コロナ禍のあおりを受けコミケが中止されるなど、コスプレを楽しむ人たちの活躍の場が減少する中、さらに“レイヤー“たちが不安になるニュースが飛び込んできた。
井上信治クールジャパン戦略担当大臣が「キャラクターになりきって写真を撮る場合、あるいはその写真をSNSに載せる場合、またイベント等に参加して報酬をもらう場合、こういった具体的な場面において法的な整備が必要だ」と、コスプレと著作権の問題について言及したのだ。
これに対しネット上には「政府が介入した時点でサブカルとしての魅力は半減」「コスプレの次は同人誌とかの二次的創作にも規制が入りそう」「無駄な規制すると日本のコスプレ文化は衰退する」といった悲観的な声が相次いでいる。
25日の『ABEMA Prime』に出演した現役コスプレイヤーの立花はるは、「個人的にはルールが明確化されることには賛成だ」としながらも、次のように話す。
「二次創作にはグレーゾーンな部分があるという認識を持っているので、”これっていいのかな”と思うこともあった。その点、企業がガイドラインを決めてくれている作品はとても有り難い。そして私たちは作品が好きで活動しているので、少しでも作者に還元できるようになった方が良いとも思っている。一方で、規制されすぎて趣味のコスプレまで潰れちゃうのは不安だ。1人につき座布団1枚くらいのスペースしかないくらい、コミケの着替え会場が人で一杯になることもあった。人気が出てきたところでコスプレをする人が減ることにつながってしまうとすれば残念だ」。
■コスプレイヤーたちの懸念に山田議員は…
こうした声について、「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」に所属、自民党では知的財産戦略調査会の事務局次長も務める山田太郎参議院議員は「今回の報道を受けて、コスプレや二次創作が大変なことになっちゃうんじゃないかと心配されている方が多いが、少なくとも私が自民党にいて責任者である以上、なんとか守るから安心して欲しいと思う」と話す。
その上で、「“文化庁がルールづくりに乗り出した”ということだが、25日に著作権課、さらに内閣府の知財本部にも確認したが、そういう事実はない。少なくとも変更がある場合、与党の中の責任者の私のところにも相談があるはずだし、ルール整備というのは何を指しているのかあまりよく分からない。その上で、井上大臣の発言も報道での内容も、間違っているところが多い。ここは整理する必要がある」と指摘する。
「まず、前提として誤解があるのが、営利か非営利かは著作権には関係ない。タダのものにも、いわゆる人格権が存在するからだ。一方、二次創作の問題に関係してくることだが、ネット上でどんどん複製されてしまう時代に、どうすれば原作者がお金として回収できるようにするか。ここの法制度が今のデジタル時代に合っていない部分がある。
また、仮面ライダーそのままのお面を作って販売する行為が違反とされた判例はあるが、個人のコスプレそのものが著作権法違反に問われることはまずないし、『鬼滅の刃』の竈門炭治郎が着ている服の模様のように一般的で実用性のあるものであれば、そこに著作権性はない。ただし、工夫されたサーベルやベルトなど、著作権が存在している小物が一緒に写真の写っていた場合、著作権違反に問われる可能性はある。この組み合わせ、線引きの問題が非常に難しい」。
コスプレの問題めぐっては、任天堂が「マリカー」に勝訴した訴訟が記憶に新しい。
山田議員は「マリオの衣装は正規版ではあったもののそれを無料で貸した貸与権侵害と、写真・動画を宣伝目的でネットにアップした公衆送信権侵害が問われていたが、知財高裁はこれら著作権法違反については判断をせず、不正競争防止法違反、つまり任天堂のビジネスの邪魔した、という判断をした。おそらく知財高裁としても、著作権の問題は政治的に高度な問題だということで判断をしなかったのではないか。それくらい、裁判所でも判断が難しい」とした。
■日本だけでは解消できない問題も…
山田議員の説明を受け、立花はるが「コスプレの写真集などは頒布しないというポリシーでやっているが、SNSに写真をアップすることはある。これも個人の趣味の範囲で、非営利だと思っていたが…」と話すと、山田議員は「これも難しい」としつつ、次のような見方を示した。
「はるさんのコスプレの中に著作権が認められるようなものが存在していた場合、著作者から許可を取らずにTwitterに写真をアップすることが公衆送信権の侵害に問われる可能性はある。また、はるさんがTwitterへのアップを許可されていた場合でも、それをリツイートなどで勝手に拡散する行為が公衆送信権の侵害に問われる可能性もある。同時に、はるさんの顔など、個人がわかるようなものを勝手に乗せれば、はるさんの肖像権侵害になる可能性がある。すごく分かりにくい話だが、コスプレイヤー本人が著作権違反をしているかという問題だけでなく、それらを勝手に拡散した場合どうなるかという問題も出てくるということだ。加えて、当初は“利用オッケー“と言っていた著作権者が後になって“利用料が欲しい”と言い出した場合はどうか。こうした部分のルール整備は必要だろう、という議論が自民党内にもある」。
井上大臣は去年、人気コスプレイヤーのえなこをアンバサダーに任命。意見交換を行い、コスプレ文化に水を差すことなく著作権を保護する道を探りつつ、クールジャパン戦略の柱として海外への積極展開も後押しする考えだ。
山田議員は、「現状の日本の法制度は著作権者が訴え出なければ罪に問われることはない親告罪なので、世界的には寛容だと言っていい。それでもネットの配信などの部分については法整備をしていかないと、矛盾とグレーゾーンがあるよね、というのが井上大臣の話だったと思う。いちいち明記しなくても自然権として著作権が存在してしまうのが今の法制度の前提だ。しかし1800年代にできた、人格権を認めたベルヌ条約に日本も加盟しているので、他の加盟国がオッケーを出さない限り、一国だけでは変えられないという事情がある。
こうした中で、我々がいかに二次創作も含め、著作物の流通をうまくやっていくのか、ということだ。基本的には眠ったままより流通した方が原作者だって嬉しいし、我々も利益の還元をしていきたい。ただ、これを個別許諾にすると誰に言えばいいの、ということになるし、集中許諾にするとJASRACさんのケースのように分配の議論が問題になってくる。これもなかなか難しい問題だ」と複雑な事情を説明した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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