アスリートや芸術家、ビジネスの世界で活躍する人など、さまざまなジャンルを代表し、30歳未満の人物が選出されるForbes誌の「30 UNDER 30」。今年、全アジアの代表として、ある1人の日本人コメディアンが選ばれた。
選出されたのは、スタンダップコメディアンのSaku Yanagawaさん(柳川朔さん/28歳)。一体どのような人物なのか、取材した。
「僕の仕事はスタッダップコメディアンという仕事なのですが、マイク一本でお客さんの前に立ってジョークを言う芸能をアメリカでずっとやっています」
大学生のとき、アメリカでお笑いをやりたい衝動に駆られ、ニューヨークに向かった柳川さん。渡米後は登録すればだれでも参加できるオープンマイクの舞台を次々と経験。今はシカゴを拠点に活動を続けている。
日本人にはあまりなじみのないスタンダップコメディ。そもそも、どのようなものなのだろうか。柳川さんのYouTubeでは、柳川さんがマイク1本で観客を沸かせるパフォーマンス風景が公開されている。
【映像】ネタのテーマは「脱自虐」柳川さんのパフォーマンス風景(4分ごろ~)
「去年2月のことを今でも覚えているよ。ドナルド・トランプが新型コロナウイルスを『チャイナウイルス』って呼んでいたことを。おかしな話だよ、本当に。その1カ月後に僕がシカゴでステージに上がっていたとき、観客の1人が僕に向かって叫んできたんだ。『おい!コロナ!』って」
舞台で饒舌な英語でトークする柳川さん。会場からは笑いが聞こえる。
「でもね、その男性は“ハイネケン”(※オランダのビールブランド)を飲んでいたんだよ。だから、こう言ったんだ。『ウエーターさん、すみません! あのレイシストに3本コロナビールを持って行ってあげて!』。誰がそのビールのお金を払うかって??(コロナビールを製造している)メキシコだよ」
■ ネタは「毎回デーブ・スペクターさんに送る」 高評価はあえてボツに?
日本人の感覚だと、アメリカンジョークの面白さが分からず、ハードルがある人もいる。取材スタッフに、柳川さんは「アメリカンジョークがおもんないという認識になったのはデーブ・スペクターさんのせいなので」と笑う。
「僕、デーブさんにすごくお世話になっているんです。毎回ネタを書いて、とりあえずデーブさんに一回送っています。デーブさんが『面白い』と言ったものに関しては全部ボツにして、『面白くない』と言ったものだけを使うようにしています。
ジョークを交えながら、ネタの良き相談相手として、デーブ・スペクターさんを挙げる柳川さん。新型コロナウイルスの蔓延やアメリカで広がるアジア系への偏見をブラックジョークに変えているネタもあるという。
「今日の日本のお笑いと(スタンダップコメディを)比べたときに、政治的なジョークが含まれる率は高い。すべてが政治の話である必要はないが、今の時代のギリギリのラインがどこにあるのか。それに対して、一番敏感でなければいけない仕事です。だからこそ、無知でステージに立つことは罪だと思います。ルーティーンとして、朝起きて新聞を8紙読むようにしています。その上で、批判覚悟でもギリギリのところをついていく。自分の視点を笑いで届ける。それがコメディアンに求められている一番の仕事だと思う。それをやり続けたとき、社会的にもステージに立つ意義がある」
舞台に立ち、観客と向き合う中で感じる、シビアでありながら、人種や思想を問わず面白ければ笑ってくれるアメリカのお笑いの土壌。今後もマイク1本で挑戦を続けていくと、柳川さんは語る。
「過去のアジア系のコメディアンもたくさんアメリカで活動してきたと思いますが、自分の人種のステレオタイプをあえて誇張したり、そこを半ば自虐的にジョークにしたり、それを笑いに昇華してきた歴史がある。例えば、アジア系だったら目が細いとか。それって確かに簡単に笑いは取れるのですが『ステレオタイプを助長しているだけなんじゃないか』という疑問が僕自身の中でありました。今ダイバーシティ(多様性)が叫ばれている中で、ようやく脱自虐の時代に来ているんじゃないかと思う。それぞれの人種やジェンダーに誇りをもってジョークをかけていっていい時代になってきている」
ネタを作るときは、脱自虐の作風を心掛けていると話す柳川さん。将来の夢として描いている“ある番組”に言及する。
「アメリカでずっと続いている『サタデー・ナイト・ライブ』という番組があります。政治風刺をしながら、ギリギリのラインを意識的についていく番組です。僕はその番組の日本人初のレギュラーになりたい。それをずっと掲げて、シカゴにいます」
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