子宮頸がんとHPVワクチンをめぐる問題がコロナ禍でも繰り返されている? メディアは正しい理解を広めるための報道を
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 年間およそ2800人が亡くなっている「子宮頸がん」。その主な原因となっているのが「ヒトパピローマウイルス」、通称HPVだ。性交渉の経験がある人の約80%が一度は感染すると言われているほどありふれたウイルスである一方、一部の人は感染を排除しきれず、がんへと進行してしまうこともあるという。

・【映像】「感染=子宮頚がんは間違い」誤解が多いHPVを知る ワクチンとメディア報道

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 性交渉をする前にワクチンを接種することで、子宮頸がんが発症する要因の50~70%を防ぐことができるとされている。実際、イギリス、オーストラリアなどでは女の子のおよそ8割がワクチン接種を受けており、日本においても、2013年以降は小学6年~高校1の女の子が無料で定期接種を受けられるようになっている。

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 ただ、テレビ朝日の渡辺瑠海アナウンサーが「私は1997年生まれなので、いわゆる“接種世代”。自治体から接種のお知らせが届くと、“届いたよね、行った?”というような会話も気軽にしていた」、アイドルの和田彩花(1994年生まれ)が「私は高校1年生の時に母親に言われ、よくわからないまま小児科で打ったと思う」と振り返る一方、紗倉まな(1993年生まれ)は「私はHPVに関しての知識はほとんどないまま大人になったし、ワクチンを打ったのか打ってないのかも把握していなかった。大人になると、何か異常があったときに産婦人科に行く機会もあるが、“ついでに検査しようね”という形になって初めてわかる状態だと思う」と、同じ20代でも状況はバラバラのようだ。

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 産婦人科専門医で「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」代表理事の稲葉可奈子氏は「渡辺さんは非常にラッキーなケース。2013年以降になると通知が届かなくなってしまったので、2000年度以降に生まれた子たちは、親御さんも含めて“がんを予防できる予防接種を、今なら無料でうけられるんだ”ということを知る機会がないことが多く、この“狭間世代”のほとんどの方は、無料で打てる期間を逃してしまっている」と説明する。

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 2000年生まれの女性に話を聞いてみると、「サークルの1つ上の先輩はみんな打っているけど、私たちの代はほとんど打っていない」「そもそもHPVワクチン自体を知らなくて、気がついたら無料の期間が過ぎていた」との答えが返ってきた。

 また、稲葉医師によると、去年の秋には厚生労働省が自治体に通知を出すよう通達したため、接種に訪れる人も少しずつ増えてきたと感じているというが、産婦人科だけでなく、小児科や内科でも接種を受けることができるといった情報がなかなか浸透していない実情もあるようだ。

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 加えて、日本では3回にわたって接種を行うのが原則になっているが、1回あたりの費用は1万5000円程度かかるため、無料の期間を逃した女性たちにはトータルで約5万円の費用負担がのしかかる。

 さらに、副反応に関する報道も接種への心理的抵抗を高める結果を生んでいる。定期接種が始まった2013年、全身の痛みなどの重い症状を訴える人が相次いだため、厚生労働省は「積極的な接種の勧奨」を一時的に差し控えた。さらに副反応を疑う症状をめぐり、各地で国や製薬会社を相手取る訴訟が起こされたことなどが盛んに報じられた結果、70%を超えていた接種率は1%未満にまで低下した。

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 実際、女性から「アルバイト代で生活費をやりくりしているので、5万円というのは少しためらってしまう額だ」「恐ろしいニュースが報道されたタイミングだったため、“打ってはいけないもの”というイメージがついてしまって…」との声も。渡辺アナも「私は3回打ったが、友人には2回しか打っていないという子がいる。やはり副反応の疑いの報道が出たことで、“3回目はやめておこう”となったらしい。今では“安全なんじゃないか”“打っておけばよかった”と考えていて、3回目を打ちたいと思っているが、どうすればいいのか…」と話した。

 こうしたことから、大阪大学の研究グループは接種率が低いまま定期接種の対象年齢を越えた2000~2003年度生まれの女子において、将来、子宮頸がんにかかる人が合計で約1万7000人、死亡者も約4000人増加するとの推計を発表している。

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 現在も接種後の症状に苦しみ、訴訟が継続中の人たちもいる。一方で、WHOは「HPVワクチンは極めて安全である」との見解を出しており、厚生労働省も症状との因果関係は証明されていないとしつつも、「すべてのワクチンの接種には、効果とリスクとがある」「まずは、子宮頸がんとHPVワクチンについて知ってください」と呼びかけているのが実情だ。

 稲葉医師は「もちろん、原因を考えたくなる気持ちはすごくよくわかるし、実際にそういう症状がある方がいらっしゃるというのも事実。ただ、接種の痛み自体が誘因となって何かしらの症状が出るということもあるし、接種とは全く関係のない、何らかのストレスによって身体症状が出ることもある。HPVワクチンについては世界中で安全性が研究されていて、様々な症状との因果関係は証明されていない、というのが実際のところ」と話す。

 「HPVワクチンがほかのワクチンと比べて特別にリスクが高いというわけではない。たとえば、 “アナフィラキシー”の頻度は、新型コロナウイルスのワクチンの場合、アメリカでは20万回に1回と言われている。これに対し、HPVワクチンは96万回に1回。2013年当時、ワクチンとの因果関係がまだ検証がされていない段階で報じたこと自体は間違いではなかったと思う。ただ、その後、安全性が確認されたということについても、不安が払拭されるくらいの大きなインパクトで報じていただかないと、みなさんの印象は変わらない」。

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 課題は他にもある。女性の健康情報サービス「ルナルナ」と婦人科系疾患の予防啓発活動を行う「シンクパール」の調査によれば、子宮頸がんの主な感染経路が「性交渉」であることを知っているかとの問いに、24歳以下のおよそ5割が「知らない」と回答したという。

 「学校でも“がん教育”というのが始まっている。HPVは世の中にありふれているウイルスなので、誰が持っていても、誰がかかっていても全くおかしくないウイルスだし、HPVや子宮頸がんについても知っていれば予防できる病気なのだから、“がん教育”にもしっかり扱ってもらいたい。現状は、ごく一部の学校で先生が自主的に教えているケースがある、という程度」(稲葉医師)。

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 そうしたことを背景にした知識不足、そしてそれに基づく誤解・偏見に苦しんだ人もいる。ひろこさん(仮名、36)は、気になる症状があり婦人科を受診した際、その症状とは別に偶然細胞に異変が見つかり、その後精密検査を受けたところ、「HPV陽性」と判明。子宮頸がんの前段階である「軽度異形成」の状態で、経過観察をすることになった。しかもそのことを婚約者に伝えたところ、婚約を破棄されてしまったという。

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 「がんになったわけではないこと、子どもが産めなくなるわけではないことなど伝えたが、HPVは性行為によってうつるということで、経験人数が多いんじゃないか、汚らしいみたいな偏見を持たれたと感じた。ショックでいっぱいだった」(ひろこさん)。ちなみに当時も今も、体調には問題はないという。

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 HPVを20年にわたって研究しているケンブリッジ大学病理学部の江川長靖氏は、『HPVは性別問わず性交渉の経験がある人なら、誰でも“感染していた・感染している・感染するかもしれない”ウイルス。HPV感染症は特に女性に大きな負担となっているので、人間関係を健康に保つための意識を誰もがもつべきだ』と話す。

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 高校時代にニュージーランドに留学、性教育の授業で子宮頸がんやワクチンのことなどを学んだ江連千佳さん(大学3年)は、帰国すると医師に相談した上でHPVワクチンを自費で接種した。さらに日本の状況に危機感を抱き、同世代の学生や医師らととともに、無料でワクチン接種が受けられるよう政府に求めるオンライン署名をスタート。

 署名には3万筆以上が集まり、先月29日には田村厚生労働大臣に面会、要望書を提出した。「どのワクチンにもリスクは潜んでいるので、もちろん打たない権利はある。ただ、打つという選択肢があるということも大きいと思う」(江連さん)。

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 慶應義塾大学特別招聘教授でドワンゴ社長の夏野剛氏は「男性も含め、基本的には全員が打つようになればいいと思うが、どこの病院に行けばいいのかということすら、よくわからない。また、性交渉の話も関わってくるので、高2になった娘とは、お互いに話しづらいという問題もある。副反応について大騒ぎしたメディアには反省が見えないが、責任を取る意味でも、きちんと普及活動をした方がいいと思う」とコメント。

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 稲葉医師は「注射や採血が苦手な方については刺激で倒れたりしないよう、寝た状態で接種を受けることもできる。また、接種後に何か症状が出ても大丈夫なように、病院で30分くらいしばらく様子を見ていただくことも大事。帰宅後に何か気になることがあった場合、まずは接種した病院に相談して、必要があれば全国の都道府県にある協力医療機関に紹介もしてもらえる。気になることはなんでも、ぜひ先生に相談して、安心していただければと思う」と訴えていた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より) 

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