相貌失認(そうぼうしつにん)、またの名を失顔症。人の顔が覚えられない脳の疾患で、症状の程度に違いこそあれ、およそ100人に1人が抱えているといわれている。
・【映像】自分や家族の顔が覚えられない...失顔症の女性に聞く
「人の顔が覚えられなくて、思い出せなくて、みんな同じに見える」。そう話すのは、大和田真琴さん(大学4年)だ。日常生活にも苦労がつきまとう。「友達はもちろん、先生に対しても、本当に目の前で“どこ?”“いやここだけど”みたいな、そういうことがしょっちゅうだ。似顔絵も全くできなくて、美術の授業も、そこだけダメだった」。
大和田さんの場合、家族の顔、さらには自分の顔すらも思い出すことができないという。「高校3年生の弟も、結構そこらへんにいるような男の子って感じがするので、パッと写真だけ見せられても分からない。父親は天然パーマなので、体型も含めて見ると“父かな”ってわかるんですけど。自分の顔も分からないので、メイクをする時、どんなメイクが合っているかも全くわからない」。
実際、3回にわたりテレビ電話で打ち合わせをした番組スタッフと改めて対面した際も「正直、見覚えがないっていうのが本音」。ファンだという番組MCのカンニング竹山とやりとりをしていても、「リアルタイムでは見えているが、顔だけを出されると、もうわからない。キレ芸だとか、そういうのを見て、“竹山さんだ”となる。ファンなのにショックだ」と苦笑する。
父親を“天然パーマ”、竹山を“キレ芸”でわかると話す通り、顔だけがわからない一方、顔以外の部分、例えば髪型や服装、声、芸風など、キャラクターとして相手を認識することはできるという。そのため、漫画やアニメのキャラクターは区別が付きやすいが、友人が髪の毛を急に染めたり、切ったりすると、途端に誰かがわからなくなってしまう。
「“好みの顔”のようなものは全く無いし、それはアイドルに対しても同じ。興味は中身や歌っている歌詞などだ。友達には“髪の色を変えたのに、何も言ってくれないんだね”って言われることもある。“ごめん、言おうと思ってたんだ…”と笑いながらごまかすことしかできないのが辛い」。
失顔症の患者を診察してきた経験を持つ上本町わたなべクリニック院長の渡邊章範医師は、「相手が敵なのか味方なのかが分からないと、動物の世界では生きていけない。人間も相手を瞬時に判別するために、服装ではなく目、鼻、口の位置関係で判別できるようになっているが、これも進化の中で残ってきたことだといわれている。一方、記憶力はあるにも関わらず、顔だけが覚えられないというのが失顔症の特徴だ。脳の中の顔領域と呼ばれる部分の発達が悪い、もしくは子どもの頃から人の顔にあまり興味がなく、覚えようとしなかったということも原因としていわれている」と説明する。
「重症の方の場合、家族の顔であっても分からないが、軽症の方は常連のお客さんなどを忘れるというくらいなので、ある程度慣れてくれば接客業もできるので、日常生活を普通に送ることができるし、目、鼻、口の間隔だとか、目尻の長さであったりとか、鼻の形で覚えるようにいっぺんトレーニングすると改善される方もいる。むしろ本当は失顔症だが、ちょっと人の顔を覚える能力だけが他の記憶力よりも落ちている程度なので社会生活に問題はなく、自分でも気付いていないというケースもたくさんある。失顔症ではないかと来院された方の中には、内科疾患や精神科疾患によって失顔症だと思い込んでいる患者さんも多い。記憶力や代謝疾患、甲状腺の病気のために覚えられないということもある。まずは一般の内科に行き、一般的な病気をまず見つけてから、顔だけが覚えられないとなった時に初めて失顔症を疑った方がいいと思う」。
自身の症状のカミングアウトすることについて「ほとんど飲み込むか、どうしても関わらないといけない人の場合には“すみません。ちょっと物覚えが悪いので何回も聞いたりします。ごめんなさい”と軽く告げたりする」と話す大和田さん。当事者のコミュニティ、ネットワークづくりにも熱心で、朝日小学生新聞でも紹介されたという。「Twitterを始めてみたらフォロワーが1400人に増えてきたので、定期的にオフ会を開いたりしている。相手の顔は全く覚えられないんですが…(笑)」と明るく話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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