ここ数年で一大ブームを築いた「熟成」。芳醇な香り、凝縮されたうま味が噛みしめる度に広がると多くのファンを獲得した。その熟成が、より身近になる可能性が出てきた。
何の変哲もないように見える一枚の白い布、その名も「発酵力オイシート」。なんと、食材に巻くだけで誰でも簡単に熟成が楽しめるというのだ。4月からクラウドファンディングサイトで販売が始まり、支援総額は目標額50万円に対してすでに160万円を超えている。
開発を手掛けたのはミートエポック。かつて「エイジングシート」と呼ばれる業務用の熟成シートを使って、川崎市にある中央卸売北部市場と共同して魚の熟成化に挑戦。魚を腐らせずに熟成させるのは熟練した職人でも難しいと言われている中、「熟成魚」の商品化に成功し大きな話題となった。
そのエイジングシートを一般向けに改良したのが、今回のオイシートだ。肉や魚にオイシートを巻いてラップで包み冷蔵庫で5日間寝かせるだけで、誰でも腐らせずに熟成が可能だという。
『ABEMAヒルズ』は実際にサーモンで試してみた。辻歩キャスターは「においは腐ったような感じはしないですね、普通です。味は…おいしい! 普通のお刺身より深みが出ている感じがする」と話す。
共同開発した明治大学農学部の村上周一郎教授は、腐敗を防ぐカギとなるのはシートに付着させている「菌」だと言う。通常、空気中にある「腐敗菌」と「熟成菌」の両方が肉や魚に付着する。一方、オイシートで被えば、人間に無害な菌がバリアとなって腐敗菌がつく隙を与えず、熟成菌が増殖する。そのため安全に、おいしく熟成できるという。
「例えば菌の作用もありますし、場合によっては魚・肉自体にある元々のうまみを増していくような分解酵素の作用する時間・期間を延ばすこともできますから、そういったところで普段食べているものよりもうまみとかが増してくる」(村上教授)
業務用のエイジングシートからサイズや付着させる菌の量を調節して作られたこのオイシートの開発には、2年弱かかったという。ミートエポックの跡部美樹雄社長は、このオイシートがおいしく保存できる「新しい概念」として定着してほしいと話す。
「一般の方々は従来の腐敗速度、食品がダメになってしまう日数を、まずこのシートを使うことで改善できる。冷凍という技術は確かに日持ちさせるんですけど、物を解凍すると劣化してしまう。要はドリップ出てしまってパサつくような肉魚になってしまうので、このシートによって概念が変わっていくという世界観を最終的には作っていければ、今後皆さんのお役に立てるのではないかなと思っています」(跡部社長)
今後、オートメーション化や素材の改良をすることによって値段を下げて、各家庭や流通の「新しい保存方法」として定着させられればと跡部さんは話す。その先に見えるのはフードロス問題の改善だという。
「一般家庭でどうしても物を捨ててしまう、冷蔵の奥にあって忘れていたということもあるかと思うんですけど、こういったものを無くしていくこともできます。日本で取れた魚にこのシートをまいて、海外に流通させることでより日持ちをさせることができます。最後の最後までいい状態をキープしながらお届けすることによって、ロスになることが無くなるということ。もっと発展途上国に流通させることができれば、飢餓に苦しむ人たちにも美味しいものをお届けできるような世界が見えてくるんじゃないかと思っています」(同)
このオイシートの可能性について、化学者兼発明家でCRRA機構長の村木風海(かずみ)氏も興味津々だ。「バイオ系の研究で解剖などをする時に、サンプルを取っておきたいなと思う時がある。これは熟成させて食べる目的だが、こんなふうに長持ちさせるお手軽なシートが広まれば、研究者としてもいろいろなシートを作って使うこともできると思う。1枚800円ということだったが、この価格はものすごく安いと思っている。科学のこういう新しい製品を1000円切るような値段にするというのはものすごく大変なことで、僕も身にしみて感じるし、2年という期間でこれだけ安くなるのはすごいなと思う。僕としては価格や機能だけではなくて、そもそものワクワク感や熱意に共感してくださる人たちに広めることが、こういう新しい製品はまず大事ではないか」と期待を寄せた。
(ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)
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