錦織圭の4カ月ぶりのツアー復帰戦、『2-6 4-6』は平凡な敗戦スコアだ。しかしうれしい驚きの詰まった1時間15分だった。
ATP(男子プロテニス協会)主催の国別対抗戦『ATPカップ』の2日目、日本はグループラウンドの初戦でロシアと対戦。第1試合で西岡良仁が世界ランキング8位のアンドレイ・ルブレフに敗れ、あとがなくなった状況で錦織はエース対決に挑んだ。相手は世界ランク4位の24歳、ダニール・メドベージェフ。 一昨年の全米オープンで準優勝し、昨年のATPファイナルズを制した、近い将来の有力な王者候補だ。
過去2勝2敗と星を分けている相手ではあるが、「正直、(復帰)1試合目ではやりたくなかった。もう少し自信がついてからやりたかったですね」と試合後に吐露したのも無理はない。この復帰戦には、最終的に計15日間となった完全隔離が明けてわずか5日目というハンディまでついていた。同じ期間、たとえさまざまな制限付きでも1日5時間の練習とトレーニングができた選手と、部屋から一歩も外に出られなかった選手では、計り知れない差がある。
しかしその状況を踏まえれば、錦織の立ち上がりは決して悪くなかった。 身長198cmのメドベージェフが長い腕をムチのようにしならせて放つパワフルなショットに食らいつき、見応えのあるラリー戦を展開。第1セットは2-2から4ゲーム連取を許して33分で失ったものの、第2セットはさらに躍動感を増し、4-4まで両者キープと互角の展開だ。昨年の秋に戦った数大会でも頻繁に見せた果敢なネットプレーも光った。
ただ、パワーのみならず、一昔前の長身選手のイメージを覆すスピードと粘り強さも随所に見せる次世代型強者・メドベージェフは終盤に強かった。第9ゲームで2度のデュースのあとブレークを許した錦織に、逆転のチャンスは訪れず。最後のゲームはメドベージェフの強烈なサーブが何度も炸裂した。
「期待はしていなかったですけど、思ったより悪くはなかった。出だしはクリーンに打てなくて良くなかったですけど、第2セットはよかったですね。ただ、いいポイントがあるのと同様に悪いポイントもあるので、それが少し減ってくれればと思います」
メルボルン入りするまでは、カリフォルニアでマイケル・チャン・コーチも交えたチームで練習を重ね、「すごくいい感覚をつかめていた」という。2週間の隔離にも失われなかった好感触なら、本物と期待せずにはいられない。
あとは、このレベルを持続しつつ、3セット、4セット、5セットと戦えるスタミナを順調に取り戻していけるかどうか。「明日の朝、ケガなくいられることを願います」と錦織は言ったが、応援するファンも同じ。錦織がそういう心境から逃れられる日が1日も早く来ることを願う2021年のスタートだ。
文/山口奈緒美