笛美氏「少しずつ塗り替えていこうとしている人たちが出てきている」 「お母さん食堂」問題から改めて考える、CMと共感を呼ぶジェンダー表現
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 近年、ジェンダーをめぐる広告表現をめぐり企業CMなどが批判を受けるケースが相次いでいる。ファミリーマートが展開する惣菜などのプライベートブランド「お母さん食堂」に対し、「性別に基づくイメージや価値観を変え、一人ひとりが輝ける世界を実現するため」として名称を変えるよう求めたオンライン署名キャンペーンが立ち上がったことは記憶に新しい。

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 グローアップマーケティングの谷本理恵子代表は、世帯で購入する49品目について、家庭内の誰の意見で購買決定するかを全国の既婚女性に尋ねたアンケート調査(ハー・ストーリィ調べ、n=500)などを元に、「女性たちが“いいよね”って思えるような見せ方が大事になってきている実感がある」と話す。

 また、「お母さん食堂」についても「いいコピーだと思う人もいるかもしれないが、そのイメージを次の世代にも伝えたいか、というところで引っかかっている人がいるということだ。そういう人の価値観を踏みにじってまで、そのコピーを使い続けるべきかということをみんなが考えるようになった。少し前の事例だが、ゼクシィが“結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです”というコピーを使って話題になった。これは価値観が複雑化する社会において、結婚をしないという選択をした人たちを否定することなく、自分たちをアピールできている。このような表現を求められてきているということだ」との見方を示した。

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 「お母さん食堂」のキャンペーンに賛同した笛美氏(30代、広告業界で働く会社員)は、「“男性に従ってニコニコしていけばいいんだよ”みたいな古い女性観の押し付けにウンザリしている方が増えて来ているのだと思う。しかし企業の中を見渡すと、やはり上層部は男性中心。そうした古い女性観、ジェンダー観がアップデートされていない。そういう中で、炎上してしまうような作品や広告が作られてしまっている」と話す。

 「お母さん食堂に関して言えば、確かに今も家事の主体的な担い手はお母さんだし、私もお母さんが作った料理は美味しくて大好きだ。一方で、お母さんなら料理をしろという押し付けはどうなんだ、という考え方もある。広告というのは、世の中の人々の憧れを描くもの。それに対して今回のような表現は、お母さんが料理をするのが理想だ、料理をすべき、という方向に持っていってしまうのではないかと危惧している。むやみに“母”などという言葉を使わなくとも、“おうち食堂”や“ふるさと食堂”など、おいしくて安全安心というコンセプトを表現することはいくらでもできる」。

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 一方、母親がフェミニストだというパックンは「そういう母親の元で育った僕としては“ありえない”と感じることが日本ではいっぱい起きている。でも、お母さん食堂に惹かれ、いいじゃないかと思う消費者もいっぱいいると思う。おっしゃるとおり、女性の選択肢を狭めてしまう可能性もあるかもしれないが、やっぱり料理が作りたいというお母さんもいっぱいいるし、そのイメージ、アイデンティティを大事にしている女性もいっぱいいる。そういう方々の声が聞こえてこないのはちょっと寂しい。僕の場合、バーベキューには自信があるから、“お父さんBBQ”というのがあってもいいと思う(笑)」と話す。

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 オンラインサロン『田端大学』の田端信太郎氏は「いわゆるフェミニストという人たちが女性全体の意見をどれくらい代表しているのか、という問題があると思う。お母さん食堂についても、“嫌だから買わない”という自由はある。しかし、“やめろ”ということになると、それは行き過ぎではないか。逆に、いかにも男性に好まれるようなイメージを利用してメディアに出てきて、それで得をしている女性もいるはずだし、それもその人たちの権利だ」と指摘する。

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 笛美氏は「お父さんとバーベキューを結び付けてしまうと、なぜ肉じゃがではないのか、という話になってくるし、男というのは肉をかっ食らうものだ、というステレオタイプになってきてしまうかもしれない。一旦、ジェンダーと食は切り離していいと思うし、“ワイルドバーベキュー”でもよいかもしれない。ただ、“それは厳しい”というような意見も上がって来たほうがいいと思うし、むしろ“男なら小さいことでくよくよするな”というような抑圧もある。しかし、そうした意見はあまり上がってこない。何か理由があるのかなと思う」とコメント。

 「“ジェンダーの問題は怖い。触れないようにしている”と言っていた人がいたが、それは“もっと知ろう”と考えることで消えていくと思う。あるいは、いい広告の事例には気づきがある。例えばNEWクレラップの“僕は手伝わない”というコピーには、家事は手伝うものではないのだという気づきや発見がある。これまでのジェンダー観を見直すことで、私たちはもっとクリエイティブになれる。だから追いつめられたというよりはこれが新しいチャンスだと捉えていきたい。お母さん食堂のキャンペーンについても、強制するものではなく、ファミリーマートとの会話だと思っている。そこからどういう判断をするのかは、ファミリーマートが決めること」。

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 ジェンダー問題に詳しく、企業からの相談も受けるジャーナリストの治部れんげ氏は「“同じことが前にも起きましたよね”というような、非常に初歩的な問題もあれば、社会のトレンドに乗る形で“いいことを言おう”としたつもりが、問題の捉え方を誤ってしまった、というパターンの問題もある」と話す。

 他方、「私も出版社で経済記者をやっていた頃は仕事が楽しかったし、男性が多い組織の中で長時間労働しているうちに、感覚が世の中の多くの女性のとかけ離れたものになっていた可能性があると思っている。大切なのは、単純に性別や見た目の多様性を確保するだけではなく、中身の多様性だ」とも指摘した。

 笛美氏は「確かに制作側に女性がいてもダメだったというケースもある。やはり男社会で長時間労働をしていると、どんどん意識が“男性寄り”になっていく。私にもそういう時期があった。だからこそジェンダーの専門家の話をもっと聞き、勉強することが大事だと思っている。そして、正直言ってすごく時間がかかる問題だとも思う。森喜朗さんのような人は、男性だけでなく、女性もいると思う。それでも、少しずつ塗り替えていこうとしている人たちが出てきていると考えている」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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