コロナ禍による外出自粛、さらには期待されたGoToトラベル事業の一時停止もあり、国内の旅行消費額や訪日旅行者数は大幅に減少。旅行・観光業界が大きな打撃を受けている。
・【映像】アソビュー代表と考える遊び&旅行 観光業界×テック
そんな中にあって見事なV字回復を遂げ、急成長を見せているのが、レジャー施設やアクティビティをWeb上で予約できる日本最大級の“遊び予約サイト”「アソビュー!」を手掛けるアソビュー株式会社だ。このメイン事業について、代表の山野智久氏は「レジャー施設、アウトドア、体験教室などの“遊び”を見つけてインターネット上に集約し、ワンストップで予約ができるサービスだ」と説明する。
昨年の緊急事態宣言下では売上が前年同月比でマイナス95%まで落ち込んだものの、コロナ禍のニーズに対応することで業績を回復させ、さらに客足が戻り切らない8月には+230%を記録した。
アソビューの業績回復の秘訣はどこにあるのだろうか。山野氏本人に聞いた。
■「当たり前のことを誰もやっていなかった」
明治大学在学中には地元・千葉県柏市のフリーペーパーを創刊、卒業後はリクルートに入社するも3年で退職した山野氏。そして2011年、アソビュー株式会社を設立する。
「大学時代の経験から起業することは決めていたし、リクルートに入ったのもそのため。じゃあ人生をかけて何をやろうかと思った時に、世の中が幸せになることがやりたいと思った。空飛ぶ車を作るのは難しいが、心を豊かにするというサービスならできるんじゃないかと思った。そこで旅行に注目した。旅先で何をしたらいいか困るという原体験があったので、友達100人にアンケートを取ったところ、98人が同じ経験があった。これを解決すれば、ありがとうの代わりにお金をいただけるだろうと思った」。
交通機関や宿泊先をネットで検索、予約するのはもはや当たり前の時代だが、アソビューでは電話やFAXでしか予約できない施設、紙のチケットのみで運営してきた施設に対し、QRコードの導入などのサポートを実施。2019年には山野氏が観光庁アドバイザリーボードに就任するなど、着実に実績を伸ばしてきた。
「旅行しようと思った時に宿の予約は簡単にできる。しかし、現地で何をするかという情報がない。現地に行ってみると面白そうな陶芸体験のポスターを見つけたが、“前日までに予約”と書いてある。こういう問題を解決する。本当に当たり前のことだが、誰もやっていなかった」。
観光庁で参事官を務めた経験を持つ矢ケ崎紀子・東京女子大学教授は「アソビューはその名の通り、“私たちがいかに遊ぶか”という資源そのものにアクセスしている。これはリアルな旅行会社であれOTA(Online Travel Agent)であれやってこなかったところだ」と話す。
■テクノロジーを使った「困りごと解決集団」
しかし、まさに「ここからだ」というタイミングで襲いかかってきたコロナ禍。そこで同社では登録されている全国の遊び場に対し、どのような感染対策をすれば営業が再開できるのか。独自のガイドラインを専門家や関係省庁と協力して制作。結果、業者だけでなく観光客も安心もできると評判を呼んだ。
「ただでさえ売り上げがない状況で、それぞれの施設様が専門家にアプローチし、コストをかけて感染症対策のルール作りをするのは現実的に厳しい。そこは7500の契約施設様と共にサービスを運営させてもらっている我々が肩代わりをしてでもやるべきだと思った。専門家へのアプローチ、それを業務に落とし込むという施設様との調整、さらに観光庁・厚労省との調整もあったが、それでもプロジェクトをしっかり組み立て、メンバーが集中してやったので1カ月くらいで完成させることができた」。
三重県で川のアクティビティを提供しているVerde大台ツーリズムの野田綾子代表は「ガイドラインを作成していただき、この“体験は大丈夫だよ”と発信していただいたことはすごく心強かった。自社だけではできないことだった」と振り返る。
また、自社のオンライン事前予約システムを活用して時間・日時あたりの入場人数を制限、入場待機列の解消にも取り組んだ。東京・池袋のサンシャイン水族館を運営するサンシャインエンタプライズの吉野祐毅氏は「土日の動向や天気によっても販売数を変えられるので、安心して取引させて頂いている」と評価する。
いわば近ごろ話題の「DX(デジタルトランスフォーメーション)」だが、山野氏らは自分たちのことをテクノロジーを使った「困りごと解決集団」と表現する。
「我々は常にレジャー施設様と“一蓮托生”。困っている課題を我々が解決できるのであれば取り組みたい。そして、コロナの前後では社会のルールが変わった。一つは営業再開を迎える施設様が、敷地面積あたりの入場人数を制限しなければソーシャルディスタンスが保てないというときに、我々の時間指定予約、そして非接触入場のためのソリューションを提供した。結果的に、入場オペレーションの全てを弊社のシステムに統一してもらえる企業が増えていった」。
■「旅行というのは希望だ」
山野氏は今回のコロナ禍が結果的に旅行・観光業界のDXを加速させる結果になったと話す。
「夏休みの宿題もそうだが、ギリギリにならないとやらない、必要に迫られないとやらないというところがあると思う。訪日外国人が増えていたこともあり、これまでの慣習のままで良い、という意識があったところから、需要が減って経営の効率化を図らなくてはならなくなった。これだけスマートフォンが普及しているにも関わらず、いまだに現地でチラシだけ、というのは厳しい。そこに我々の価値があったのではないか」。
前出の矢ケ崎氏は「コロナ禍によって私たちの旅行の目的が変化してきていると思う」と指摘。「“遊び”というコンセプトが私たちの心を打つ。遠くに行けばいくだけ“情報の非対称性”が出てくる。だから既存の旅行会社さんの場合、目的地までの距離の長さが必要になる。一方、アソビューのビジネスモデルは、目的地が近くても遠くて、とにかく遊びに行くところがあればいい」と指摘する。
アソビューの強みでもある、持ち前の“泥臭さ“について「横文字でかっこよく言うと“リーンスタートアップ”と言うんですけど(笑)。まず試してみる、ということです」と笑う山野氏。
今後の旅行・観光業界。そして自社の立ち位置について「緊急事態宣言が再び発出されたということもあり、報道に比例して消費が落ちていく。非常に厳しく苦しい状況だ。しかし、旅行はなくならないと確信しているし、中長期的には元に戻り、より大きくなっていくと思う。第1波の時、SNS上には“もうお出かけしなくても生きていける”というようなことを言っている人もいたが、旅行というのは希望だ。その希望は今も無くなっていないことがわかってきたし、コロナ禍から回復したときに我々がいかに市場でシェアを取るのかというところが重要だ」と指摘。
「こうした考えから、競合の買収等も進めている。逆にうちのことを“買いたいぞ”もいれば、“潰すぞ”という競合もいる。でも、そうそう簡単には潰せる規模ではなくなって来ていると思う(笑)。ドキドキしながら、謙虚に誠実に、矢ケ崎先生も含む、業界の皆さんにかわいがってもらいながらなんとか生かしてもらっている(笑)」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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