日本の外国人制度の根底に“長く定着して欲しくない”という考え方が? 見送られた入管法改正案から考える
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 外国人の収容や送還のルールを見直す入管法改正案について政府与党は18日、今国会での成立を断念した。

 改正案をめぐっては、今年3月に入管施設(名古屋出入国在留管理局)に収容されていたスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが死亡した問題の真相解明を求める野党と与党が対立し、審議が難航。野党側は収容中のビデオ映像の公開を与党が拒否したため、義家法務委員長の解任決議案を衆議院に提出。会期末も近づく中、全ての法案審議を拒否する意向を示したため、政府与党は成立断念に追い込まれた。法案は事実上の廃案となる見通しだ。

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■“半永久的に送還できない人が増えてしまう”という危機感か

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 現行法では、難民申請の手続き中の外国人については本国へ送り返されることはなかったが、それを逆手にとり申請を繰り返す外国人もいたことから、入管施設での収容が長期化する問題が浮上していた。与党はこの点を踏まえ、3回目以降の難民申請者については原則、国へ送り返すことを可能にしようとしていたのだ。

 18年にわたって入国管理局に勤務、現在は「未来入管フォーラム」代表を務める木下洋一さんは次のように話す。

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 「基本的には“オーバーステイ”が発覚すれば強制送還されることになっていて、現時点で約8万人が該当している。ただ、多くの場合はオーバーステイが発覚すれば自分で帰国するし、結婚して家族を持っているような人などに関しては入管の裁量による“在留特別許可“の制度で“正規在留者”として認定されるケースもある。一方で、約3000人が“帰国すれば迫害される”などとして送還を拒んでいるといわれていて、この人達を入管では“送還忌避者”と呼んでいる。

 僕自身は難民の認定業務に直接携わったことはないが、窓口などで申請の受付をしていると、切実な事情を抱えた方もいる一方、申請すれば6カ月後には働くことができるという規定があるので、“難民じゃないけど仕事がしたいから”という方もいらっしゃる。入管側に言わせると、難民申請をしている限りは送還されない“送還停止効”という制度を使うことによって、半永久的に送還できない人が増えてしまうという危機感があった。そこで回数を決めて送還できるようにしようという発想になっていったのだと思う。

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 入管法の一番の問題は、役所に巨大な裁量権を与えていることだ。半世紀ぐらい前、ある法務官僚が“外国人は煮て食おうが焼いて食おうが自由だ”と言って国会で問題になったことがあるようだが、現実は本当にフリーハンドで外国人のビザを左右することができるし、それを統制するシステムもない。非常に慎重な手続きを取る刑事手続きと違って、人を収容、つまり身柄を拘束するのにも裁判所の令状が要らない。主任審査官という入管の職員が発布するだけで、収容から送還に至るまでの司法も第三者機関も全くタッチしない。完全にブラックボックスだ。

 それでも入管職員に人権感覚がないとか、決してそういうわけではないと思う。私のかつての同僚たちも、みんな優秀な人たちだったし、多かれ少なかれ問題意識は持っていたと思う。しかし公務員である以上、入管法に従うというのが役目だ…」。

■入国の管理をする役所が難民保護も担う現状

 政府与党の改正案について立憲民主党の安住淳国対委員長は「対象になっている外国人の方々が3回目には強制的にこの国を出されるんじゃないかという恐怖心を持っている。この恐怖心を持たせたところに、この法案の核心がある」と指摘。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)も「非常に重大な懸念を生じさせる様々な側面がある」との声明を発表。 

 また、トルコ出身で日本在住のクルド人たちも先月、改正案への抗議集会を開き、母国に送還されれば“反体制派”として迫害され、命の危険に曝される恐れがあると懸念を示し、「迫害や差別を受けて逃げてきたのに、強制送還されたらどう思いますか?」「本国に帰ったら人生は終わりです」と訴えていた。

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 木下さんも「特にクルドの人たちに関しては、今まで1人も難民として認められていないという状況があるので、繰り返し申請をしてきたというケースがある。改正案が通ってしまえば、3回以上の申請として本国に送り返される可能性があるということで、大きな恐怖感を覚えていたと思う」と話す。

 「日本の難民認定のハードルが非常に高いと言われているのは、命からがら逃げてきた人に対して、“自分は難民だ”ということについての立証を求めるからだ。加えて“個別把握論”といって、“反政府組織に属しているからといって、リーダー的な存在じゃないなら帰国しても迫害の恐れはないのではないか”などと評価しがちなところがあるといわれる。

 もちろん日本も難民条約に加盟をしている以上、条約上の難民は保護しなければいけない。ただ、国によって難民認定のシステムには違いがあって、日本には独立した難民審査機関のようなものが存在していない。だから基本的には入国の管理をする役所であるはずの入管が、難民認定や難民保護の役割も行っているということだ。それが同じ組織で行われていることについては、どうかと思う」。

■“あまり長く定着して欲しくはない”という考え方が?

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 難民問題について取材を続けるジャーナリストの堀潤氏も「まずその人が難民であるかどうかを調査するための体制を作ってから、どのような人について申請を認めるのか、という議論がされるべきなのに、一足飛びに回数で切って送還するというのは、政府の不作為ではないか」と指摘する。

 「“私たちの仲間たちが次々と拘束され殺害されているので日本にやってきた”と説明したトルコ出身の方に対し、“あなたが銃口を向けられたわけではないですよね”と詰問をされたと聞いた。厳しすぎると思う。あるいは“大学院に所属していました”というシリア出身の方に、“証明はありますか。取り寄せられますか”と言ったというケース。まさに爆撃が行われていて、指導教員が生きているかさえどうかわからないのに」。

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 作家の乙武洋匡氏は「どうしても、“はいはい、またいつもメンバーが賛成して、またいつものメンバーが反対しているのね”で終わってしまいがちだが、そうではない。一昨年の外国人労働者の受け入れ問題を思い出してみると、自民党は支持者のために“いやいや、外国人を入れるつもりはない”。でも経済界の要請も聞き入れないといけないから“これくらいの期間ならオッケーだ”という、玉虫色の決着をしてしまった。人口が減っていく中で、外国人といかに共生する社会にしていくのか、拒み続けてゆっくりと衰えていく社会にしていくのか、ちゃんと議論しようよという骨太の議論をしなければならない」と訴えた。

 木下さんは「国としては外国からの労働力が欲しいはずだ。しかし日本の移民政策、外国人政策の根底には、“あまり長く定着して欲しくはない”“定着しない人ならウェルカムだ”という考え方があるのではないか。それが技能実習生制度によく表れていると思う。あれも3年、長くても5年居たら、後は帰ってくださいと、短い期間だけ日本で頑張って働いてください、というような制度の立て付けだ。難民についても、ずっと長く日本に定着する予定の人に関してなので、厳格な姿勢で臨んでいるという部分があるのかもしれない」との見方を示した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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