「あえて打ち出すことに可能性がある」 “知的障害アート”をビジネス化、目指す当事者の収入増と社会の認知
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 東京・銀座にある店「ヘラルボニー」。バッグやスカーフ、さらにマスクなど、アーティスティックなデザインの商品が並んでいるが、これらはすべて知的障害のある人が描いたアート作品を印刷したもの。

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 黒丸が羅列されたTシャツのデザインについて、ヘラルボニーの深澤佳歩さんは「これは和紙にボールペンでずっと丸を描き続けてできている作品だが、この方(作者)は数カ月から数年同じ作風を描いて、あるときパッと切れて次の作風に変わっていく。この時期は恐らくボールペンと紙質との擦り合わせが好きで描いていたのではないか」と説明する。

「あえて打ち出すことに可能性がある」 “知的障害アート”をビジネス化、目指す当事者の収入増と社会の認知

 他にもヘラルボニーでは、工事現場のフェンスにアートを施したり、商業施設とタイアップしたりと様々な形で知的障害アートを世に広めている。このような知的障害を売りにした事業を始めた経緯について、松田崇弥社長は「知的障害がある人のイメージを変えていくというところに興味があって、自閉症やダウン症の人たちの脳の特性というものがアートってすごく表れているなと思った。“知的に障害がある人が描くアート”というセグメントをあえて作って発信することによって、イメージを変えられるようなチャンスがないかなと思って2年前に起業した」と話す。

 松田氏が変えたいと思ったのはイメージだけではない。重度の知的障害がある人は仕事をしようと思っても雇用契約を結ぶのは難しく、就業支援という形で働いても月々の給料は平均1万6000円ほどなのが現状だ。しかし、ヘラルボニーではそんな重度の知的障害者とビジネス契約を結び、売れた分だけ還元できるシステムを構築。その結果、1人当たりの報酬は10万円ほどに上がったという。

「あえて打ち出すことに可能性がある」 “知的障害アート”をビジネス化、目指す当事者の収入増と社会の認知

 障害を売りにして商売をすることで作者と社会との接点を作り、さらにお金も還元できる。そういう仕組みを作ることが狙いだった。松田氏は「親御さんから『息子の給料で焼き肉に行ける日が来るとは思いませんでした』というような手紙もいただいたりして、改めてうれしいなと思う」と話した。

 障害を売りにするのはダメなのか。知的障害者が売りにできるものは何なのか。24日の『ABEMA Prime』では松田氏を招き議論した。

 松田氏自身、4歳上の兄が知的障害を伴う自閉症だという。「兄だったら、この時間にこれをやらなきゃいけないという強烈なルーティーンがあったりする。ひたすらボールペンで黒丸を描いて羅列したり字と字を絶対繋げたり、自閉症やダウン症の方たちのルーティーン化がアートにも表れてくるので、そういう“脳の特性が表れる”と言い切ることで可能性があると思っている」と話す。

「あえて打ち出すことに可能性がある」 “知的障害アート”をビジネス化、目指す当事者の収入増と社会の認知

 しかし、当初は“知的に障害がある人が描くアート”のコンセプトは打ち出していなかった。「最初に大きなアパレルブランドとコラボする時に、そこのバイヤーから『知的障害とあえて言わない方がいいかも』ということで、普通のデザインデータとして提供した時があった。ZOZOTOWNのハンカチ・タオル部門の売り上げランキングで1位を取ってすごく評価されるなと思ったが、社会からはただのデザインとして使われて、“障害”というところの反響が全く出てこなかった。それは自分がやりたいこととちょっと違うなと思って、あえて言い切っている」と考えを示した。

 ヘラルボニーの報酬は、作品を商品化した場合は販売価格の3~5%を作者に還元。企業とコラボして作品ライセンスを展開した場合は契約金の約10%を還元。原画が売れた場合は販売価格の約40~50%を還元する。

「あえて打ち出すことに可能性がある」 “知的障害アート”をビジネス化、目指す当事者の収入増と社会の認知

 こうしたビジネス体系について松田氏は「(就業支援の給料として)1万6118円とあるが、実際はもっと少ないのが現状。私たちはある種データビジネスで、高解像度で撮影した作品データをいろいろな企業に使用していただいたり、自社で作って販売していくという形なので、重度の知的障害がある人がずっと作品を生み出し続ける必要がないというところはすごく考えた」と明かす。

 一方、制度アナリストの宇佐美典也氏は自身の経験から、「昔ある現場の監督をやっていた時に知的障害者の方が働いていたが、正直なところどう頑張っても生産性を落とす存在だった。赤字でどうしても成り立たないということで切る決断をした。その時に親御さんから『お願いします。タダでも良いから働かせてください』と言われたが、申し訳ないけどやはり成り立たないからと辞めてもらった。その時に感じたのは、他の知的障害者が入ってくると、その人が自分の居場所を奪われると思って他の障害者をいじめるとか、ポジションの奪い合いみたいなものがすごかった。そういったことはアートの現場では起きないのか」と疑問をぶつける。

「あえて打ち出すことに可能性がある」 “知的障害アート”をビジネス化、目指す当事者の収入増と社会の認知

 松田氏は「奪い合いみたいなものはあまり聞いたことがないが、自分が会社の社長をやっていて社員も十数名いる中で、知的障害のある方は社員の中にはいない。もし社員の中にいたら自分も切らざるを得ないなというのは、今のお話を聞いて思った。だから、いい部分だけを抽出して、それ以外のところは私たちみたいな人たちがやるという棲み分けが大事なのではないか」と答えた。

 さらに宇佐美氏が「そういう棲み分け、活躍できるフィールドは政治的に用意すべきだと思うがどうか」と尋ねると、「用意すべきだと思うし、やはり私の兄のことを想像しても、できないことをできるようにしていくのはかなり限界があると正直思っている。すでにできることに対して金銭的な文脈をつけていくような法律や法案が可決していったら、もしかすると可能性があるのかなと思う」と答えた。

 “知的に障害がある人が描くアート”というセグメントによって、本人だけでなく家族など周囲の人を支えることにもつながるのだろうか。松田氏は「知的障害ということをいきなり言われた時、『笑っちゃいけない』とか『今から真剣な話がスタートする』『難しい人たち』と思われてしまう側面があると思っている。それをあえてセグメント化して発信していき、才能の部分だけ抽出して見せていくことで“こういう可能性もあるんだ”と社会側が知ることによって、今の親御さんだったり、これからダウン症や自閉症の子どもが生まれる親御さんが希望を持てる可能性は出てくるのかなと思った」と訴えた。

ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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