれない」と案を出した。
(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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