政府の新型コロナ対策分科会は16日、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域で開催されるイベントについて、観客数の上限を1万人とする経過措置案を了承した。
会見で西村経済再生担当相は「今までであれば上限5000人もしくは50%という制限だったので、5万人入るスタジアムであれば2万5000人ということになってしまう。それを1万人に制限するということなので、より厳しい措置だということだ」と説明。「オリンピック・パラリンピックの観客の上限やあり方を今日決めたわけではない」とも強調している。
■「若者たちに自粛を強いるのはおかしいのではないか」
同日夜の『ABEMA Prime』に出演した元厚生労働省医系技官で作家の木村盛世医師は「今回の政府の発表は、オリンピック開催によって感染者数が増え、医療逼迫を起こしてしまうという理由からのものだと理解している。しかし、確認しておくべきことがある」と指摘する。
「まず、新型コロナウイルスと2年近く付き合ってきた結果、“新しいタイプの風邪のウイルス”だということが分かった。感染しても多くの人は無症状だし、症状が出ても通常の風邪かインフルエンザ程度。いま新規感染者数で最も多いのが20代だが、これらの人々のほとんどは無症状だ。ただし、ごくまれに重症化することがあり、特に高齢者の方はそのリスクが高く、死亡者が最も多いのが80代だ。
しかし、80代は外に出て酒を飲んで騒いでいるのだろうか。なぜ20代、30代に対して酒の自粛を勧めるのか、私にはよくわからない。病気は新型コロナウイルス感染症だけではないし、残念ながら自粛によって自殺者は11年ぶりに増えている。こうした現状や重症化したり死亡に至ったりする確率論から考えれば、若者たちに自粛を強いるのはおかしいのではないか。
欧米には日本の100倍程度の感染者数・死亡者数を経験している国もあることから考えれば、日本はG7の中で最も優等な国だということができるし、オリンピックを開催すること自体も無理ではないといえる。それなのに、なぜこれだけ感染者数にこだわり、3回も緊急事態宣言が出されて自粛を強いられるのかと言えば、医療提供体制が逼迫する可能性があるからだ。
では、この2年間、医療キャパシティはどのくらい上がってきたのか。オリンピックを開くためにも、政府はどのくらい努力をしてきたのか。例えば分科会の尾身会長のお膝元である自治医科大病院、あるいは日本医師会の中川会長の新さっぽろ脳神経外科病院などが率先してコロナ患者を引き受けた。それでも医療が逼迫しているということであれば国民も納得するだろう。
ところが分科会や医師会は、常に上から目線で“国民の我慢が足りないから困っているんだ。もっと我慢しなさい”と言うばかり。日本はそれほどひどい感染者数なのだろうか。それよりも、重症化への対策、重症者への対応を考えるべきだ。現在、日本に重症者用ベッドは約4200床くらいあるが、実際に使われているのは1200床だ。なぜかと言えば、大阪の患者は大阪で何とかしなさい、ということになっているからだ。
仮にオリンピックが開催されれば、東京を中心に感染者が広がることも予想されるだろう、その時には総理が命令し、ICUが搭載されている自衛隊のヘリを使って、国策として空きベッドのある他の地域に広域間搬送を実施すべきだ。去年3月に医療崩壊を起こしたイタリアでは、ドイツに重症者を運んだ。日本でも“オールジャパン”で対応しなければならないのに、そうしたことが抜けたまま、また観客数の制限や、人の動きを止めるといった施策に終始している。このままではオリンピックは無観客、あるいは開催してはならない」。
■「木村さんは見えている数字をマクロに捉えているだけではないか」
一方、これまでよりも強い感染力を持つという変異ウイルスが都内でも広がっており、16日の厚労省の専門家会議でも、開催期間中に緊急事態宣言が必要になる可能性があるという分析結果が報告されている。ワクチン接種が進み感染者数が減少していたイギリスでも変異株の影響により感染が再拡大、ロックダウンの全面解除が最大4週間延期されている。
元経産官僚の宇佐美典也氏は、木村医師の主張に対し「確率というものをどう捉えるかということだと思う」と反論する。
「木村さんは見えている数字をマクロに捉えて“結果として死んだ人が少ないからいいじゃん”というような主張をしているが、重症化や後遺症については全ての人に起きうるわけで、番組の元レギュラー出演者の石井正則さんも“入院していなかったら死んだかもしれない”と語っていた。eスポーツのプロゲーマーの梅原大吾さんも同じことを言っていたし、一緒にYouTubeチャンネルをやっている人も症状が悪化して入院中だ。
もしも重症者数が医療キャパシティの上限を超えてしまえば、間違いなく死亡する人が増えてくるわけで、私の周りの高齢者や同世代の免疫疾患のある人、自分が大事にしている家族が命の危機に曝されることがあるかもしれないということだ。やっぱり、そういうリスクが上がっていく状況は避けてほしい。
一方で、医師会の体質などの問題もあるだろうし、明日すぐに状況が変わるのだろうか。地域間搬送に関しても、例えば和歌山県の人たちは“なんで大阪府の患者をこっちで診なきゃいけないんだ”ということになるだろう。その意味でも、やはりできないことを言っているのではないか」。
ドワンゴ社長で慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏は「長期の話で言えば、いわゆる個人開業医が圧倒的に多い状況でやってきた日本の医療行政のツケが回ってきていることは確かだ。ただ、大病院に勤務医の方が待遇が良くないとか、そういうことを2年で直すことができたかと言えば、それは難しかっただろう。
そういう中でオリンピックを開催するというのであれば、入国してくる大会関係者やメディアの行動制限がポイントになるだろう。体調管理が第一の選手たちは絶対に飲みに行ったりはしないだろうが、競技連盟のおじさんやおばさん、あるいは報道関係者は“ひと仕事終わったから、六本木に飲みに行くぞ”となるのではないか。それをコントロールできるのかどうか。水際対策がまだまだ甘いという話もあるし、短期でできる対策を明確にしていってほしい」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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