“バーチャル鑑賞”も可能に? コロナ禍で進化するボリュメトリック技術の可能性
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 繰り返される印象的な「おいさ」のフレーズと縦横無尽に動くカメラワーク。九州を拠点に活動するアイドルグループ「ばってん少女隊」が歌う『OiSa』のミュージックビデオだ。

【映像】まるで目の前にいるみたい…! ばってん少女隊『OiSa』ミュージックビデオ(冒頭~)

 日本の伝統芸能「能」の舞台である能楽堂が融合したこの映像では、最新の「ボリュメトリックビデオ技術」が使われている。ポリュメトリックビデオ技術とは、撮影された画像から3D空間を再構成する技術。通常のビデオの場合、複数のカメラで撮影された映像をシーンごとに切り替えてつなぐ必要がある。しかし、この技術ではスタジオに設置された100台以上のカメラによって撮影された空間全体をデータ化。そのデータから空間内の自由な位置、さまざまな角度からの映像を作成できる。また、作成された映像には、あらゆる背景を差し込むことが可能だ。

 ボリュメトリックビデオ技術では、通常の撮影技術では見られない角度からも空間を捉えることができる。時には鳥の目のように俯瞰し、時には接近してアーティストのパフォーマンスを鑑賞することも可能だ。

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 撮影の裏側を覗いてみると、カメラで撮っている映像をコンピューターで画像処理していた。3次元の立体モデルなどと同じように立体になっているため、ファンが好きな“推し”のメンバーだけを選んでその映像を見ることもできるという。

 ばってん少女隊のメンバー・瀬田さくらさんは「いつもは見えない角度からメンバーの振付が見えた」と話す。

「今までミュージックビデオでいろいろな撮影を体験しましたが、前側からしか撮ったことがなかった。今日撮影したのは360度よりももっと全体、どこからでも見えるような撮影をしていただいた。振付でもいつも見えないところが見えて『あ、みんなここはこんな風にしていたんだ』と勉強にもなった。ファンの方々にも『ここでこんな風にしてるんだ』と気付いてもらえるんじゃないかなと思います」(ばってん少女隊・瀬田さくらさん)

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 作り手のみならず、演者のパフォーマンスにも大きな変化をもたらす「ボリュメトリックビデオ技術」。今回、このミュージックビデオ制作に協力したキヤノンの神谷さんに話を聞いた。

「ボリュメトリックビデオ技術は一言で言うと、空間全体の情報をパソコンのデータに瞬時に変換する技術。弊社のスタジオだと100台を超えるカメラを使って、そこの中にいる人や物などの形の情報をコンピュータデータに変換している。データにした後に映像を作っている」(以下、神谷さん)

 キヤノンでは去年7月、神奈川県川崎市にボリュメトリックビデオ技術専用のスタジオをオープン。スタジオに設置された100台以上のカメラで撮影された映像は瞬時にデータ化され、新たな映像として再構成される。この技術によって、神谷さんは「映像制作により奥行きが出る」と話す。

「演者さんが演じた演技が失敗するテイクがあるじゃないですか。そういうのを固定したカメラから撮った映像だと、その視点からしか見られない。ボリュメトリックビデオ技術ならその裏側に回り込んで、確認できる。だから、撮影の後で編集時に『失敗してたね』というミスがなくなる」

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 神谷さんによるとボリュメトリックビデオ技術を開発する上で最も苦労した点は「リアルタイムに映像を処理すること」だったという。

「膨大なデータをリアルタイムに処理するところに一番苦労しました。弊社のスタジオではテレビと同じフレームレートで撮影ができる。膨大なデータを、従来は数週間かけて処理をしていて、ボリュメトリックビデオ技術ではそれをリアルタイムで処理する必要があった」

 キヤノンは、すでに2019年のラグビーワールドカップにおいて、ボリュメトリックビデオ技術を提供。今後は映像制作のみならず、スポーツシーンの撮影やアプリの開発など、技術がより人々の身近な存在になるよう目指している。

「今後はやはり自由に視点を選べるところを皆さんに使っていただきたい。カメラやプリンターなどではいろいろやっていますが、それと違った新しい新規事業の分野で、柱として育てていきたい」

■ 無観客試合でも「現実のスタジアムにいるような感覚に」 “デジタルツイン”への期待

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 ボリュメトリックの技術に『WIRED』日本版編集長・松島倫明氏は「エンターテインメントとの付き合い方が根本的に変わるだろう」と話す。

「映像データ処理技術は日々進化している。また、この1年(コロナ禍の)パンデミックの中で、エンターテインメントをどのように見せるか創意工夫されてきた。自分で視点を決める“自由視点”で映像が見られるようになれば、エンターテインメントとの付き合い方が根本的に変わるだろう。スポーツも『このアングルから見たい』という需要はすごく高い」(以下、松島倫明氏)

 また、松島氏が編集長を務める『WIRED』日本版でも過去に「デジタルツイン」を特集。“デジタルの双子”を意味するデジタルツインとは、現実世界の環境を仮想空間で再現する技術だ。

 2020年12月発行の『WIRED』日本版日本版VOL.39によると、5Gの普及によって遅延がなくなれば、リアルとデジタルを行き来できるようになるという。自宅にいながら自分の3Dアバターで遠い国のアウェイ戦を間近で見られる「バーチャルスタジアム観戦」が可能になり、仮想空間上でさまざまなシミュレーションが行えることで、混雑状況の分析や感染症対策の推進などにも活用できるとしている。

「選手のプレイもデジタルツインによって現実のように観戦できるし、観客自身もアバターとなってあたかも現実のスタジアムにいるような感覚で観戦できる。東京五輪・パラリンピックがもし無観客でも、2019年のラグビーワールドカップのようにボリュメトリックビデオ技術を使うことができれば、100年後にも残るレガシー(遺産)になるだろう」

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

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