現在に至るまで数多くのアーティストを輩出し、入試倍率が約60倍になった学科もある超難関大学「東京藝術大学」、通称“藝大”。
・【映像】芸術界の天才集結!現代の秘境「東京藝大」はココが変?
そこに通う学生たちを取材、30万部を超え漫画化もされたノンフィクション『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』の著者・二宮敦人さんは「天才を集めて、巨匠を生む大学だ。他にそういう大学はないと思う」と話す。
「妻が彫刻科に在籍、その行動があまりにもおもしろかったので、調べ始めた」という二宮さん。
「例えば授業が終わって帰っていると、上半身裸で胸のところをハートマークで隠し、顔にブラジャーを仮面のようにつけて手を振る“正義のヒーローブラジャーウーマン”という人が現れていた。実は藝大の学生がやられていたようだが…。あるいは、“口笛世界チャンピオン”という人がいた。口笛で藝大に入った、最初で最後の男と言われていて、実際に技術は世界一。オーケストラに口笛のパートを入れられないかと本気で探求、今はプロの口笛奏者として活動されている」。
また、“卒業生の半分が行方不明になる”という都市伝説もあるようだ。「音楽や美術の世界を極めるために大学院に進むだけでなく、留学したり、アーティストとして活動を始めるという人が多いので、いわゆる“就職実績”としてはカウントできないことを“行方不明に見える”と、学生たちが自虐的に言っている面もあるということだ」。
■「新しい観客とし作品を観て頂く場を」
そんな藝大で先日、第1回「東京藝大アートフェス2021」がオンライン開催された。プロデュースしたのは、卒業生でもあるクリエイターの箭内道彦教授。「コロナ禍によって展示や演奏会ができず、若手芸術家の活躍の場が失われている。もちろん、収入も絶たれている。そういう中で、作品を発表できる場所を模索しようと始まった」。
作品は在校生だけでなく、卒業生からも寄せられ、300以上に達した。オンライン開催のため、世界中の人に作品を公開する事にも繋がった。「今まで美術館や展覧会、演奏会に足を運ぶきっかけがなかった方々や遠方の方々に、新しい観客として作品を観て頂く場になったと思う」。
グランプリに輝いた3作品のうちの一つ、川畑那奈さんの『WEATHER MAP』は9分間のアニメーション作品。混沌とした現代社会への強いメッセージがテーマで、ボールペンと墨汁のみで数万枚の原画を9カ月かけて描き上げた。次に、冷水乃栄流さんらによる、17弦の琴とオーケストラによるコラボ演奏、最後が、古澤龍さんの『Waves Etude -Interpolation-』だ。サイレント作品ながら、映像の中に引き込まれてしまうような感覚になる。
■「藝大だから学べることがある」
現役で藝大に入学、先端芸術表現科で現代アートや展示方法などを学んでいる川畑さん。周囲の多くの学生同様、元々はアニメーションとは関わりを持っていなかったというが、映像制作に興味を持ち、今はフリーランスの映像作家を目指している。
「先端芸術表現科では、何よりもコンセプトの作り方、どうしたら作品のテーマを伝えられるか、ということを教えてもらったような気がする。主にアニメーションで作品を作り続けようと思っていて、デザインやプログラミング、撮影など、フリーランスの仕事をしたりしながら、制作活動を続けられるようキャリアのステップを踏んでいきたい。ただ、制作に没頭しすぎて就職活動がおざなりになってしまうというのは、私も例外ではないと思うので、いつの間にか就職できていなかったみたいな感じになりそうだ(笑)。
東京藝術大学大学院を修了、映像や絵画、写真、さらには音楽メディアの制作も行っている古澤さんも、「藝大だったからこそ身についた技術はあると思う。絵画から映像、音楽など興味がある分野の授業を取ることで、各専門分野の知識も得られる。僕自身も、プログラミングやデジタルパブリケーションなど、ちょっと専門外のことを学びながら、扱う素材やメディアを広げていった」と話す。
■作品を買う文化がなかった日本
若新氏は「アートは勝ち負けがつかないもので、社会が求めるデザインとは違う。そして、天才は社会のみんなで応援するみたいな感覚は日本に無いような気がする」とコメント。
ジャーナリストの佐々木俊尚は「かつては教養を身につけるのが真っ当な大人だというような共有感覚があったから、みんなが美術館に行ったりしていたが、最近ではアートが好きな人はオタクだよねということになり、“憧れ”も無くなる。そういうふうにして、次第に社会に余裕がなくなってきているというところがあるのではないか。
例えば日本には欧米と違ってパトロンシステム、あるいは個人が作品を買うという文化が無くなってしまった。だから現代アーティストで食おうとすると、海外に出て行くか、クライアントワークのデザインや教師をしながら、“副業”として活動するしかない。しかし、これは音楽や文学、あるいはドキュメンタリーとかノンフィクションの世界も同様だ。自分がやりたいことが一般受けするとは限らないという悩みの中で、特に現代アートの人たちは割り切ってやってきたんだと思う」と話していた。
二宮さんが「最後の秘境だ」と話す藝大。これからも多数のアーティストを輩出していってほしい。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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