昨年11月にハタチの誕生日を迎えた選手が一人でカウンターを仕掛け、日本のみならずアジアでも屈指のクラブにゴールを決めた。
リモートマッチで行われたこの試合だったが、得点が決まるや否や「おっしゃああああ」、「いよおおおおし!」といった書き込みが殺到し、一時は1-3とされ、どこか気持ちが沈んでいたサポーターも息を吹き返した。
そんな話題の中心にいる男は、荒木辰文。フットサルの日本最高峰『Fリーグ』に参戦する湘南ベルマーレの選手だ。
相手はFリーグ絶対王者の名古屋オーシャンズ。湘南は12月、ホームの小田原アリーナでは4-3で勝利。リーグを独走状態で優勝した絶対王者に今季唯一の黒星を付けた。
同じ相手に二度も負けられない名古屋としては試合の入りからモチベーション高く臨んできた。先制点こそ挙げたものの、湘南は第1ピリオド(前半)10分の時点で3点を決められ1-3とされ、窮地に立たされていた。
「3点差をつけられたら厳しい」。湘南の奥村敬人監督が何度も選手にそう話していた。そんなときに、荒木が値千金のゴールを決めた。
第1ピリオド16分、相手選手が放ったシュートをGKのフィウーザが弾くとこぼれ球が荒木の足下へ。素早く攻撃へ転じると、およそ20メートルをドリブルで独走して相手コートに侵入し、ゴールから10m離れた位置で左足を振り抜きネットを揺らした。
荒木が一人で持ち込み一人で決めた得点だが、このゴールには“アシスト”をする選手がいた。
ボールが荒木の元へ転がり、カウンターが仕掛けられたと同時に、両サイドの籔内涼也とロドリゴがゴール前へと走り出す。相手ゴレイロ(GK)とフィクソ(DF)に右へパスなのか、左へパスなのか、それともシュートなのかと迷わすことができ、得点につながった。
もし荒木一人だけがゴール前にいた場合、日本代表フィクソの安藤良平に身体を寄せられてしまいシュートには至らなかったはず。カウンターという一瞬の中での駆け引きだった。
この試合の解説で、現役選手として昨シーズンまで湘南で7番を着けて戦っていた中島孝氏も「緑のユニフォームを着た7番が活躍してくれるのは嬉しいですね」と自分の背番号を受け継ぐ若手の見事な仕事ぶりを称賛した。
奥村監督が警戒していた3点差をつけられることなく、点差を詰めたことで湘南は息を吹き返し、19分にPKを獲得。ロドリゴが決めて3-3。第2ピリオド(後半)、一時3-4と勝ち越されたが残り42秒に同点が決まり4-4で勝ち点1を分け合った。
20歳の荒木が大仕事をやってのけたことがこの結果につながったと言っても大袈裟ではないだろう。
荒木は今シーズンがFリーグでプレーして1年目。年齢もそうだが、まだまだ伸びしろしかない選手。ミレニアム世代のNEXTヒーローが今後どんな変貌を遂げていくのだろうか。これからの活躍を見守っていきたい。
文・舞野隼大(SAL編集部)
写真/高橋学
【映像】驚愕の“一人カウンター”
https://abema.tv/video/episode/38-297_s168_p25