足関節を脱出するために振り抜いた“低空の回し蹴り”が顔面を直撃。異例ともいえるグラウンドからの顔面蹴り、さらに“一発レッド”という反則裁定を巡ってネットで波紋が広がっている。
4月15日にシンガポールで開催されたONE Championship『ONE ON TNT II』に参戦した日本の中原由貴が、シネチャツガ・ゼルトセトセグ(モンゴル)と対戦。2ラウンド、中原優勢の寝技の攻防からゼルトセトセグが顔面への蹴りを放ち、一発レッドで反則負けの裁定が下されるハプニングが起こった。
互いに強打を武器とする者同士の対戦。中原は3月、1年7カ月のブランクがありながらも、12戦無敗のラスラン・エミルベクを強烈な右フックで沈めている。一方、ゼルトセトセグは予測不能な変則的な動きから繰り出す強烈なパンチが魅力のファイターだ。中原は試合前に打ち合いを想定しつつ、近年取り組んでいる組みワザも披露したいと抱負を語っていた。
試合開始とともにゼルトセトセグが急発進で距離を縮め、右フックなど独特の打撃で攻め立てると、冷静な中原はタックルでテイクダウン。一度はゼルトセトセグが首を取ろうと試みるが、グラップリングでは中原が一枚上手か。中原がサイドポジションからパウンドやヒジで削ったが、まだ余力のある相手に立たれてフロントチョークを弾き飛ばされる。
ラウンド後半、スタンドでの打ち合いでは、ゼルトセトセグの変則フックが当たりはじめる。ゼルトセトセグが確実にフックをヒットさせると、ラウンド終了間際には中原の足下がフラつく場面もみられた。
2ラウンド、中原はパンチの打ち合いからミドルキック主体の距離を意識した戦術に変更すると、やや消耗したかパンチの勢いが消えたゼルトセトセグをテイクダウンする。ケージ際でヒジとパウンドを打ちつつチョークを狙う中原。一度は立たれるが、グラウンドで鉄槌やヒジを織り混ぜるとゼルトセトセグは防戦一方だ。
中原が着実に主導権を握るグラウンドでの攻防だったが、ラウンド残り30秒、意外かつスッキリしない幕切れを迎える。中原が左の足関節からヒールホールドで一本を狙いに行くと、グラウンド状態からゼルトセトセグが中原の顔面目掛けて低空の蹴りを打ち込んだ。中原が苦悶の表情を浮かべたところで試合がストップに。スロー映像でヒールを掴んでいる無防備の相手の顔面目掛けて蹴りを放ったゼルトセトセグが映し出されると視聴者からは「サッカーボールキックだ」「これは故意だな…」など非難の声が殺到した。
ABEMAで実況を務めた西達彦アナウンサーが「これは返したくて動いた足がキックになってしまったというイメージですか?」と解説の大沢ケンジに意見を求めると「多少当てようという気持ちもあったんじゃないですかね」と故意に近い攻撃なのではとの指摘が。
グラウンドでのヒザ攻撃が許されているONEのルールだが、寝た状態での蹴りは反則。しばしの中断を経て中原のダメージから試合続行不可能と判断したレフェリーが、ゼルトセトセグにレッドカードを提示し、中原の反則勝ちとなった。
この裁定を受けてゼルトセトセグは「対戦相手に謝りたい」としながらも「スピンしようとした際の偶然のアクシデント。抜けようとしたときに起きてしまった」と試合後のインタビューで弁明。これを聞いた大沢が釈然としない様子で「最後下で(足を)振ってますからね」と呟くと、視聴者からも「思いっきり蹴ってる」「ちゃんと見てから蹴ってる」など厳しい指摘が寄せられた。
この反則裁定については「当然の裁定」「悪意のある蹴り」など一発レッドを支持する声が多数。海外のSNSでも「グローバルルールでもサッカーボールキックは反則だ」「これは100パーセント意図的な反則行為、正しい裁定だと思う」などの意見が大勢を占めたが、なかには「わざとじゃないならイエローカードでも良かったのでは?」という意見も聞かれた。
中原は試合後「複雑な気持ちです。ルールが違えば負けていた。ただ、ルールが違えば、レッグロックのトライもやり方を変えていたので、そこは深く考える必要がないのかも知れませんが」などといったコメントを残している。
(C)ONE Championship