振り飛車党のエース棋士が、初ドラフトでは大慌てだった。プロ将棋界唯一の団体戦「第4回ABEMAトーナメント」の大会に先立ち行われたドラフト会議の模様が3月27日に放送された。リーダー棋士の一人、菅井竜也八段(28)は1巡目に「すごく好きな将棋」と語る先輩・郷田真隆九段(50)の単独指名に成功したものの、昨年自分を選んでくれた久保利明九段(45)を稲葉陽八段(32)に指名されてしまう展開に。当初のドラフト構想からは「全然違いましたね(笑)びっくりしましたよ!」と、目を丸くした。
菅井八段の構想は、1巡目に郷田九段、2巡目に同じ振り飛車党の久保九段という、尊敬するベテラン棋士2人を指名するというものだった。渡辺明名人(棋王、王将、36)から順に、1巡目指名が明かされていったが、もうすぐ自分の順番という直前、稲葉八段が1巡目に久保九段を選んだことで「一気に計画が狂いました。振り飛車だから、周りの方が気を使ってくれて、僕に久保九段をくれると思っていたら、わけのわからんやつが…」と、同じ関西所属の先輩棋士による“横槍”に、頬を膨らませた。
ドラフト後、指名について言葉を交わすと「稲葉さんはニコニコしながら『菅井君と競合するつもりやったんだけどなあ』と言っていました」と、稲葉八段は競合覚悟だったことが判明。このひと言にさらに闘争心を燃やすと「あのチームとやりたいですね。ボコボコにします!」と、気合のリップサービスまで飛び出した。
まさかの指名に構想の半分は崩れたが、前年の「チーム振り飛車」から一転して、独特なチームが出来上がった。まず、なぜ郷田九段だったのか。「将棋がすごく好きで、対局姿勢もきれいですよね。一時、自分も振り飛車以外に居飛車もやっていたんです。その時に郷田先生の将棋をすごく勉強しました。居飛車党なら理想の将棋じゃないですかね」と、将棋の内容から姿勢まで尊敬する棋士だと説明した。
また2巡目に指名したのは深浦康市九段(49)。郷田九段と同じく居飛車党で、最後まで諦めない粘りと不屈の精神の持ち主だ。「合宿の時にすごくお世話になりました。すごく話しやすい方です。今回のフィッシャールールでも、早指しがすごく強いので、総合力でもかなり上に来るんじゃないでしょうか」と、チームとしての雰囲気づくり、経験値に支えられた早指し適性、両面から組んでみたい棋士だった。
頼もしい先輩2人とともに、チーム最年少の菅井八段がどう立ち回るかで、チームは浮沈する。早くも気持ちを切り替えて、「将棋ファンの方も注目してくれると思うので、久保先生と対局したいですね」と、今回は分かれた久保九段との“振り飛車対決”も、今大会の楽しみの一つにしていた。
◆第4回ABEMAトーナメント 前回までは「AbemaTVトーナメント」として開催。第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦になった。チームはドラフト会議により決定。リーダー棋士が2人ずつ順番に指名、重複した場合はくじ引きで決定する。第3回は12チームが参加し永瀬拓矢王座、藤井聡太王位・棋聖、増田康宏六段のチームが優勝、賞金1000万円を獲得した。第4回は全15チームが参加。14チームは前年同様にドラフトで決定。15チーム目はドラフトから漏れた棋士によるトーナメントを開催、上位3人がチームを結成する。対局のルールは持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チーム同士の対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負に変更された。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。