コロナ禍により困窮する人が増える中、先月27日の参院予算委員会で「最終的には生活保護という仕組みも」と述べた菅総理。これに対し、「生活保護を受けるって、いろんな意味でハードルが高いんだよ!」といった声が上がっている。
・【映像】生活保護はハードルが高い?「受けたくても受けられない...」困窮者の声を聞く
翌日の参院予算委で共産党の小池晃書記局長が紹介したのは、「生活保護を利用しないと答えた人の3人に1人が、“家族に知られたくない”からだと答えた」という、つくろい東京ファンドの調査結果だった。
生活保護の申請は国民の権利だが、受給のためには条件がある。まず、本人が働くことができず貯金や資産(住居は除く)もないこと、また、他の制度(年金など)の給付が受けられないこと、そして親族等から援助を受けることができないことだ。そこで登場するのが、「扶養照会」という手続きだ。申請を受けた自治体が、親族が援助することはできないかを福祉事務所が確認するものだが、これが生活保護を求める人たちの高いハードルとなっているのだ。
■EXIT兼近「“じゃあ受けなくていいや”となったことがある」
中学生時代、生活のために新聞配達のアルバイトをしていたというEXITの兼近大樹は「親に“生活保護を受ければいい”と言って親と揉めたことがある。親は“人のお金で養われるのは嫌だし、そのことを周りに言われるのが嫌だ”と言った。それでも手続きに行ったが、今後はボロボロの軽自動車も奪われるとか、戸籍上は抜けていなかった兄が働けるじゃないか、などと言われ、“じゃあ受けなくていいや”となったことがある」と自らの体験を告白した。
生活保護受給者の櫻井さん(20代)は、「もしかしたら自分もバッシングを受けるかもしれないという気持ちもあった。菅総理は“生活保護がある”と簡単におっしゃるが、受給するのにどのくらい時間がかかるか、手続きがどれくらい難しいかをわかっていないのではないかと怒りを感じた」と話す。
そんな櫻井さんが、最も高いハードルだと話すのが、やはり「扶養照会」だ。虐待を受けてきた父親に生活保護を受けるのを知られるのが不安だったと話す。「窓口では“本当にそんなことがあったの?”みたいな感じで確認される雰囲気があって、すごく辛かった」。
■「事実上、意味のない制度になっている」
NPO法人「ほっとプラス」代表理事の藤田孝典氏は「菅総理大臣の答弁は、“困ったときはためらわずに気軽に相談して欲しい”というアナウンスとしては大きな意味があったと評価している。ただ、実際に申請に行くと、“車を処分してください”とか“親族を頼りなさい”などと言われてしまう現実があるため、受け入れられない人が多いということだ」と話す。
「私たちも毎日のように相談を受けているが、やはり最も多いのが“扶養照会をしてほしくない”という声だ。家族内で不和がある、虐待を受けていたといった理由から、家族に連絡をしてほしくない、というケースが多い。結果的には申請者が親族に扶養してもらえなかったというケースがほとんどで、事実上、意味のない制度になっている。それでも扶養照会を経ずに受給できたというケースはほぼない。他国の場合、未成年の子どもが申請者の場合に限っていたり、照会の対象は同居人や配偶者に限ったりしている。
厚生労働省も、“扶養義務が履行できない、期待できない者は扶養照会しなくていい”と言っているし、本来は櫻井さんのように虐待やDVを受けた方については扶養照会してはならない。ところが日本は明治時代にできた民法に基づいているので、親族で養って下さい、三親等内に照会をしてください、となる。これはもう時代遅れだ。事実、田村憲久厚生労働大臣も“扶養照会は義務ではない”と仰っているので、これを前に進めていく必要があると思うし、困っている方は一律で扶養照会されるんだとは思わず役所に駆け込んでいただくことが大事だ」。
■柴田阿弥「私だったら絶対にバレたくない」
ところが藤田氏によると、一部の自治体や福祉事務所では、“受給者を増やしたくない”という思惑から、“水際作戦”と呼ばれる対応が行われていることもあるという。
「上陸させないよう、水際で食い止めるということで、親族を頼りなさい、ハローワークに行きなさいとか、あるいはホームレス状態だと受けられません、本籍地に帰って相談してみなさいなど、色んな理由をつけて追い返してしまう」(藤田氏)。
フリーアナウンサーの柴田阿弥は「生存権を実現するための、正当な権利だし、ウイルスでもないのに“水際作戦”などという言葉を使うのは本当に良くないと思う。生活保護が受けられなかった方が消費者金融などで借金を重ねたり、劣悪な環境で働かされたりて悪循環に陥っていくのは、自治体にとっても良いことではないはずだ」とコメント。「うちは親族の仲が悪いので、もし私が生活保護を申請するとしても、叔父叔母、姪甥には絶対バレたくないって思うはずだ。そもそも世間体を気にする国民性があると言われているのに、照会の範囲が広すぎるのではないか」と疑問を呈した。
■「働く人向けに制度自体が変わっていかないといけない」
他方、支給要件を緩和した場合、働かずに受給しようとする人が増えるのではないかという見方もある。
藤田氏は「私たちが支援している方の中には、確かに働く意欲が非常に低下しているというケースもある。ただ、その背景にはブラック企業に騙されて嫌な思いをしたとか、頑張っていたのに全く評価されず、非正規社員から抜けられなかったといった経験がある。そういう方のやる気を引き出すのが社会福祉の役割だと思う」指摘する。
その上で、「その点、欧米各国では就労支援や職業訓練に力を入れていて、働く方向へ気持ちを持っていってもらおうという支援が行われている。ここにおいても日本の社会福祉は遅れていると言えると思う。そもそも日本の生活保護というのは、“補足性の原理”といって、足りない分を補う仕組みだ。全く収入がない場合は丸々支給してもらえるし、櫻井さんのようにパートで働いている方や年金だけでは足りない方、コロナ禍で経営が厳しくなった方や休業手当だけでは足りない方でも受けることができる。働いているから申請できないと勘違いせずに、収入が少なければ申請してもいいんだと考えてほしい。また、数カ月分までであれば貯金も受給者世帯には認められているが、一定のラインを超えると生活保護を停止して、貯金な無くなってからまた利用してくださいとなってしまう。そうした部分も含め、働く人向けに制度自体も変わっていかないといけないと思う」との考えを示した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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