「声を上げ続け、話し合いを続ける」“合理的配慮”の考え方、どうすれば広まる? ブログで「JRに乗車拒否された」と訴えた伊是名夏子さんと考える
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 車いすユーザーでコラムニストの伊是名夏子さんが自身のブログにアップした「JRで車いすは乗車拒否されました」と題するエントリを機に、障害者への「合理的配慮」の考え方をいかにして社会に浸透させていくか、インターネット上で議論が繰り広げられている。

 7日の『ABEMA Prime』では、伊是名さん本人に、改めて経緯を訊ねるとともに、“合理的配慮”のあり方について話を聞いた。

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■「今回だけ“合理的配慮”をするという姿勢なら残念」

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 「どの駅でもホームと車両の間には段差があり、スロープを出してもらう必要がある。だから毎回、乗る前に駅員さんに連絡をしないといけない。それで今回も乗りたい電車の発車時刻30分前に小田原駅に着いて、“熱海で乗り換えて、来宮に行きたいので、準備をお願いします”と窓口で伝えた。駅員さんからは“わかりました。15分前にまたいらしてください”と言われた。

 しかし15分前に行ってみると、今度は“すみません、来宮駅には階段しかないので、ご案内できません。熱海まででいいですか?”と言われた。来宮駅には階段しかないということはその時に初めて知ったので、“そうなんですか。でも行きたいのでどうにかなりませんか。お願いします”と言うと、“無理です”という感じで言われた。ただ、“ちょっとお待ちください”とも言われたので待っていると、別の駅員さんが出てきて“やっぱり来宮には階段しかないし、無人駅なので無理です”と言われた。私が“30分前にも来ていたし、レストランもホテルも予約しているので、どうしても行きたい”と話した。

 再び“もうちょっと待ってください”と言われたので待っていると、3人目の駅員さんが来た。乗りたかった電車はすでに発車した後だったが、話をしていると、やはり“来宮駅には階段しかない”“もう無理です”と、また同じことを言われてしまった。私としては“無理だ、無理だ”と簡単に言われている感じがして、“ちょっとおかしいな”と思い始めた。

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 障害者差別解消法という法律では、車椅子の人が使えない駅では代案を考えよと定めている。それを“合理的配慮”という。その提案もないのかなと思って、“では、私はどうすればいいのか?”と聞くと、“タクシーをご利用になるといいかもしれません”みたいなことを言われた。経験上、車椅子ごと乗れるタクシーの予約がとても難しいということを知っていたが、もしかしたら熱海の方にはあるのかもしれないと思い、“電話番号を調べてください”と言って、車椅子が乗れるタクシーを提供している会社を教えてもらった。

 さらに、“駅員さんを集めて、階段で持ち上げることはできないですか?”と聞いた。もちろん、駅員さんを集めるのには時間がかかり、30分、1時間と待ったり、“この時間に来てください”と時間を指定されたりしたこともあるが、そういう配慮を何回もやっていただいたことがあったからだ。しかしこの時は“一切無理です”という感じで言われた。

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 結局1時間半が経ってしまい、どうなるかわからないけれど、ひとまず熱海駅まで行くしかないと思って乗車した。“どうしよう、どうしよう、これからどうなるのだろう”と不安な気持ちで降りると、駅員の方が4人いらしてくれて、“今回は特別に案内させていただきます”と言われた。4人がいたのもびっくりだったし、私だけが例外で、今回だけ“合理的配慮”をするという姿勢なら、とても残念だなと思った。」

■「話し合うことが”合理的配慮“への第一歩」

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 この“合理的配慮”について、伊是名さんは自著『ママは身長100cm』(ハフポストブックス)の中で、『お店と障害のある人が一緒に話し合いながら、どんなサービスなら提供できるか、どうやったら歩み寄れるか考え、歩み寄る。それが合理的配慮だ」としている。今回の件を受け、JR東日本に対しては「合理的配慮、色々な選択肢を考えてほしい」「そのための話し合いをする姿勢を私は持ったつもりだ」と訴える。

 「もちろん、事前連絡をした上での対応というのも、“合理的配慮“の一つの方法ではあるし、私としてはとてもいいことだと思う。ただ、そのことをどうやって知ればいいのか、という問題がある。私も行く前に“JR 来宮駅”と調べてみたが、無人駅だということも、車椅子の人はいつまでに連絡を下さい、ということも記載はなかった。だから“いつもは持ってもらったりするし、そのまま行けばいいのかな”と思ってしまった。JRではないところがやっている、バリアフリーについて書いてある『らくらくおでかけネット』というサイトもあるが、ちょっとアクセスがしにくい。それがわかりやすかったら、私でも調べられたかもしれない。

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 そもそも予定している電車に乗れなかったとか、急に行きたいと思いついたとか。そういう場合はどこの駅に連絡しろということは書いていないし、毎日の通勤に使う駅であっても、毎回連絡が必要なのだろうか。障害がある人にだけ調べなさい、連絡しなさいと言うのは、今の法律、時代の流れからして、差別の一つに当たると私は考えている。

 そして、何か問題が起こった時に“これは問題だと思う。差別だと思う”と、声を上げて話し合う。それが“合理的配慮”への第一歩だ。JR全体ではあったと思うが、その駅では声を上げる人がいままでいなかったか、いたとしても取り上げられなかったのだと思う。そこは“どういう形だったら対応できるのか”という話し合いをしていくしかないし、それは1回で終わるわけではない。

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 すでに半分近くの駅が無人駅になっているし、これからさらに増えていく中、本当に真剣に取り組んでいく必要があると思う。経済面、人員的な面でも、絶対に対応しますと保証するのは難しいかもしれない。だからといって、スーツケースを運ぶのは年に2、3回だから仕方ないとするのか、さらに障害のある人、ベビーカーの人も仕方ないということでいいのか。そういうことではない。色々な人が使いやすいように考えていこうという姿勢を大事にしたい。

 例えばデンマークでは電車に段差がなく、事前の連絡がなくても乗ることができる。日本の新幹線のような長距離列車は事前に連絡をしないといけないが、車椅子の障害者には自動車とドライバーが無料で支給される。だから実際は電車を使わなくても十分に移動ができる。そのようにして、2重にも3重にも合理的配慮がなされている。ここで“合理的配慮”をしたから解決ではなく、時間をかけて、色んな選択肢を重ねていくことが大事だと思う。」

■「合理的配慮について考えてもらうために、声を上げ続ける」

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 番組の取材に対し、JR東日本は「車いすを利用して乗車する際について、通常は社員が手伝う形にはなるので、事前予約は不要。事前に連絡をいただけると、スムーズにご利用いただけます」としている。他方、伊是名さんの“乗車拒否”との主張については「その認識はない」としており、ネット上には伊是名さんの情報発信の方法が、かえって誤解や混乱や、議論に分断を生じさせているといった見方をする人たちもいる。

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 「私はブログを2本書いたが、1本目は“駅員さんがひどかった”とか“悲しかった”とか“大変だった”とか、そういう感情は書かず、私が見た事実だけを書くようにした。強行突破をして熱海駅まで行った結果、駅員さんがいらしてくださっていたという結果になったが、3人目の駅員さんと話し合ったところまでは一応は乗車拒否になっているので、“乗車拒否”と書いた。

 そのことで“客観性”が冷たいとか、“わがまま”であるかのように受け取られてしまったことは私の失敗だったが、ではどういう方法だったら色んな人に知ってもらえたり、JR側の改善がなされたりするのか、そこは私の中でも答えが出ていない。もし方法があるなら教えていただきたいなと思う。ただ、交渉の仕方としては一つのやり方ではあると思っているし、粘り強く駅員さんに“どうしますか。でもやっぱり乗りたいので乗せてください。持ち上げてください”と言うのは、今まで障害者の方がやってきたやり方でもある。

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 実際、50年くらい前までは、障害のある人たちはバスにも電車にも乗れなかった。“乗せて、乗せて、乗せて”という運動を続けてきたお陰で、駅にエレベーターが付いたりするようになった。だから今回、小田原駅に着いた時には50年前に戻ったのかなと思うくらいびっくりしてしまったし、最後には乗れたが、それも私が粘ったりとか、交渉をし続けたから結果であって、そこまでできない人の方が多いと思う。

 ただ、エレベーターの設置など、駅のバリアフリー化は、ベビーカーの人とかお年寄りなど色んな人にとっても幸せで便利になることなのに、私が提案をすると、“おかしい”とか“わがままでないか”と言われてしまう。今回こうして議論をできたことは良かったと思うが、これが分断を生んでしまったり、障害のある人たちが外に出たくないと思ってしまうきっかけになってしまったりするのだとしたら、とても悲しい。すでに色々な誹謗中傷が来ているので、障害を持っている人の中には、駅で助け求めたらネットに書かれるかもしれないと思っている人もたくさんいる。私はそれがとても悲しい。そういう悲しみを少しでも減らすためにも、声をあげ続けなければいけないなと思い、今回ブログを書いた。

 いつも車椅子の人は皆さんの2倍、3倍の時間をかけて目的地へ行っている。まずはそのことを皆さんに知っていただいて、次にどうやったら変えていけるかを考えたいのであって、駅員さんや手伝ってくれない人に対して怒ったり、責めたりしているわけではない。そのためには障害のある人だけではなくて、みんなに一緒に考えてもらう。そのきっかけ、手助け、チャンスが欲しいということだ」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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