東日本大震災から10年「“食”から心地良いと思える関わり方を」 約7年間、ひと月も欠かさず開催「きっかけ食堂」の挑戦
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 2月11日、オンラインで宮城県栗原市の食材を使った料理を紹介するイベントが行われていた。イベントの名前は「きっかけ食堂」。東日本大震災の月命日である毎月11日に、被災地の食材で作った料理を提供し、東北に触れるきっかけを作る取り組みだ。

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 2014年5月のスタートからおよそ7年間、ひと月も欠かさず、開催されている「きっかけ食堂」。立ち上げたメンバーの一人、原田奈実さんは震災当時、京都で暮らしていた。原動力になったのは、震災から3年後、ボランティアで出会った被災者の言葉だった。

「当時、東北の震災に対して『風化が進んでいるんじゃないか』という話があった。私がすごくお世話になっていた東北の方々も『来る人が減っているね』『忘れられているのかな』と話していた」

 時が経つにつれ、人々の心から少しずつ遠くなる“震災の記憶”。原田さんはその“距離”を縮めるために動き出した。

「京都と東北はすごく距離が遠くて、いろいろな理由で行けない人がたくさんいるんだなということに気が付いた。私も東北に通う中で周りにそういう人たちがいて、本当に東北に行くことだけが東北を忘れない方法なのかなって。東北に行かなくても東北に関われる場が作りたいと、3年目のタイミングで思って、食堂っていう形で、誰もが「食」だと関わりやすいのかなと思った」

 「食」という、誰にとっても身近なもので、どこからでも東北と関わりが持てるように――。そんな想いから大学の同級生2人と「食堂」の立ち上げを決意した。

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 当時は食材の仕入れから料理の価格設定まで、すべてが初めての経験。メンバー全員、手探りの状態で作業が続いた。

 そして、2014年5月11日。「きっかけ食堂」は東北から遠く離れた、京都の街でオープンした。最初のテーマは「南三陸町」。

「南三陸から(京都に)タコやワカメを取り寄せたり、ホタテを取り寄せたりした。ホタテの炊き込みご飯、タコとワカメの酢の物、あとタコを使ったキッシュも作った」

【映像】原田さんが作った「炊き込みご飯」(画像あり)

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 こうして始まった「きっかけ食堂」は現在、全国9カ所で開催。わずか3人だったメンバーは、学生、社会人合わせて40人以上になった。開始からおよそ7年が経った今も、料理のレシピは現地の人から教わり、食材はほぼ全て、東北から取り寄せている。

「(大学生時代は)月に一回は東北に行くみたいな生活をしていたので、東北に行く中で『こういう食堂をしているんです』という話をしたら『じゃあ漁師さん紹介するよ』と言ってくれて、紹介してもらって、実際に会いに行って、仕入れをするって流れですね」

 現在では、東北の30以上の事業者から食材を仕入れ、時には、食堂でお客さんと交流することもあるという(※現在はオンライン開催)。

 岩手県・宮古市で水産加工業を営む共和水産・鈴木良太さんは2018年から「きっかけ食堂」に食材を提供。自身も食堂で料理を振る舞う日もあると話す。

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「自分の故郷でもないのに、ここまでよくできるなって。すごいなぁと感心してしまった。遠くにいる“きっかけメンバー”だからこそ、東北をたまには俯瞰的に見て首都圏にはないものを探してくれる。『熱く来るならぶつかってやるよ!』みたいな思いがすごくあって、全員がすごく三陸や東北に目を向けながら食べ物に向き合っている」(共和水産・鈴木良太さん)

 「きっかけ食堂」を通じて、東北の水産業者や農家とやり取りしてきた原田さん。交流を経て原田さんが感じたのは「芯の強さ」だ。

「震災があって、みなさんそれを乗り越えて前を向いていて、芯の強さを感じる。愛情を込めていろいろなお野菜を作ったり、お魚を獲られていたりしている中で、なかなか(情報を)発信するところまで手が届かない。そんな方々の代わりに、私たちがお伝えすることで、生産者さんや地域の魅力を広めていきたい」

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 「食」を通じて、東北の魅力を発信し続ける「きっかけ食堂」。今後は食堂だけにとどまらず、東北へのツアーや移住の支援など、さまざまな角度から“東北に触れるきっかけ”を届けていきたいと話す。

「『きっかけ食堂』としては、まずは東北に関わり続けたい。その上で都市にいる一人一人が『心地良いな』と思えるような関わり方を提案することで、継続的に東北に関われる人を増やせればいいなと思う。東日本大震災の出来事はしっかりと理解しつつ、これからは一つの魅力的な地域として、いろいろな方々に知ってもらいたい。東北には、おいしいごはんがたくさんあったり、地域ごとに特色があったりする。地域ごとの魅力をどんどん知ってもらいたい」

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

【映像】食で東北をつなぐ「きっかけ食堂」
【映像】食で東北をつなぐ「きっかけ食堂」
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