先月11日、日本の声優が靖国神社を訪問したことをWebラジオ番組で明らかにしたところ、ネット上で激しい非難を浴びる事態となった。
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中国の事情に詳しいフリーライターの廣瀬大介氏は「2月14日に国営放送で大きく報じられてしまったことで、中国のネットユーザーが動画サイトから(出演作品を)全部削除しよう、“封殺”しよう、という動きが強まっていった」と話す。
声優は番組のアーカイブを非公開にし、謝罪文をツイッターに掲載した。「海外に占める日本アニメの市場は1兆2000億円を超えているが、多くが韓国・台湾・中国だ。そうした市場への影響を配慮して削除したとも考えられる」(廣瀬氏)。
かつては総理大臣やジョン・レノンなどの著名人も参拝してきた靖国神社。しかし近年では東アジア諸国からの批判の声の高まりを受け、特に終戦記念日の参拝を避ける政治家も目立ってきた。また、2014年には歌手のジャスティン・ビーバーが参拝したことについて非難が殺到、中国外務省がコメントする事態にもなっている。
■「靖国神社は”軍事施設”だ」
留学生として東京で暮らした経験のある、韓国の弁護士協会「日帝被害者人権特別委員会」の崔鳳泰委員長は「国のために亡くなった方の冥福を祈ることは人間として当然のことだと私も思う。だからこそ私も再び戦争が起きることがないよう千鳥ヶ淵戦没者墓苑に行って参拝したことがあったし、8月15日に日本武道館で開催される戦没者追悼式については海外からの反発もない。一方、靖国神社はそれらとは性格が異なるものだと考えている。2万人以上の韓国人が祀られているにも関わらず遺族が反発し、裁判を起こしている理由もそこにある」と話す。
「日本人には理解しづらいことかもしれないが、アジアから見れば靖国神社は”軍事施設”だ。例えば靖国神社にはA級戦犯以外にも日清戦争や日露戦争の時に日本軍に抵抗した韓国の兵士や農民を殺した人、あるいは韓国の三・一独立運動を鎮圧する過程で亡くなられた日本の憲兵なども祀られている。また、人々を戦争に参加させるため、亡くなった人を賛美する施設として陸軍・海軍が利用してきた。そこに参拝に行くということは、侵略戦争を肯定し、精神的に支えてきた軍事施設に行くことと同じだ、という感覚がある。A級戦犯についても、日本の中では国のために戦った方だから戦犯ではないという認識の人も結構いる。しかしそれはサンフランシスコ平和条約への挑戦とも言えるし、侵略を受けた国の国民としては絶対に受け入れることができない。
その意味では、今回の声優さんの件は非常に残念だ。しかし背景には日本の若者が歴史をちゃんと教えてもらえていないということもあると思うし、これを機会に対話をし、歴史認識のギャップを埋める努力をし、日韓両国の市民が戦争犠牲者のために何をすればいいのか、その道を探すことが大事だと思う。先月、バイデン大統領が太平洋戦争中に日系人を抑留したことについて改めて謝罪した。例えば日韓両国で河野談話を発表した8月4日から慰安婦の記憶の日である8月14日までを、原爆の被爆者も含めた全ての戦争被害者の冥福を祈り、お互いの歴史認識を埋める期間として定める努力をしてはどうだろうか」。
■「慰霊のための中心的な場所だ」
一方、「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」にも所属、8月15日の終戦記念日と例大祭には必ず参拝しているという東徹参議院議員(日本維新の会)は「国のために戦い、尊い命を犠牲にした人たちに敬意と感謝の気持ちを表し、ご冥福をお祈りするのは当然のことだし、戦争のない平和な社会を築いていくという誓いを立てる。そうした意味を込めて参拝している。日本の歴史から考えても靖国神社がそうした慰霊のための中心的な場所であることには違いがないし、そこにお参りするのは世界の国から見ても当然のことだと思う」と話す。
「A級戦犯が合祀されて以降、大平首相の場合は3回参拝されているが、中国や韓国からの批判は無かったと聞いている。ただ、それから3年くらい経ってから合祀が大きな問題としてクローズアップされてきたということだと思う。しかしそれは246万人という、非常に多くの戦没者の方々のうちの14人だし、“A級戦犯とは何か?”と尋ねても、知らずにダメだと思っている人の方が多いのではないか。そもそも極東国際軍事裁判について、インド代表のパール判事は“最初から判決ありきの茶番劇だ”と批判した。やはり私も含め、日本人は“日本は非常に悪いことをした“と自虐史観のような歴史教育を受けてきていることが多いと思うので、そうした事実はしっかりと見ていく必要がある。しかし、それでも戦争を正当化しようという思いのある人はほとんどいないと思うし、靖国神社についても、ただ戦没者に対する敬意と感謝の気持ちから参拝していると思う。
そもそも日本国民なら神社があると聞けば“お参りしておこうかな”と思うのが自然なことだと思う。声優の方がどういうつもりで行ったのかよくわからないが、聞くところによるとちょっと時間があったのでお参りをしたということなので、そこに対して誹謗中傷するというのは度が過ぎている。日本は平和を願い、自由や民主主義、法の支配を大事にしている国だということを中国や韓国の方にしっかりと理解してもらうことが必要だと思う」。
■「被害者と加害者を明確に分けることはできない」
リディラバ代表の安部敏樹氏は「経済も大事だし、相手が嫌がることはやめておいたほうがいいというのはある一方で、誹謗中傷が飛んでくるから学ばないようにしよう、言わないようにしよう、となってしまうのは問題だ。その上で、過去の歴史を振り返る施設というのは何のためにあるのか、ということを考えるべきだ」と話す。
「例えばアウシュビッツ強制収容所はホロコーストという悲惨な歴史の現場だが、どんなに頑張っても、時間が経てば記憶は少しずつ忘却されていく。そこに対して、ナチスが悪い、ヒトラーが悪いではなく、当時のドイツ国民はホロコーストが起きていることを知りませんでしたと言えるんですか、そこには暗黙の了解があったのではないんですか、というメッセージを学ぶ場所だと定義されている。日本の歴史認識問題、靖国神社についても同じような部分があるのではないかと思う」。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「僕も靖国神社の“みたままつり”に行き、たこ焼きを食べることがあるが、それもいけないことなのだろうか。昨今のキャンセルカルチャーのように、過去の行動を暴き立てて退場を促すみたいな流れにも繋がっていて、ちょっと嫌な感じはする。“語らないのがいいことだ”とタブー化せず、あくまでも議論をしようというスタンスが重要だと思う」と話す。
「靖国神社については、時代によって扱われ方、感覚が変わってきていると思う。例えば田中角栄は普通に参拝していたし、三木武夫首相が参拝して問題視されたというのは、むしろ“私人“として参拝したので遺族会が“公人”として参拝すべきだと怒ったということだった。しかし80年代、そして90年代に入っていくと過去の歴史の扱いが議論になり、中曽根首相の公式参拝や慰安婦の問題が東アジアで問題視されるようになってきた。
その上で、僕は崔さんの被害者と加害者を分けるべきだという議論には賛成できない。たしかに中国人や韓国人を殺傷した日本兵は戦争における加害者だ。しかし同時に、戦争に送られていったという点では被害者でもある。もっと言えば、東條英機たちA級戦犯がいたから戦争が起きたと思い込んでいる人もいるが、むしろ今の日本社会にもあるような、国民やメディアが煽る“空気”の圧力にノーと言えずに突き進んでしまった面がある。そう考えれば、戦争責任は日本人全体にあるとも言える。そのことを踏まえて戦争や平和についてどう考えるかが今を生きる我々の役割だろうし、一方的な被害者、弱者だけが祀られ、追悼されるべきだというのは、戦没者に対するある種の冒涜にはならないか。
国として、日本人として戦没者を追悼する施設は絶対に必要だ。しかし対外的に靖国神社は戦前の軍国主義を肯定する施設、歴史修正主義的な施設だと思われてしまっている状況があるのも事実。一方で千鳥ヶ淵戦没者墓苑は引き取り手のない遺骨を納める“無名戦士の墓”として出発したものなので、靖国神社の代わりにはなりにくい。やはり今一度、国立の追悼施設を改めて作るという方向で、解決策を考えるしかないのではないか」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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