立川ホテル殺傷事件に脳科学者・茂木健一郎氏「どのように使うかは人間側だ」 過激な動画と犯罪の関係性は?
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 東京・立川市のホテルで1日、男女が客の少年に刺され、死傷した事件。その後、警視庁はあきる野市に住む19歳の少年を男性に対する殺人未遂容疑で逮捕。少年は容疑を認めていて、女性殺害についても関与をほのめかしているという。

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 逮捕された少年は過激な動画に影響され、犯行に及んだと主張している。残虐的、暴力的な映像は実際の犯罪にどこまで影響があるのだろうか。ニュース番組『ABEMA Prime』では、専門家とともに考えた。

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 東京未来大学こども心理学部長で犯罪心理学者の出口保行氏は「常識的に考える殺人の枠組みから大きく外れている」と見方を示す。

「普通は殺人の背景には、怨恨や憤懣など、感情的なもつれがあって、それを晴らすために事件が起こる。しかし、今回の場合、初対面だろうと想定されている。そこに怨恨も憤懣もあるはずがない。そうなると、殺傷自体が目的の事件である。動機に感情的な部分はないのではないだろうか」

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 捜査関係者によると、少年は「人を殺す動画で刺激を受け、無理心中するところを撮影しようと思ったが女性に断られけんかになった」と供述しているという。暴力的な描写がある動画・漫画などは、犯罪にどのような影響を与えるのだろうか。出口氏は「動機の形成と実行は無関係だ」と話す。

「もちろん何かに興味を持って『やってみたい』と思うところまでは、誰でも持つ可能性がある。ところが、私たちはその先に待っているリスクとコストの2つを考える。リスクは実行後に検挙されるリスクの大きさ。コストは実行者が自分だと、周りが知ることで失ってしまうものの大きさだ。このリスクとコストが両方高い状況であれば、例えばどんな動機が形成されても、実行に踏み込むことはない。映画やドラマなどで影響を受ける、動機の形成まではある程度影響がある。だが、それらと実行に関しては無関係であると私は考えている」

 また、脳科学者の茂木健一郎氏も「脳の世界でもこういうことは非常によく研究されている」とコメント。その上で「どんな経験をしても結局統合して判断するのは前頭葉。前頭葉がちゃんと働いていれば、こういう(残虐な)行為は起こさない」と話す。

「動画やゲームといったものは、一つの要素に過ぎない。結局、前頭葉はそれまでの自分の人生のいろいろなことを総合的に判断して『これはしてはいけない』『これはやるべき』といった行動につながる。おそらく逮捕された少年は、幼少期からの“経験の豊かさ”が足りない。少年がどのような家庭環境だったのか分からないが、科学者の立場から言うと生育環境、家庭環境に答えがあるケースが実際多い」

 茂木氏の説明に、過去少年鑑別所に長く勤務していた出口氏も「そうだ。家庭の影響は本当に計り知れなく大きい」と同意。その上で「ただ、家庭の状況が悲惨であったからといって、それが全ての非行少年を生むのかといったら、そんなことはない」と答えた。

 ネット掲示板『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「こんな事件を起こすような人がなぜ生まれたか、みんな原因を知りたいのだと思う」と推測。

「家庭環境が悪いと、犯罪を起こす確率が高いのであれば『離婚は良くない』『DV(家庭内暴力)は良くない』といった情報を発信すべき。なぜ、動画や漫画の影響にしたがるのか、よくわからない」

■脳科学者・茂木健一郎氏、メディアの規制議論に苦言「使う側がどのように使うのかで変わる」

 少年について、これまでに分かっている情報は「子ども時代にいじめを受けていた」「職場に馴染めず転職し、引きこもっていた」といった内容だ。環境も1つの要因かもしれないが、メディアの暴力的コンテンツに影響され、罪を犯した場合、メディアを制限するべきなのだろうか。

 出口氏は「メディアを見て(爆弾の作り方などの)方法論や手続き論を模倣する可能性は当然ある」とした上で「ただ、その番組を見たから、ドラマを見たから、動画を見たから、と言って犯罪が後押しされるといった話にはならない。例えば、私たちが小さい頃に読んでいた童話も非常に残酷な内容のものが多い。では、その読み聞かせを受けたからといって、その子が将来事件を起こすか。そんなことはない。その部分をちゃんとすみ分けて考えないと、間違った、歪んだ認識をしてしまう」と述べた。

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 また、茂木氏は「ひろゆきさんが開設した匿名掲示板の『2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)』は、誹謗中傷の書き込みだけでなく『電車男』といった素晴らしい物語も生み出した」とコメント。

「立場上、ひろゆきさんは言いにくいと思うが、ネットの匿名性は“道具”の1つであって、それをどのように使うかは人間側だ。結局は、人間がどのように使うかだ。ネットはいろいろな情報を調べられる。それをポジティブに捉えれば、学術、脳科学者の僕たちが読む論文もGoogle Scholarを使って無料で読める。ネットの自由はそれを使う側がどのように使うのか、それで本当に変わる。なのに、“規制する”といった議論を生むのは本当にまずい」

 悲惨で残酷な事件が起きたとき、度々議論の俎上(そじょう)に乗せられる過激な動画や漫画、ゲームなどの影響。メディアにも正確な報道が求められている。

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

【映像】立川ホテル殺傷事件にひろゆき氏の見解
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