来年春に卒業する大学生などを対象にした企業の説明会が今月解禁され、本格化している就職活動。コロナ禍で採用活動のオンライン化が一気に進む中、今年6月から始まる新たなサービスが注目されている。
それが、面接官を“面接”する機能。「ZENKIGEN(ゼンキゲン)」の野澤比日樹社長は、「表情や声のトーン、スピード、発話量、強さ、体の動きといった300項目以上の特徴を抽出して、候補者がどういう感情を抱いているかをAIが解析する。それを面接官にフィードバックする」と説明する。
これまで、動画によるエントリーからウェブ面接まで、オンラインでの効率的な採用活動をサポートするサービスを展開してきたZENKIGEN。今回追加されるのが、面接官の印象などをAIが解析するというものだ。例えば、冒頭の会話で相手の緊張をほぐせているか、ちゃんと就活生の質問に答えられているかなど、印象の変化を可視化。より良い面接をするための指標になるという。
AIで面接官を診断するメリットについて野澤社長は「面接を受けたことによって『その会社に入社したくない』と思ったことがあるという人が85%もいる。一番大きな理由が面接官の不快な態度や言動。そもそも今まで(面接は)“ブラックボックス”だった。会議室の中で何が行われているのか、どんな話が行われているかが全くわからなかった。人事部の人が同席して『ここはこうでしたよ』ということを指導できればいいが、現実的に、物理的に無理。面接官によっても主観やバイアスがあるが、AIはそういったものを排除して一定一律に評価することができるというのがメリット」と話す。
時には、人事部ではない現場の社員が担当することもある面接。面接官の印象によって就活生が離れていかないように、解析によるフィードバックでサポートするのがサービスの狙いだ。野澤社長は「私の時代だと圧迫面接、就職氷河期というものがあって、完全に企業が人を選ぶ時代だった。今はそういう時代ではないし、SNSがこれだけ広がる中で、あくまで対等だと思う。相手を尊重して相手の良さを引き出してくる。お互いにとってマッチングの相性があって、そういったものを見極めて双方メリットのあるいい就職体験ができるというのをAIで後押しできれば」と語った。
ZENKIGENの新たなサービスについて、BuzzFeed Japan News副編集長の神庭亮介氏は「私も面接をする機会があるが、同時にAIに『逆面接』されているとなると、一定の緊張感はあるだろう。AIと採用活動で思い出すのは、2018年に報じられたAmazonの事例。同社で採用活動に使っていたAIが女性に不利な判定をしてしまい、そのシステムの使用を打ち切るという出来事があった。ZENKIGENのシステムは面接官を見るものなので逆方向ではあるが、AIによる精度がどこまで上がってきているのか注目したい」との見方を示す。
また、AIの診断があることによって面接官の受け答えが画一的になってしまわないかとの懸念については、「あくまで面接を受けに来た方と向き合わなければいけないのに、AIの方ばかり気にしていると本末転倒になってしまうので、そこは注意しないといけない」とした。
面接官を診断することで、不適切な態度や意図せぬ圧迫面接を防ぐ狙いもある。この点について神庭氏は「意図していなくても、相手に不満なのかな?怒っているのかな?という印象を与えてしまうことはままある」とした上で、「面接を受けに来た人は、元々その会社のファンであったり、ヘビーユーザーだったりする可能性が高い。ある種の『ファンミーティング』と考えるなら、落選者であっても嫌われてしまうのはもったいない。面接の印象が良ければ、『落ちたけどいい会社だったよ』と後から友人に勧めたり、『ファンだから商品は買い続けよう』と思ってもらえるかもしれない。そのための補助ツールとしてAIを活用していくのは有意義だし、面白いと思う」と述べた。
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