都内・代々木上原にあるフランス料理店「sio」で、オーナーシェフを務める鳥羽周作さん。ミシュラ一つ星も獲得しているこのお店が、緊急事態宣言下において新しく取り組むのが「朝ディナー」だ。
「朝にウェイトを置いて、朝から贅沢な体験をしていくというイメージで『朝ディナー』とつけた」(鳥羽さん、以下同)
今まで営業していなかった朝に、あえて“ディナー”を提供する。この異例の取り組みはネットでも大きな話題を呼んでいる。中には、「時短要請で朝ディナー 予約一杯で密とか意味ないよね」「朝ディナーって何だよ。晩がダメなら朝もダメだろ」と否定的な声も。
しかし、朝ディナーを始めたからこそ、密を防ぐなどの感染対策にもつながると鳥羽さんは話す。
「(夜も朝も感染リスクは同じでは?)それはごもっともな意見だと思う。ただ、現在僕らが判断基準にしているものは、まずあくまでも国のガイドラインに沿って営業していくということ。夜だけの営業よりも朝昼晩と人数制限をして予約を入れていて、1日30人のお客様を(朝)10、(昼)10、(晩)10と分けることで、お店を広く使ってより感染リスクを下げていく意味合いもある」
マスクのない会話が感染のリスクと言われる中、フレンチというとなかなか1人で行くイメージはないが…。
「僕らは夜のコースでもどのコースでも、おひとり様にも同じように提供していたのはもとからあったので、今になって改めて推奨というよりは、わかりやすく『おひとり様オッケーですよ』と言うこと。大体4割くらいはおひとり様で、特に朝に限っては8割くらいはおひとり様のお客様がいらっしゃって食べて帰られる」
単にディナーの時間帯を前倒ししただけではなく、感染リスクも考えて提供されている朝ディナー。その需要もコロナ禍だからこそ増えているという。
「リモートワークが増えたことで、割と時間がフレキシブルに使えるようになった。生活様式がどんどん変わっていく中で、朝にウェイトを移すことも1つの提案としてはありなのではないか」
この逆転発想が功を奏し、緊急事態宣言期間中の予約は早くも満席に。その気になる朝メニューは、大山鳥のローストやスフレオムレツなど。そして、締めのあきたこまちは朝ごはんならでは。実際に料理を食べた人からは、「朝ディナー行けました!本当今のご時世、色々な意見はあると思うけど、これも答えのひとつなんだなあと」「代々木上原のsioで朝ディナーをいただいてきました。『あー美味しかった。今日もがんばろ』って始まる1日。日中の充足感がすごかった。朝の使い方を考えるいいきっかけになりました」と好評のようだ。
1回目の緊急事態宣言が出た去年の春には、外出を控える人向けに店の味を自宅で再現できるレシピ「#おうちでsio」をネットで公開。コロナ禍で変わる生活のニーズに合わせた“料理人の工夫”を常に提供し続けていた。
「やっぱり僕らは料理人、料理を作るのがお仕事。その機会がなくなってしまうと自分たちの存在意義そのものがなくなってしまうので、限られた中で飲食店としてどうあるべきかを考えた末の厳しい決断ではある。その中で希望を持ちながら、前向きにやっていくというのが、今僕らがやれることなのではないか考えている」
さらに、丸の内の系列店では、出社するオフィスワーカーのために体の調子を整えられる「朝カレー」を18日から展開。飲食店にとってつらい状況でも、常に客のニーズを考えるのは“幸せの分母”を増やしたいからだと鳥羽さんは語る。
「僕らがやりたいのは、あくまでもお客様を幸せにしていくこと。そのために、柔軟に本質的な部分できちんとアプローチすることで、働いているスタッフも含めて、よりたくさんの人に幸せになってもらえるようなことを会社として取り組んでいけたらいいなと考えている。短期的な考えではなくて、新しい生活様式の提案という意味でも、朝からの時間帯の営業というのは緊急事態宣言が解除されても続けていこうと考えている」
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