4.29 名古屋大会のメインイベント、王者・武藤敬司がマサ北宮の挑戦を受けたGHCヘビー級王座2度目の防衛戦。
挑戦者のマサ北宮は、健介オフィスの新人時代から故・マサ斎藤さんに鍛えられ、その生き様とレスリングに憧れ「マサ」の名を引き継いだ継承者。一方、王者・武藤にとってもマサさんは心の師であり、同じアメリカマット界でトップを張りリスペクトし合った特別な存在だ。
世代も歩んできた道も異なるものの「マサ斎藤」という共通項を持った両者のタイトル戦は、生前のマサさんが理想とした、技と技、力と力、そして魂と魂がぶつかり合う闘いとなった。
試合前、武藤に「あいつ(北宮)が、マサ斎藤イズムを受け継いでいいのか、俺が査定してやる」と、上から目線で語られた北宮は、普段着用している金剛のイメージカラーである赤のタイツではなく、マサさんと同じ“日の丸”と「JAPAN」の文字が入った黒のニータイツで登場。
「身長がなければ、横幅をデカくしろ」というマサさんの教え通り、ウエートも105kgから110kgに増やしパンプアップ。肉体の説得力で、無言のうちに自らが“マサの継承者”である覚悟のほどを示してみせた。
北宮は試合でも、マサさんの座右の銘である「GO FOR BROKE(当たって砕けろ)」を実践するような闘いを見せた。武藤のドラゴンスクリューやシャイニング・ウィザードを食らいながらも、痛みをこらえてガンガン向かっていき、ラリアット、スピアー、そしてマサさんから受け継いだサイトー・スープレックス(ひねりを加えたバックドロップ)で追い込んでいく。
そして試合が佳境に入ると、ついに監獄固めで捕獲。4.18後楽園での前哨戦では、人工関節が入った武藤のヒザにこの技を仕掛け、さらにそのまま頭突きで流血させてギブアップ勝ちを奪っている。この日も同じように監獄固めを決め、悲鳴をあげる武藤に頭突きを入れ追い込むが、今回は打ったほうの北宮の額が割れた。
この思いがけない流血でやや冷静さを失った北宮は、ロープに逃れた武藤に対し、レフェリーの制止も聞かずに攻撃を続行。そして止めに入ったレフェリーをマットに倒すと、武藤はこの機を見逃さず、四つん這いになったレフェリーを踏み台にしてのシャイニング・ウィザードを発射!
さらに前と後ろからシャイニングを決め、最後は狙い定めたトドメの正調シャイニング・ウィザードで北宮を吹っ飛ばし、3カウントを奪取。GHCヘビー級王座2度目の防衛に成功した。
ヒザに爆弾を抱え、試合中も監獄固めなどで散々ヒザを痛めつけられた武藤が、自らのヒザの状態も顧みず発射したシャイニングの乱れ打ちは、まさに武藤流のGO FOR BROKE! 当たって砕けろのマサ斎藤イズムだったのだろう。
試合後、M’s allianceの丸藤正道、田中将斗、望月成晃がリングに上がり武藤を祝福。そして丸藤がマイクを握ると、「武藤さんに闘ってほしい男がいます。そのベルトを懸けて、丸藤正道はいかがでしょうか?」と対戦をアピール。一瞬、戸惑いを見せた武藤だったが、プロレスLOVEのウルフサインでタッチを交わし、挑戦受諾の意思を示した。
丸藤は、ノアの旗揚げ当初から「次世代のエース」として期待されながら、故・三沢光晴さんを破ってGHCのベルトを巻くことができなかった。今回は、その三沢さんの永遠のライバルだった武藤からGHCを奪い、自分の夢をかなえようとしているのだ。
バックステージで武藤は、「マサ北宮、アッパレだよ。俺は当初、『マサ斎藤のイズムを受け継いでいいかどうか』と言ったけど、受け継いでいいよ。俺が後見人になってやるよ。彼にはまだ伸びしろがある。これから精進して、マサ斎藤の名前を汚さないように頑張ってほしい」と、北宮をマサさんの後継者として認めた。
そして丸藤に対しては「たぶん、三沢社長に訊ねたら『武藤、(丸藤と)やってくれよ』って言うような気がする。丸藤が本来のノアのレガシーを引き継いでるだろうから」と、挑戦受諾を正式表明した上で、「俺はタイトルマッチ数戦やってコンディションがいいから。丸藤も俺のことをナメてきたら、ちょっと違うと思うよ」と、V3に自信を見せた。
歴史と未来が交差する現在のノアマット。プロレス界の歴史を背負うGHC王者・武藤は、マサ斎藤の後継者を打ち破り、次は三沢光晴の後継者を真っ向から迎え撃つ覚悟だ。
写真/プロレスリング・ノア