米Twitter社が、トランプ大統領のTwitterアカウントを“永久凍結”した。凍結の対象は陰謀論を拡散する「Qアノン」関連の7万アカウントにも及び、Facebookなど、他のSNSやインターネットサービスも、次々と“トランプ排除”を実行し始めている。
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■“これまでも批判や警告を受けてきた。やむを得ない措置では”
こうした動きについて、11日の『ABEMA Prime』に出演したソフトウェアエンジニアでもあるタレントの池澤あやかは「Facebookは一定以上の年齢にならなければアカウントが作れないし、YouTubeも暴力的な表現や性的な表現を制限するなど、プラットフォームには安全性を保つために必ずポリシーがある。Twitterもスパム行為を禁じているし、過去にはテロリストのアカウントが凍結されたこともあった」と指摘、「トランプ大統領のツイートについても、これまで“ファクトチェックが必要です”という意味の注意が表示されていることもあったし、今回は議会への乱入によって4人もの人が死亡した。こういうことが今後起こらないためにも、Twitter社としては凍結するという対応をしただけだと思う。判断基準は難しいが、プラットフォームは国家ではないし、裁判のような仕組みも持っていない。その意味では正常な判断だったと思う」と話す。
また、朝日新聞コンテンツ編成本部の伊藤大地氏も「ネットのプラットフォームは国家ではないが、動かす力は持っている。トランプ大統領に関しても、Twitterというマイク(拡声器)を使うことで、8800万人に声が届いてしまうわけで、マイクだから責任を全く取らなくていいということにはならない。今回はTwitterというアメリカの企業がアメリカの大統領に対して行ったことだが、これが他国の大統領や首相だったらどうだろうか。そういう中で、安心・安全か、それとも自由・人権かの間で落とし所を見つけなければならない」と指摘、「次の暴動が計画されていたと報じられていることからも、今回の措置はやむを得ないものだった」との見方を示す。
「もちろん気に入らないからといって簡単にアカウントを削除していいわけはないが、差別的表現も含め、トランプ大統領は凍結されていなければおかしいくらいの投稿をしてきた。2017年にはアメリカ・バージニア州のシャーロッツビルで暴動が起きた際には、白人至上主義者たちを擁護するようなツイートをした。Twitterは彼らのアカウントを大量に削除した一方、大統領の発言はチェックされるべきものだからと“特別扱い”した。Twitterも困っていたのだと思うが、今回はTwitterというプラットフォームの力を使って議会に抗議させるという、いわば民主主義に挑戦したことのインパクトの大きさがあった」。
■“Twitter社の誰によって判断されたものなのかが不透明”
一方、進行役であるテレビ朝日の平石直之アナウンサーは、削除された最後の2回のツイートを念頭に、次のように問題提起する。
「“煽っていたから止めました”みたいに単純に報じられてしまっているが、例えばこの2つのツイートが議事堂での暴力やそれを賛美することに直結したのか、ということは冷静に考えなくてはいけないと思う。そして、これまで何度もTwitterから警告を受けていたという経緯もあるかもしれないが、これはアメリカ大統領の発信だ。全世界のワシントン、ホワイトハウス担当記者は、夜中であろうがなんであろうが大統領のTwitterを注視していたし、それが世界を動かす時代だ。
Yahoo!ニュースのトピックスに掲載される記事だって、人間が選んで入れ替えているし、それがテレビのニュース以上に影響力を持つようになった。こうしたことからネットは“第5の権力”とも言われるが、SNSだってプラットフォームとして場を提供しているだけではなく、もはやメディアになっていると思う。振り込め詐欺事件が起きても電話会社は責任は負わないがTwitterは責任を問われるかもしれない、だから8800万人に届く大統領のツイートやアカウントでも消す、という判断をするのなら、それはテレビや新聞の“編集”と同じではないか。ネットだから自動のようにも思えるかもしれないが、今回の“口封じ”の判断がどのような体制の中、誰によって決定されたのか。それが見えてこないのがとても気持ち悪い」。
■“情報発信の方法が無くなってしまうというこの重み”
ジャーナリストの佐々木俊尚氏も「Twitterだけではなく、FacebookやPinterestなど他のSNSも排除をしたので、トランプ大統領はネット上の拡声器をほぼ失ったことになる。さらにはAmazonがParlerという保守系SNSを自社のクラウドサービスAWSから追い出した。このまま雪崩をうつようにFOXなど反リベラル色のある報道機関も排除されるんじゃないかという見方まで出てきている。僕はトランプ支持ではないし、好きでもないけれど、アメリカでは7500万人の共和党員が支持していることは間違いない。だから大統領選も接戦になった。その彼の発言をこれほどまでに制限してしまっていいのだろうか。いち民間企業の独断だから大したことではない、ということでは済まないくらいの影響が出てくるのではないか」として懸念を示す。
「歴史を振り返れば、国家権力に対し、選挙や訴訟ではなく、街頭での活動をもって異を唱える、時には議事堂を取り囲んで反逆することも肯定してきたのは、むしろリベラルの方ではないか。これは最終的には政治闘争であって、どちらが正しいか、という話にはなりにくい。相対的には表現の自由に抵触してくるところまで、経営判断で決めてもいいのだろうか。立法機関ないし司法機関が、明白かつ現在の危険に抵触しているのかを論ずるのを抜きにして、ブラックボックスの中で決めて良いのだろうか」。
さらに佐々木氏は、ドイツのザイバート政府報道官がメルケル首相の見解として、「意思表明の自由は基本的かつ初歩的な権利だ。介入するのであればソーシャルメディアの判断に任せるのではなく、法律に基づいて行うべきだ。首相は、その観点からトランプ大統領のアカウントの永久凍結を問題視している」と述べていることに言及した。
「アメリカとは異なり、表現の自由を徹底的に擁護しようというのがヨーロッパの基本的な方針だ。一方でナチス・ドイツの経験から、やむを得ない場合は制限ができるという考え方がある。メルケル首相はトランプ大統領の味方をしているわけではなく、むしろ嫌いなくらいだろうが、それでも“やりすぎだ”と言っていることの重みを受け止めなければならない。“第4の権力”と呼ばれるマスコミが報じなければ世の中に存在しないのと同じだと言われてきたが、“第5の権力”と呼ばれるSNSから排除され、情報発信の方法が一切無くなってしまうということの意味は考えなければならない」。
■“第三者機関”が一つの解決策か
平石アナ、そして佐々木氏の意見を踏まえ、伊藤氏は「やはり問題は“誰が決めるの?”というところに行き着く。その意味では、メルケル首相の考え方も、アメリカ的な“国家はなるべく制限したくないから、自分たちでやってください”という考え方も、目指しているところは同じだと思う。ただ、企業に規約などの改善を求めるよりも政府の法規制を求めるというのは、企業が政府より弱かった場合の話だと思う。国家よりもプラットフォーム企業が力を持っていた場合、どうするのか。という問題が出てくる」として、“第三者機関”の設立が一つの解になるのではないかと話す。
「企業の場合は不透明さが残ることもあるし、別の企業に買われてしまうかもしれない。そこで専門家を入れた第三者機関によって透明性を高める。ヨーロッパでは人権問題についてNPOに聞くなどの方法を取っている。そういう方法しかないのではないか」。
佐々木氏は「その専門家や団体が民主党系列だった場合はどうなるのだろうか」とコメント、「とはいえ、インターネットビジネスの場合はどこにいても世界中にビジネスを展開できるため、アメリカの会社でありながらアメリカ政府の力が及ばないケースも出てくる。Amazon日本法人も納める税金が少ないと指摘されたことがあったが、特にタックスヘイブンに籍を置けば徴税の問題も出てくる。こうしたことも国際社会の中でも重要なテーマだ」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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