将棋界のレジェンドが、超早指しという局地戦で意地の勝ち越しだ。プロ将棋界唯一の団体戦「第4回ABEMAトーナメント」予選Cリーグ第2試合、チーム豊島とチーム羽生の対戦が5月29日に放送された。羽生善治九段(50)は相手のリーダー豊島将之竜王(叡王、31)に勝利、佐々木大地五段(25)に1勝1敗と、計2勝1敗で勝ち越した。チームはスコア2-5で敗れ、結果的にチームの全勝利を1人で稼ぐことに。予選通過には厳しい状況に追い込まれたが、数々の大記録を打ち立ててきた伝説の棋士は、優雅でかつ熱い対局でファンを魅了した。
持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算という超早指しのルールは、もともと羽生九段の着想から生まれたもの。個人戦だった第1回大会はベスト4に入ったものの、団体戦となった第3回大会では、藤井聡太王位・棋聖(18)、黒沢怜生五段(29)にそれぞれ連敗、まさかの4戦全敗という苦い思い出が残っていた。
今大会も、自身初戦は手痛い逆転負けから始まった。第3局に登場し佐々木五段に対して、序盤・中盤とはっきり優勢に。本人も「必勝だったはず」という内容だったが、終盤に入り佐々木五段に粘られたところから、よもやの敗戦。「最後の詰めのところが甘かった。非常に悔いが残る一局」と、笑みこそあったが悔しさは隠さなかった。
次の出番は、チームとしても後がない状況で回ってきた。第1局からチームはまさかの4連敗。第5局、自分が負ければストレート負けというところで、相手は再び佐々木五段。流れの悪さもあってか、レジェンドとはいえ苦戦するのでは、という雰囲気も強かった。ただ、ここで粘るのがタイトル99期を誇るレジェンド棋士。序盤こそリードを奪われたが「ここで負けてしまうと他の方に合わせる顔がなかった」とリーダーとしての責任も感じながら、二転三転する終盤をまとめ上げ、個人・チーム通じて今大会初勝利を手にした。
連投を決めた第6局は、さらなる強敵・豊島竜王が待ち構えていた。公式戦の通算でも、羽生九段が負け越している数少ない棋士。後手番から矢倉の出だしになると、終盤は1手違いの大激戦。相手の攻めに自玉が非常に危険な状態になるものの、なんとか残して逃げ切り勝ち。両者とも残り持ち時間が数秒という、周囲で見ている人々も呼吸ができないほどの一局を制すると「非常に際どい一局。最後に勝てたのは非常に幸運でした」と大きく息をついた。
対局内容でも大いにファンの心を踊らせたが、優雅な手つきでは心をきれいに洗い続けた。聞き手を務めていた千葉涼子女流四段(41)が「羽生先生は、すごく静かな手つき。フィッシャーで指しているのに、静かな湖面のよう」と表現すると、解説の伊藤真吾六段(39)も「羽生さんの手付きは美しいんですよ。指先が長くて、持ち方が本当にうまい。しなやかな美しさです」と絶賛した。勝負を決めるポイントでは指が震えることでも有名だが、その手つきだけでも魅せられるのは不世出の棋士ゆえだ。
試合全体を振り返った羽生九段は「このルールのおもしろさと厳しさ、両方が出たと思います。今回の試合は結果的に残念でしたけど、内容的にはチャンスがあった。次の試合では1つ1つのチャンスをしっかりつかみたいです」と、逆転での本戦出場へ前向きな姿勢を崩さなかった。次回の対戦は、チーム豊島に5-2で勝利したチーム木村。レジェンドが指す将棋を一局でも多く見たいのはファンの総意。そのことは、羽生九段が最も強く感じていることだろう。
◆第4回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名漏れした棋士がトーナメントを実施、上位3人が15チーム目を結成した。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)