全身をすっぽり覆う「ブルカ」や目だけを出して全身を覆う「ニカブ」。イスラム教徒の女性が着用するこの衣装をめぐって、スイスで“ある問題”が起こっている。
7日、スイスで、公共の場において「ブルカ」や「ニカブ」など、顔を隠すものの着用を禁じるかどうかの是非を問う国民投票が行われた。
結果は、着用禁止に賛成が約51％、反対は約49％と僅差で可決。ロイター通信によると、この国民投票はイスラム教に直接言及はしていないものの、街頭で暴力的に抗議する人たちによるマスク着用の阻止も目的としていると見られている。
しかし、中東専門家の高岡豊氏は「一般の受け止めとしては、あくまで『イスラム教徒の女性の中でもごく一部がやっている、顔や体を完全に隠す服装が狙い撃ちにされているのではないか』という議論が巻き起こっている」と話す。
「ブルカ禁止」とも呼ばれ、物議を醸している今回の国民投票。ただ、高岡氏は「必ずしもイスラム教徒の女性が『ブルカ』を身にまとっているとは限らない」と話す。
「イスラム教徒の女性の中でも、ブルカなどを着用しないで生きている人はものすごくたくさんいる。スイス、あるいはお隣のフランスで、ブルカやニカブの禁止に『宗教や文化に対する差別や禁圧だ』と非難される一方、実はいろいろな実践がある中で『イスラム教徒の女性は必ずブルカやニカブをかぶらなくてはいけない』といった差別や抑圧の問題でもある」（以下、高岡豊氏）
また、禁止の背景には「ブルカ」などで顔が覆われていると、不安を感じる人たちの存在もある。
「1980年代や90年代からイスラム過激派による不思議な運動や現象の弊害がある。具体的に言うと、ヨーロッパのいろいろな場所で、いわゆるテロ攻撃が起こって、たくさんの死傷者が出ている問題に非常に困っている。そうなると、治安上の問題、あるいはムスリムではない、ほかの住民がいかに安心安全に暮らすかという観点になる。社会のあらゆる場所で、ブルカやニカブを着用して平然と行動する人に対する抵抗感や、不安の気持ちも非常に強い。あるいは着用を強制する無言の圧力が、自分の身の周りで行使され続けることに対して否定的な非常に強い感情を持っている人もいる」
その上で、高岡氏は「多様性」をやみくもに受け入れるだけではなく「ルール作り」を考えていく必要性を指摘する。
「一定にみんなが快適に過せるルールは、あらゆる当事者がお互いに配慮しながら、気持ちを考えてやるべき。どちらかが一方的に相手の主張を受け入れることが、寛容でも多様性の尊重でもない。それが一番学ぶべきところだ」
■「文化に差別や抑圧が埋め込まれていることも」ニュース解説YouTuber・石田健氏
ニュース解説YouTuberの石田健氏は「ブルカやニカブを着用するかどうか、選ぶ自由はもちろんある」とコメント。一方で「女性の人権を制限するような慣習や風習と密接に関わってきた背景も忘れてはいけない」と警鐘を鳴らす。
「例えば、自分たちの文化とは別の文化があったときに『文化を尊重しろ』という話は、妥当なように聞こえる。しかし、その文化に例えば『女性は家にいなくちゃいけない』『夫が決めた行動をとらないといけない』など、差別や抑圧が埋め込まれていた場合、はたしてこの文化の尊重が、我々が求めている“より良い世界”に近いのか。難しい問題だ」（以下、石田健氏）
「今回、EU加盟国の事例になっているが、ドイツやフランスなどは2015年あたりに移民をたくさん受け入れてきた。その流れが最近変わってきている。『移民や難民が来てくれるのは良いけど、うちの国のルールに従ってくださいね』と一定の線引きができ始めている。これはゼロか100かで決めるものではなく、グラデーションの中でどこまでが許容できる範囲なのか。ラインをみんなが探している。『差別だ』『自由だ』という話ではなく、グラデーションができていて、模索している試みを理解することが大事」
他国から来た人に、どこまで自分の国に適応してもらうのかどうか。多様性の議論について、石田氏は「日本でも大きな問題になるだろう」と話す。
「例えば、近所に自分の知らない国の人が集まっていたら『ちょっと怖いな』と思うかもしれない。しかも、自分が普段食べないような食事で、きつい匂いがしたら、問題も出てくるだろう。そこで『日本のルールに従って』というと、ゼロか100かの問題になってしまう。どこまで許容して、どこからやめてもらうのか。『ここではいいけど、この地域では控えてね』と、線引きする上で。相互の理解が大切だ」
これまで外国人労働者など、多くの外国人を移民として受け入れてきた日本。お互いにより良い暮らしを築くためにも、文化や宗教への理解が必要不可欠だ。
この記事の画像一覧
