「もし給料が全額電子マネーだったら…」“デジタル支払い”加速で懸念点も 補償制度の整備、スマホセキュリティ強化が課題に
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 政府は5日、規制改革推進会議の作業部会でスマートフォンの決済アプリなどを使った賃金のデジタル支払いについて議論を行った。賃金の支払いを所管する厚生労働省は2021年度中に制度の内容を固めることを目指し、議論を加速させる方針を明らかにした。

【映像】銀行要らず? 現在の「給与支払い」と「デジタル支払い」の違い(4分30秒ごろ~)

 労働者に支払われる賃金は、労働基準法などによって現金払いか、銀行振り込みかが決められている。しかし、デジタル支払いが許可されると、金融庁に登録されている資金移動業者への入金が可能になる。

 スマートフォンの決済アプリなどへの振り込み解禁を目指し、議論が続けられている給与のデジタル支払い化。経営者側は前向きに検討する姿勢をみせる一方、労働者側からは「業者が破綻した場合に銀行口座と同等に資金が守られないなら検討に値しない」など、懸念する意見も出ている。

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 賃金のデジタル支払いは解禁へと向かうのだろうか。第一生命経済研究所の首席エコノミスト・永濱利廣さんは「賃金のデジタル支払いが解禁される可能性はあるだろう」と分析する。

「そもそもなぜこういう話が出てきたかというと、日本は海外に比べて圧倒的に外国人の労働者が銀行口座を作りにくい。特に給料は基本的に毎月入ってくるものだが、もっと頻繁なタイミングで、毎日や毎週などの形で頻繁に給料の支払いを受けたい労働者のニーズもある。銀行口座への振り込みだと(頻繁に給料の支払いを受けるのは)難しい」

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 賃金のデジタル支払いが普及すると、私たちの生活にどんな影響が出るのだろうか。永濱さんは、キャッシュレスに対応できる店舗と対応できない店舗の格差に言及する。

「販売する側からすると、仮に賃金のデジタル支払いが進めば今まで以上にキャッシュレス決済の割合が上がる。そういったところに対応できているお店と対応できていないお店の格差が広がる。キャッシュレスの対応ができていないお店は淘汰されていく可能性がある」

 労働者側の心理的な抵抗感については「デジタル支払いか、銀行振り込みかを選べるようになれば問題はない」と語る永濱さん。賃金のデジタル支払い化によって、“銀行”という産業自体が危なくなる可能性はないのだろうか。

「全くなくなることはないと思うが、単純に今までのように預金者からお金を預かる仕事はどんどん少なくなっていくだろう。金融商品の販売やグローバルに展開して事業を行うなど、そういった方向に銀行の仕事内容がより大きく変わっていく可能性がある」

■給与“デジタル支払い”のメリットと懸念点 アプリクリエイター・関口舞氏

 新型コロナの感染拡大もあり、急速に進むキャッシュレス化。アプリクリエイターで起業家の関口舞氏は賃金のデジタル支払いについて、事業者にとっても「振込手数料が抑えられる」などのメリットがあると話す。

「私も複数人でランチをするときは、誰か一人がまとめて払って、他の人は『LINE Pay』で払ってくれた人に送金する形にしている。『“LP”しておいて』と、割り勘が必要な場面でカジュアルに使っている。賃金のデジタル支払いが可能になれば、事業者にとっても振込手数料が抑えられるメリットがある。日払いや週払いなどもやりやすくなるだろう」

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 自身も会社員として営業職だった頃は、精算前の会食費用などを自腹で立て替えていたという関口氏。そういった経費も短いスパンで精算しやすくなるのではないかと期待を寄せた。

 しかし、もし自分の給料が全額電子マネーとして支払われたらどうだろうか。関口氏は「実際に『電子マネーとして何十万円という生活費を振り込まれるのは怖い』という声もある。大きな企業でもハッキングに遭う可能性もあり、もし経営破綻した場合、自分の電子マネーが本当に補償されるのかどうか、そこが難しい」と語る。

「今はスマートフォンの中でお金が動かせるようになっている。これまで持ち歩かずに済んだ通帳や銀行印を、スマートフォンの中に入れて持ち運べるようになった。そうなると、スマートフォン自体のセキュリティ面の強化も欠かせない」

 不正利用時の補償制度、スマートフォンのセキュリティ強化など、不安材料も多い給与のデジタル支払い。労働政策審議会分科会の次回会合では、具体的な制度案が示される予定だ。

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

【映像】給与の“デジタル支払い”議論加速へ
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