殴られても殴られても、時折笑顔すら浮かべて前進を続けるゾンビのようなファイターに視聴者が騒然。勝者より敗者の存在感が際立つ奇妙な試合展開に「ホラーすぎる」と驚きの声があがる一方、その迫力に気圧されたか、後退しながらも一方的に打撃を当て続けた勝者に「ストップ・ランニング」と異例の警告が発せられる珍事が発生。放送席が困惑する一幕があった。
6月11日に配信されたONE Championship「ONE: FULL BLAST II」でベン・ウィルヘルム(アメリカ)とアマルサナ・ツォゴーフ(モンゴル)が対戦し、ツォゴーフが終始強打でウィルヘルムを圧倒。しかし、ノーガードでパンチを貰い続けても顔色ひとつ変えず、ひたすら相手を追いかけ回すウィルヘルムのタフさと奇妙さがクローズアップされると「ホラーすぎる」「効いてるか効いてないかわからない…」など視聴者が騒然。驚きと戸惑いの声があがった。
ツォゴーフは空手やボクシングといったキャリアを経て総合格闘技に転向すると、前回の試合では元ONEライト級王者のエドゥアルド・フォラヤンを相手に健闘を見せた。対するウィルヘルムは今回が初参戦となる。グレイシー・テクニックス柔術アカデミーに所属し、5戦全てがフィニッシュ勝ち。“無敗のサブミッション・マスター”という触れ込みだ。
「打撃はあまり得意ではない」との前評判だったウィルヘルムだが、意外にもストライカーのツォゴーフを相手に序盤から距離を縮め、積極的にプレッシャーをかける。近い距離の攻防、ボコボコに殴られても前へ出て勝負するタフさに「殴って組むタイプかな」「けっこう貰ってるなぁウィルヘルム」「安定感がある」などの反応が聞かれる。
しかし、この日ABEMAでゲスト解説を務めた志朗は、序盤での打撃の攻防を観るなり「結構(2人に)差がある」と指摘。その言葉を裏づけるかのようにツォゴーフが至近距離からパンチを連打すると、それら全てがウィルヘルムにヒット。しかし、ウィルヘルムのタフさが異常だった。“効いてないよ”と言いたげなジェスチャーを見せながら前へ、前へと距離を詰めていくが…そのたびにパンチやヒザを次々と被弾するシーンが続く。
そんな様子に実況の西達彦アナウンサーが思わず「見えていません! ガードが上がってきません」と声をあげると、志朗も「ウィルヘルム厳しいですね。パンチも見えてないし、ハイキックも貰ってるし…」と明らかな実力差に困惑気味。
2ラウンドに入っても被弾と前進を繰り返すウィルヘルム、後退しながら強打を当て続けるツォゴーフという奇妙な攻防が続く。本来であればダウンしておかしくないパンチを貰っても、ウィルヘルムは手を広げ“打ってこいよ”と挑発のポーズ。そんななか、解説の大沢ケンジは試合中盤「パンチが想像以上に短い」とウィルヘルムの致命的な弱点を指摘。つまり、いくらパンチを打っても届かない。
3ラウンドに入ってもゾンビのように追い回し続けるタフな相手に、終始優勢のツォゴーフも明らかに攻め疲れた様子。解説陣もタガが外れたように「これだけ貰ってガードも上がってないのに前に出るのは凄い!」(西アナ)、「(対戦者は)精神的にも怖いし、スタミナも消費する。殴っていても怖い」(志朗)「生き物としてダメージを貰わない強さ」(西アナ)「スゴイ、怖いですよ」(大沢)など、ほとんど手数のないウィルヘルムを称賛しはじめる。
明らかにおかしな空気が流れる解説席。大沢が「サンドバックが追いかけてくる。サンドバックに手と足がついてふーっと追いかけてくるのを想像してみてください」と言い得て妙なコメント。すると、ここで珍事が起きる。ひたすら追いかけてくる相手を殴り続けたツォゴーフに対して、レフェリーが「ストップ・ランニング」と理不尽な警告を発する始末。これには大沢も「あれだけパンチ振ってるのに、怒られたのは殴ってる方。僕だったら『何で!? アイツ、手を出してないよ。歩いてるだけだよ』と思います」と声を上げた。
試合は当然ながらツォゴーフの判定勝ちとなったが、試合後は「ホラーすぎる」「攻撃しないロッタンみたい」「タフさは世界レベル」など、3ラウンド通してひたすら相手を追い回しては殴られ続けたウィルヘルムの異色すぎるファイトスタイルで持ち切りだった。