収入・学歴が低いほど草食化?「“若い人たちの興味の問題”で片付けられるのに違和感」 男らしさの押し付けは“呪い”か?
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 2020年11月、東京大学が若者の恋愛離れ、いわゆる「草食化」の研究結果を発表し話題になった。研究を行ったのは、東京大学大学院特任研究員の坂元晴香氏など。

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 研究責任者の東京大学大学院客員研究員の上田ピーター氏は「草食化は主に個人の特性、もしくは性的興味がないことから、恋愛や性に積極的でない若年層として見られているわけだが、その背景には個人の問題というよりも社会の問題があるのではないかと思っている」と話す。

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 今回の研究で、交際に興味がない人は平均して収入や学歴が低く、さらに定職についていない人も多いという関連があることがわかってきたという。今や恋愛は贅沢なことになってしまったのか。22日の『ABEMA Prime』で議論した。

■低収入&低学歴で草食化? 「“若い人たちの問題だ”で片付けられるのに違和感」

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 草食化に収入や学歴が関係している点について、坂元氏は「収入が低ければ低いほど、非正規の方や学歴が低い方ほど、交際相手がいなかったり、異性との交際を望んでいないと答えた人が多かった」と話す。

 東京大学の分析によると、未婚かつ交際相手がいない割合を1992年と2015年で比較した場合、男性は40.3%から50.8%に、女性は27.4%から40.7%に上昇した。

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 草食化は今や世界規模の社会問題だ。上田氏は「日本人の草食化、特に日本人男性の草食化は10年以上前から海外メディアの注目を浴びている。報道の内容を見てみると、例えば三次元の女性よりも二次元の女性を好む男性の話など、ある意味センセーショナルなものが多くて、日本独特の文化や社会の特徴、日本人の個人の特徴といったふうに報道されていた。興味深いのは、最近では欧米でも似たような現象が起きていること。恋愛格差や恋愛しない人が増えているのが話題になっていて、日本だけでなく先進国全体の動向かもしれないという話になっている」と説明する。

 実際に、男女ともに「恋人」に求める条件の1位は「優しさ・思いやり」で、「一緒にいて楽かどうか」が2位、3位は「性格が合うこと」。一方、「結婚相手」に求める条件は、男性は恋人に求める条件と変わらなかったものの、女性は3位に「経済力」が入っている(出典:タップル誕生)。

 こうした結果に坂元氏は「我々の研究結果でも、経済状況が顕著に表れてきたのが30代以降だった。20代はその先の結婚を意識しないで付き合う人もいると思うが、30歳を過ぎて男性側の収入や雇用状況を気にした結果、恋愛の先の結婚まで見据えてしまって逆に踏み込めないのではないか」と話す。

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 では、結婚そのものに魅力を感じない人が増えてきているのだろうか。坂元氏は「そうした話も巷ではよく聞くが、今回の調査を見ると、結婚していないけど交際相手がいると答えた30代の割合がすごく少ない。もし結婚そのものに魅力がなくて、事実婚なり同棲だけでいいという人たちが増えているのであれば、独身だけど交際相手がいる人の割合が増えてもおかしくないと思う。しかし、そうした人はほとんど増えていないので、“結婚制度にメリットを感じないから結婚しない”というのは世の中で言われているほど多くはないのかなと思う」との見方を示した。

 上田氏は「30代や大人同士の最も認められている付き合い方が結婚という、社会のプレッシャーがある。結婚プレッシャーが恋愛市場のボトルネックになっているのも考えられる」と指摘。在住するスウェーデンでは、「子どもができても結婚しない人の方が多い。子どもができてその後別れてしまってもそこまで問題にはならず、生んでしまったらあとはなんとかなるといった感じで、日本と比較するとリスクは低い。そこまで結婚相手としての条件は考えない」のだという。

 これを受け坂元氏は「少子化対策とか色々言われたり、国も打ち出したりしていると思うが、外から見ていると結婚しなかったり交際をしないのは“若い人たちが積極的じゃないからだ”とか、“若い人たちのやる気の問題、興味の問題だ”と片付けられてしまっている。本来は、若い人たちがそうした結婚後のことを心配しなくてもいいような安定した生活環境があることが大事だし、少子化対策のために最初にやることだと思う。そこがなされないままに、“若い人たちのやる気を”となっていることに違和感を覚えている」と疑問を呈した。

■男らしさがもはや“呪い”に? 「“らしさ規範”とおさらばを」

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 そもそも「草食系男子」は、「癒される」「優しい」「がっつかなくてスマート」など、イマドキ男子の姿としてもてはやされていた。「草食男子」という言葉を世に誕生させたコラムニストの深澤真紀氏は、「女性をリスペクトでき、人間として対等に付き合える新しい世代の男性たちのことを正しく理解させたかっただけ。褒め言葉として作った言葉なのに、いまどきの男を否定する言葉として広まってしまった」と嘆く。男らしさや女らしさ、ジェンダーの押し付けをなくそうという時代に、草食系はなぜか批判されてしまう。

 長年、男性の生きづらさを調査してきた近畿大学教授の奥田祥子氏は、男らしさ=出世してしっかり収入を稼ぐという考えは、もはや“呪い”と言えるまで深刻化していると指摘。「男らしさを(個性の)類型の一つにすればいい。日本はそれを固定概念として持っているからいけない。ヨーロッパでも、男らしい人もいるし自由に生きている草食系の人も多い。いろいろある中に男らしさもある、というのが多様性ではないか」と提言する。

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 一方で奥田氏は、20年間で約1000人にインタビューしてきた中で、「批判を承知で言うと、男の人だけの問題ではなくて、女性も本音の部分で男らしい人を求めている。女性は変わってきたと言われているが、恋人や結婚相手選びではまだ保守的といっていい。一方で、女性に経済力を求めている若い男性も増えている。だから、2人がマッチすればとやかく言われることではない。いろんな人がいていいと思うが、日本はまだ本音が言える社会ではないので、そこで行き違いが生じているのではないか」と感じているという。

 その上で、「教えている学生たちが、『今はいいけど社会に出た時にナヨナヨするな』と男らしさを押し付けられて挫折してしまわないか。今日はたまたま男と女という便宜上でお話しさせていただいたが、多様な性というのもある。それを全てひっくるめて、“らしさ規範”というものとおさらばして、新しくしていけばいいと思う」との考えを述べた。

ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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