早稲田大学の“ある改革”が話題を呼んでいる。同大学で最難関とも言われる政治経済学部の受験科目が変わったのだ。これまでは外国語と国語が必須で、日本史、世界史、そして数学から選択する「3教科入試」を行っていたが、今年の試験から数学I・Aが必須科目になった。
この変更にネットでは「数学要る・要らない論争」が勃発。「文系が得意なのになんで理系勉強しなきゃいけないの」「文系でもなんでも数学の“考え方”は必要だ」などの声が寄せられ、物議を醸している。
大学入試が「センター試験」から「大学入学共通テスト」に変わった今年。文系に数学は本当に必要なのだろうか。ニュース番組『ABEMA Prime』では、専門家を交えて議論を行った。
■政治経済に“数学必須”は当然? 公式の暗記や計算力ではない「論理力」
2つのビールの缶の上に板を乗せ、さらにその上に置いた2台のメトロノーム。最初はバラバラだった2台のメトロノームの振れ幅が、徐々に同期していく。しかし、これは必ず起こる現象でもない。この同期現象の方程式は「蔵本予想」と呼ばれるが、40年間誰一人として数学的に証明できなかった難問だ。その謎を解き明かしたのが東北大学教授の数学者・千葉逸人氏。
【映像】なんで? 徐々に同期する2つのメトロノーム(3分ごろ~)
千葉氏が「解くのに6年かかった」と述べると、ネット掲示板『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「数式を出されて、解いていない人は(答えが)合っているかどうか分からないのではないか。合っているかどうか、その確認も含めて6年かかったのか」と質問。千葉氏は「私が解くのに6年かかった。論文を書いて、それを国際のジャーナルに出して、その後に数学の専門家がチェックする。そのチェックには2年かかった」と答えた。
しかし、前述のメトロノームの謎が分かったところで、それが社会に役立つのかというと疑問だ。千葉氏のような高度な数学知識はさておき、ひろゆき氏は「政治経済を学ぶなら数学は必須だ」と明言する。
「政治は統計で国民を判断しなくてはいけない。経済はそもそも数字を操るもの。政治経済を学ぶなら、数学必須は当然だ。政治や経済を学ぶ人が『自分は文系だから数学をやる必要はない』と考えるのは間違いだと思う。ただ『5カ国語が話せます』という人なら、難しい数学は必要ない。(政治経済以外の)文系科目だったら数学は要らないのでは」
ひろゆき氏の意見に千葉氏は「全く同感だ」と答える。
「政治経済で必要なのは当然。経済学で数字を扱うと言えば、皆さんわかると思うが、政治は新しい政策を打ち出していかないといけない。そのために、すでに知られている理論や公式を使っても先に進まない。いろいろな理論を組み合わせて、そこに自分のアイデアを組み入れることで、新しい政策が生まれる。そのためには、やはりただの公式の暗記や計算力ではなく、論理力が必要。数学はその論理力、ロジックを鍛えるための勉強だ」
高校教育では、数学I・II・III、数学A・Bが現行科目となっている。千葉氏は、どれくらいのレベルまで必要と見ているのだろうか。
「具体的にどの知識を使うかの問題ではない。例えば、中学校3年生や高校1年生で『数学を勉強しなくていい』となってしまったら、そこで勉強するのをやめてしまう。私はそこがあまりよくないと思う。思考力を鍛えるには、継続的にずっと考えていく必要がある」
ひろゆき氏も「政策がうまくいっているか、何人ぐらいの人に『こういう形で影響がありました』というのは、分散分析などをやらないと、本当に成果があったのかどうか、数字として示せないと思う」と話す。その上で「(政治や経済を学ぶ人は)高校の数学は越えていないと難しいのではないだろうか?」と千葉氏に投げかける。
千葉氏は「その通りだ。統計学はとても大事」といい、「近年の傾向はデータ分析などの統計学がかなり重要視されている」と述べた。
政治経済を学ばない文系はどうだろうか。千葉氏は「あまり数学とは関係ない答えになるが」と前置きした上で「全員が学ぶ必要はない。でも知識や教養は、自分の生活が豊かになるためにある。例えば、旅行でお寺に行ったとき、お寺の背景にある歴史を知っていると、ちょっと楽しい。そういうもんだと思う」と自身の考えを示した。
■「英語はできて当たり前」 割り勘ができない数学者も?
千葉氏の話を聞いたひろゆき氏は「語学はどうか。英語はある程度できないと世界の数学者として厳しいのだろうか」と質問。千葉氏は「普段の会話は英語でやっている。できて当たり前だ」と答える。
数学者として生きるには、英語は必須科目のようだ。では、一般的な計算力はどれくらい必要なのだろうか。
「計算力はもちろんあるに越したことはないが、癖をつけておくことが大事だ。理論的な考え方をする癖をつけておくことがすごく大事。そのためには継続的に、あるいは定期的に数学や他の分野で、論理的な考え方を学ぶ機会を持っておく必要がある」
また、数学者の中にはレベルの高い研究をやりすぎて、簡単な掛け算や割り算ができなくなってしまうこともあるという。
「数学者同士で飲み会に行ったときに、割り勘の計算が誰もできないことがあった。もちろん計算力は大事で、研究にあたって、その上に抽象化した理論が乗ってくる。大学の教員など、研究レベルになると、ほとんどXやYを使った抽象的な計算ばかりやる。そればっかりやっていると、掛け算や割り算が逆にできなくなっちゃう」
千葉氏自身は、実生活の中で数学が役に立った場面はあるのだろうか。
「私は仕事が数学なので、境目が微妙だ。あまり数学とは関係ないかもしれないが、以前、バリ島に旅行に行ったとき、スキューバダイビングのツアーでフェリーに乗った。かなり揺れていて、乗っている人が吐いている中、私は1階の中央、ど真ん中のところで仁王立ちしていたので楽だった。そういう判断が一瞬でできる」
思わぬところで役立つ数学の知識。数学を極めることで、生涯年収にも影響があるのだろうか。
千葉氏は「日本のデータでそれほど差がない」とした上で「アメリカでは非常に顕著だ。例えば、GoogleやAppleは数学の博士号を持っている人をどんどん採用している。アメリカでは数学でドクター(博士号)を取ると、就職はもう引く手あまただ。日本はその点ではちょっと遅れている」と語る。
物議を醸している数学の必要性。千葉氏の話を聞くと、数学的な考えは、あらゆる分野や職業に通じているように感じる。
(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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